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第13話S級ダンジョンの凄惨な現実


「ーーここが、国内最難関とされるS級ダンジョン『黄泉の門』ですか」

 翌日、俺は東京の郊外に厳重に隔離された特級防衛区域の中にいた。

 目の前に鎮座するのは、禍々しい紫色の光を放つ巨大な空間の裂け目。

世界最強のギルド『創世』が総力を挙げて管理している、一般の探索者は立ち入りすら許されない絶対の禁域だ。


「はい。入江様、本日はよろしくお願いいたします」

 隣で美しい黒の戦闘用ドレスに身を包んだ神城かみしろさんが、真剣な面持ちで頭を下げる。

 その後ろには、彼女が手配した『創世』の誇るSランク探索者コンビが、俺の専属護衛として控えていた。大剣を背負ったガッチリ体型の男・ゴウと、二振りの短剣を腰に下げた小柄な女性・リン。二人とも、国内の最強ランキングに名を連ねる本物の怪物だ。


「入江の旦那、よろしくな! 噂のお掃除スキル、特等席で見せてもらうぜ!」

「戦闘は私たちが完璧に処理するから、あなたは安心して掃除に集中して」

 ゴウが豪快に笑い、リンが冷静に頷く。彼らは戦闘力ゼロの俺を侮るどころか、神城さんが直々にスカウトしたプロフェッショナルとして、最大級のリスペクトを持って接してくれた。天穿の無能どもとは大違いだ。


「ありがとうございます。それじゃあ、さっそく入りましょうか」

 俺は愛用の『魔導高圧洗浄機』のストラップを肩にかけ、一本の特製デッキブラシを握りしめて、裂け目の中へと一歩を踏み出した。


 ーーゲートをくぐり、視界が切り替わった瞬間。

 俺のプロとしての防衛本能が、激しい警報を鳴らした。


「……これは、想像以上に重症ですね」

 目の前に広がっていたのは、黒い大理石で造られた、まるで古代神殿のような広大な空間だった。だが、その美しいはずの建築物は、完全に『汚物の地獄』と化していた。


 壁や柱の至る所に、粘り気のある緑色の液体がベッタリとへばりついている。S級ダンジョンの凶悪な魔獣『プレグ・ポイズン』が撒き散らした、触れるだけで肉を腐らせる猛毒液だ。

 さらに最悪なのは空気だ。数年間にわたり、討伐されたモンスターの死骸が正しく処理されずに放置され続けた結果、迷宮の魔力と混ざり合い、視界を遮るほどの『灰色の呪詛霧』となって空間を支配していた。


 ガガガガガッ!

 俺の身につけているプロ用防護服の汚染警告センサーが、見たこともない最高速度でアラートを鳴らし、赤いランプを激しく明滅させる。


「ひどいな……。創世の皆さんがどれだけ命がけで最奥のボスを倒しても、この通路が汚染され続けていたら、後続の補給部隊が侵入できない。ダンジョンそのものが呼吸を詰まらせて、今にも暴走バーストしかけてる」

 俺の言葉に、神城さんが悔しそうに唇を噛んだ。

「お恥ずかしい限りです。我がギルドの精鋭をもってしても、モンスターを倒すのが限界で、この空間に焼き付いた『呪いの汚れ』を完全に消去する手段がなかったのです……」


「大丈夫ですよ。それが俺の仕事ですから」

 俺は不敵に笑うと、背中の魔導タンクのスイッチを静かにONにした。世界最強のギルドが数年間頭を悩ませてきた絶望の光景。それが、今からたった一本のデッキブラシによって、跡形もなく消し去られる時間だ。


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