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第18話冥王、除菌される



 押し寄せる暗黒の濁流。世界最強のSランク探索者たちすら身構える絶望の波動を前に、俺はただ、手元の『神聖迷宮再生の柄』のスイッチをパチリと切り替えた。

 新しく解放された、最高峰の洗浄モード。


「怨念および腐敗骨組織の同時分解。……特殊除菌洗剤、最大噴射ハイパー・サニタイズ

 ゴオォォォン!! と背中の魔導タンクが太陽のごとき眩い白光を放つ。

 ノズルから解き放たれたのは、泡ではない。部屋の隅々、分子レベルにまで一瞬で浸透する、超微細な『神聖除菌ミスト』だ。


 シューーーーーーーーーーーーーーッッ!!!


 純白の霧が、押し寄せる怨念の濁流と激突した。

 次の瞬間、ジュワァァァァァァッ! と、まるで耳元で炭酸をブチまけたような、凄まじい中和音がボス部屋全体に響き渡る。

 冥王が数百年かけて蓄積してきた最凶の呪いが、そのミストに触れた瞬間、ただの『爽やかなアロマの香りの空気』へと、一瞬で蒸発していったのだ。


『ガ……ッ!? ガアアアアアアアッッ!?!?』

 これには、ボスの冥王自身が一番大パニックを起こしていた。

 自分の力の源である「呪い」と「汚れ」が、なぜか得体の知れない良い香りの霧によって、見る見るうちに消滅していくのだから当然だ。


「よし、仕上げだ。お前のその骨、何百年も放置されてカビと埃がびっしりだからな。プロの技術できれいに磨いてやるよ」

 俺は黄金に輝くモップを両手で握り締め、虚空に向かって、大きく一閃した。

 ザーーッ!!


【スキル発動:神聖迷宮超極大環境再生アルティメット・クリーンアップ


 ピカァァァァァァァァァッッッ!!!

 デッキブラシの毛先から放たれたのは、もはや光の津波だった。

 その神聖な波動は、ボス部屋の壁や床にこびりついた汚れを秒速で消し去り、そのまま部屋の中央にいた巨大な冥王の身体をも丸ごと飲み込んだ。


『グ、ガ、ア……キ、キレイに……ナッテ、イク……ッ!?』

 冥王の骨にこびりついていた、ドス黒い怨念のシミやカビが、凄まじい勢いで洗い流されていく。

 そして、すべての汚れが落ち、完全なる「純白の綺麗な骨」になった瞬間ーー。


 パキィィィン……! と、ガラスが割れるような美しい音が響いた。

 ダンジョンのボスとは、迷宮の「バグ」や「汚れ」が具現化した存在。すなわち、完璧に除菌・清掃されて不純物がゼロになった瞬間、その存在自体が「無害な資源」として昇華されてしまうのだ。


 十メートルを超える巨体が光の粒子となって崩壊し、後には、見たこともない巨大な虹色の結晶がゴロゴロと転がった。


『ピコーン! ピコーン! ピコーン!』

【S級ダンジョン『黄泉の門』の完全環境再生を達成しました】

【世界初:戦わずにボスを完全消去クリーンアウトしました】

【清掃報酬:冥王の心臓(世界に一つだけの神話級レア魔石)を入手しました】

【環境の劇的改善により、世界の理を変える『超越神箱』が出現します】


 静まり返る部屋。

 新築ホテルのスイートルーム以上にピカピカになり、森林の香りが漂う最深部で、神城さん、ゴウ、リンの三人は、完全に魂が抜けたような顔で、その場に棒立ちになっていた。


「た、戦わずに……S級のボスが、除菌されて消えた……?」

 リンがうわごとのように呟く。

「入江の旦那……あんた、探索者ギルドの歴史を、一瞬で終わらせちまったよ……」

 ゴウが戦慄した表情で、俺の持つデッキブラシを見つめていた。


 世界最強のギルドが総力を挙げても勝てなかった最凶のボスを、俺はただ『一振りのお掃除』で、無傷のまま、お宝に変えてみせたのだ。

 元ギルドの無能どもが汚物の中で泣き叫んでいる頃、俺の【特殊清掃】スキルは、ついに国家はおろか「世界の常識」をも支配する、唯一無二の神の領域へと到達しようとしていた。


読んでいただきありがとうございます!

次回もお楽しみに!

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