第17話S級最深部、冥王の部屋
神のモップ『神聖迷宮再生の柄』を手に入れた俺の清掃スピードは、もはや天災の領域だった。
地下四階、五階、六階……と、本来なら世界屈指の精鋭たちが数ヶ月かけて攻略するはずの凶悪なエリアを、俺はただ『ブラシを一振りするだけ』で、瞬時にチリ一つないクリーンルームへと変えていった。
溢れ出るお宝、そして爆速で上がり続けるレベル。
護衛のSランク探索者であるゴウとリンの二人は、もはや驚くのを通り越して、俺の後ろをただポカンと口を開けてついてくるだけのマスコットと化していた。
「ーーここが、最深部。ボス部屋ですね」
俺たちはついに、地下十階の巨大な漆黒の門の前に立っていた。
門の隙間からは、これまでとは桁違いの、世界を滅ぼしかねないほどの漆黒のプレプレッシャーが漏れ出している。
「入江様、ここから先はS級ダンジョンの主、『黄泉の冥王』の領域です」
神城さんが、かつてないほど真剣な表情で俺の前に出た。
「過去に一度だけ我がギルドが挑みましたが、討伐に失敗し、多くの犠牲を出して撤退した最凶の死霊魔獣。戦闘が始まったら、ゴウ、リン、私の三人で命に代えても入江様を守ります。あなたはどうか、後ろの安全な場所へ……」
「いや、神城さん。その必要はありませんよ」
俺は首を横に振り、静かに漆黒の門へと手をかけた。
「……え?」
「プロの清掃員として言わせてもらうと、この奥、めちゃくちゃ『カビ臭い』です。ボスを倒す前に、まず換気と除菌をしないと、皆さんの健康に悪影響が出ますから」
「カ、カビ……!?」
神城さんが呆然とする中、俺は重々しい門を力任せに押し開けた。
ギギギィィィ……!
開かれた視界の奥。そこに鎮座していたのは、数千、数万の死者の怨念をその身にまとった、体長十メートルを超える巨大な骨の魔王だった。
『オォォォォォォォオオオオオッッ!!!』
世界を震わせる冥王の咆哮。と同時に、部屋全体から、浴びるだけで精神を崩壊させる暗黒の『怨念汚泥』が、濁流となって俺たちに向かって押し寄せてきた。
「危ないっ! 全員、最大出力の防御結界をーー!」
神城さんが叫び、魔法の杖を構えた瞬間。
「ーーお待たせしました。本日の定期清掃(・ ・ ・ ・ ・)に入ります」
俺は一歩前へ出ると、神のモップを静かに構えた。
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