第11話格上からの格安オファー
一千五百万円の報酬を得た翌日、俺は都内の高級カフェのテラス席で、新しく調達する清掃用魔道具のカタログを眺めていた。
天穿にいた頃は、カツカツの予算で市販のデッキブラシを使い潰していたが、これからは違う。どんな呪いも一瞬で分解する、オーダーメイドの魔導高圧洗浄機を発注するつもりだ。
そんな有意義な時間を邪魔するように、ドカドカと品のない足音が近づいてきた。
「おい、入江。ずいぶんといい身分じゃねえか。ゴミ虫が高級カフェなんかで気取ってんじゃねえよ」
顔を上げると、そこには超合金の鎧をギラつかせたクレイが、いつもの傲慢な薄笑いを浮かべて立っていた。後ろには天穿の幹部たちを数人引き連れている。相変わらず、周囲の客の迷惑も考えずに大声を出す男だ。
「……何の用ですか、クレイさん。俺はもう、天穿の人間じゃないはずですが」
俺が淡々とカタログを閉じると、クレイは待ってましたと言わんばかりに、持っていたカバンから一枚の書類を俺の目の前へ叩きつけた。
「感謝しろ、入江。お前に『慈悲』をくれてやる。我がギルド『天穿』への復帰を特別に認めてやるって言ってんだよ。しかもだ、お前の今までの働きを考慮して、月給を一気に二倍の『四十万円』にしてやる。どうだ、破格の条件だろ? 泣いて喜べよ」
クレイは腕を組み、ふんぞり返って俺を見下ろした。その目は「底辺の清掃員なら、これだけの金を提示すれば尻尾を振って飛びついてくる」と完全に確信している。
俺は提示された契約書を冷めた目で見つめた。
そこには、小さな文字で『復帰後のダンジョン清掃によって得られたドロップアイテム、およびボーナス報酬は、すべてギルドの所有物とする』と明記されている。
相変わらず、人を舐め腐った搾取契約だ。要するに、俺の【特殊清掃】スキルの価値に気づいて、美味い汁をもう一度吸いに来たわけだ。
「月給四十万、ですか。……すみませんが、お断りします」
「……あ?」
クレイの笑顔がぴくりと固まった。俺の拒絶が、想定外すぎて脳の処理が追いついていないらしい。
「耳が腐ってんのか? 四十万だぞ? お前みたいな戦闘力ゼロの役立たずが、一生かかっても稼げない大金だ。ソロでたまたま一度ラッキーパンチでお宝を拾ったからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「たまたまじゃありませんよ。それに、今の俺にとって、月給四十万なんて『高圧洗浄機のノズル1本分』の価値にもならないんです」
俺が本当の残高画面を頭に浮かべながら告げると、クレイは顔を真っ赤にして怒りでワナワナと震え始めた。
「この恩知らずのゴミ虫が……っ! 誰のおかげで今までダンジョンに入らせてもらってたと思ってんだ! 拒否するなら、お前が今後二度と東京のダンジョンを使えないように、Aランクギルドの権力で圧力をかけて潰してやってもいいんだぞ!」
クレイが激昂し、大剣の柄に手をかけた。幹部たちも俺を取り囲むように一歩前へ出る。
だが、その瞬間。
「ーーおや。我が国の最高VIPに対して、ずいぶんと不躾な口を叩く野良犬がいるね」
テラス席の空気が、一瞬にして自重で押し潰されるかのように、重く、冷たく凍りついた。
読んでいただきありがとうございます!
評価とブックマークをおねがいします。
次回もお楽しみに!




