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第12話世界最強の盾



 その場にいた全員の背中に、冷や汗がドッと噴き出した。

 クレイたちが恐怖でカチカチと歯を鳴らしながら振り返った先。そこには、漆黒のスーツを完璧に着こなした、一人の美しい女性が立っていた。


 腰まで伸びた銀髪に、すべてを見透かすような真紅の瞳。

 彼女がただそこに佇んでいるだけで、周囲の空間の魔力が、彼女に従属するように激しく脈打っている。


「な、ななな……何で、あなたがここに……っ!?」

 クレイの情けない悲鳴が響いた。

 無理もない。そこに現れたのは、日本に三人しか存在しない世界最高峰の探索者ーーSSSランクギルド『創世』の代表であり、世界最強の魔導士、神城かみしろ 凍華とうかだった。


 Aランクギルドのクレイなど、彼女から見れば文字通り「アリ」に等しい。国をも動かす絶対的な権力者が、なぜこんな場所へ平服で現れたのか。


 神城さんはクレイたちの存在など最初から目に入っていないかのように、優雅な足取りで俺の席へと歩み寄ると、深々と頭を下げた。


「お待たせいたしました、入江様。我が『創世』が管理する国内最難関のS級ダンジョン『黄泉の門』の清掃依頼について、正式な契約書をお持ちいたしました」

「わざわざ代表自ら持ってきてもらうなんて、恐縮です、神城さん」

「いいえ、世界を救う唯一の清掃員である入江様を、他所に引き抜かれるわけにはいきませんから。……ちなみに、条件はこちらになります」


 神城さんが提示したホログラムの契約画面を見て、横から覗き見していたクレイの目が、こぼれ落ちそうなくらいに見開かれた。


・基本清掃報酬:1現場につき、固定で『5,000万円』を支給

・清掃時に発生したシステムボーナス・レア宝箱:『100%すべて入江湊の所有』とする

・入江湊の安全を保障するため、創世所属のSランク探索者2名を常に専属護衛として配備


「ご、五千万……!? お宝も全部自分のもの……!? Sランクが護衛……っ!?」

 クレイの口から、魂の抜けたような声が漏れる。

 自分が提示した「月給四十万(お宝はギルドが総取り)」という奴隷契約が、どれほど滑稽で、恥知らずで、桁違いにケチなものだったかを、世界最高峰の現実によって文字通り粉砕されたのだ。


「神城さん、この条件で問題ありません。明日からさっそく、そのS級ダンジョンの大掃除を始めましょう」

「ありがとうございます、入江様! これで我がギルドの攻略も、さらに加速します!」


 神城さんは嬉しそうに微笑むと、ようやくゴミを見るような冷徹な視線をクレイへと向けた。

「ところで、そこのAランク止まりの不届き者。先ほど、入江様に対して『圧力をかけて潰す』と言いましたね? ……我が『創世』の専属パートナーを脅迫した罪、どう贖うつもりかしら?」


「ひっ、あ、いや……これは、その……!」

 世界最強の魔導士から放たれる圧倒的な殺気プレッシャーの前に、クレイは完全に腰を抜かし、テラス席の床へ無様にへたり込んだ。股のあたりから、情けないシミが広がっていく。


「クレイさん。自分が使った場所を汚したまま帰る奴は、プロの清掃員として一番許せないんですよね。……そこの床の汚れ、自分で綺麗に拭き取ってから帰ってくださいね」


 俺が冷たく言い放つと、クレイは幹部たちに抱えられながら、泣き叫んで脱兎のごとく逃げ出していった。


 元ギルドの無能たちが完全に自滅した瞬間だった。

 そして俺は明日から、世界最高峰の舞台で、誰も見たことのない規模の『S級大掃除無双』を開始する。


読んでいただきありがとうございます!

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