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第16話破滅への秒読み


「おい! 入江の居場所はまだ分からないのか!」

 ギルド『天穿』のオフィスでは、マスターのクレイが、書類を周囲に撒き散らしながら発狂していた。

 彼のプライドを木っ端微塵に打ち砕いたカフェでの一件から、わずか一日。天穿の財政状況は、もはや「倒産」の二文字が現実味を帯びるほどに悪化していた。


「だ、ダメです、クレイさん! 入江の携帯は繋がらず、自宅のマンションもすでに引き払われて空室になっています! それに……」

 事務局長がガタガタと震えながら、スマホの画面を提示した。

「我がギルドのメイン収入源だった『地下三階の管理権』ですが、政府の環境省から『深刻な呪詛汚染による周囲への健康被害の恐れあり』として、正式に【無期限の立ち入り禁止処分】が下されました……!」


「な、何だとぉぉぉーーっ!?」

 クレイの大絶叫が響く。

 ダンジョンの管理権を止められるということは、ギルドの収入が完全にゼロになることを意味する。さらに最悪なのは、汚染を放置したギルドに対する、莫大な『環境ペナルティ罰金』の請求書だった。


 画面に表示された金額は、なんと【3億円】。

 入江 湊がいれば、毎日タダ同然で、しかも完璧に中和してくれていた汚れだ。それを「誰でもできる仕事」と侮り、放置した結果が、これだけの巨額の負債となって返ってきたのだ。


「そんな金、今のうちの口座にあるわけねえだろ! 嫌だ、俺はAランク探索者だぞ! こんなことで破産してたまるか!」

 クレイが頭を抱えてのたうち回っていると、オフィスの扉がバターン!と乱暴に開け放たれた。


「クレイ! 貴様、よくも俺たちを騙してくれたな!」

 入ってきたのは、天穿の第二部隊を率いる実力派の探索者たちだった。彼らの顔は怒りで真っ赤に染まり、クレイを殺さんばかりの勢いで詰め寄る。

「お前、入江をクビにするとき『これからはコストカットで、お前らの報酬を上げてやる』って言ったよな!? なのに何だこれは! 地下三階の毒ガスのせいで、俺たちの高級な防具は全部ボロボロだ! 修理費すらギルドから出ないってどういうことだ!」


「そ、それは……今ちょっとギルドのキャッシュが、だな……」

「ふざけるな! 入江がいた頃は、怪我をしても次の日にはダンジョンの空気が綺麗だからすぐに回復できたし、装備が腐食することなんて一度もなかった! あいつが全部、裏で俺たちのために完璧な環境を整えてくれていたから、俺たちは安全に戦えてたんだ!」

 前衛の戦士が、クレイの胸ぐらを乱暴に掴み上げる。


「あいつをゴミ扱いして追い出したのはお前だ、クレイ! 俺たちはもうこんな泥舟ギルドには付き合ってられん! 今日限りで、全員天穿を辞めさせてもらう!」

「ま、待て! お前らが抜けたら、うちのギルドは本当に終わりだ!」

「知るか! 自分のケツも拭けない無能なマスターに、ついていく奴なんて誰もいないよ!」


 部下たちはクレイを床に突き飛ばすと、叩きつけるように辞職届を置いて部屋を出て行った。

 たった数日前まで、東京でも有数の勢力を誇っていたAランクギルド『天穿』は、こうして内部から完全に崩壊した。


 床に這いつくばり、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたクレイは、絶望の中でようやく理解した。

 自分たちが「戦闘力ゴミの役立たず」と見下していた男こそが、ギルドという巨大な組織を支えていた、絶対的な『心臓インフラ』だったのだということを。


 しかし、その心臓はもう、二度と彼らのために動くことはない。

 入江 湊は今、彼らの想像を遥かに超える、世界の頂点へと駆け上がっている最中なのだから。


読んでいただきありがとうございます!

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