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第10話手のひら返しの準備



「入江が……一千五百万だと……? 意味が分からん。あいつの戦闘力はゼロだぞ! どうやってあの地獄と化した地下三階を進んで、ボス部屋のお宝を回収したって言うんだ!」

 クレイの絶叫がミーティングルームに響き渡る。

 事務局長は首をすくめながら、ギルドの鑑定士から上がってきたレポートを読み上げた。


「鑑定士の分析によりますと、入江の持つ固有スキル【特殊清掃】は、単にゴミを拾うだけのスキルではなく、『ダンジョンの汚染を完全中和し、環境を再生する』という、世界唯一の極大環境スキルである可能性が極めて高いとのことです。ダンジョンは環境が綺麗になればなるほど、ボーナスとして通常の討伐では絶対に出ない超高純度の素材や、隠されたレア宝箱をシステムから吐き出す仕様になっています。つまり……」


「つまり、なんだ!」

「俺たちが『汚物』だと思って踏みにじり、放置してきたあのゴミの山こそが、入江のスキルを通すことで、一瞬にして『数千万円の宝の山』に変わっていたというわけです。入江がいた頃、我がギルドのドロップ報酬が常に最高品質だったのも、すべて彼のスキルによる恩恵だったと……。我々は、ギルド最大の功労者を、ただのコストだと勘違いして追い出してしまったのです!」


 事務局長の言葉は、クレイの胸に鋭いナイフとなって突き刺さった。

 総額数億円、いや数十億円にものぼるかもしれない利益を、自分自身の無知と傲慢さのせいで、自らドブに捨ててしまったのだ。

 しかも、あいつを追放したせいで、今や天穿のメインダンジョンは毒ガスが立ち込める完全な死のエリアへと成り下がっている。


「く、クソが……ッ! なんてことしやがる、あの陰気なゴミ虫が! だったら最初からそう説明しておきやがれ!」

 クレイは理不尽な怒りを爆発させ、高級なデスクを何度も蹴り飛ばした。だが、どれだけ暴れても、目の前の冷酷な現実は変わらない。

 このままでは、天穿は来月には破産。クレイ自身も、エリートの座から転落して路頭に迷うことになる。


「クレイさん、プライドを捨てて、今すぐ入江を連れ戻すべきです。幸い、まだ彼はどこのギルドにも所属せず、個人事業主としてソロで活動しているようです。今なら、給料を少し上げてやれば、また天穿に戻ってきて床を磨いてくれるはずです!」

 事務局長の提案に、クレイはぴくりと眉を動かした。


「……そうだな。あいつは元々、月給二十万の薄給でも大人しく文句一つ言わずに働いていた底辺の男だ。大金を見て少し調子に乗っているだけだろう。俺直々に声をかけてやれば、泣いて喜んで戻ってくるに違いない」

 クレイの顔に、下劣な笑みが戻ってきた。

 自分は天下のAランク探索者。あんな戦闘力ゼロの裏方、少し脅すか、あるいは優しく「お前が必要だ」と言ってやれば、簡単にコントロールできる。そう確信していた。


「よし、今すぐ入江の居場所を突き止めろ。月給を三十万……いや、大奮発して『四十万』にしてやる。その代わり、これからあいつがダンジョン掃除で手に入れたレアアイテムは、すべて我がギルドの所有物とする、という契約書を作れ。あいつにはまた、俺たちの後ろで泥をすすりながら床を磨いてもらうぞ」


 クレイは再びワインを喉に流し込み、傲慢な笑みを浮かべた。

 しかし、彼らはまだ知らなかった。

 入江 湊がすでに、月給四十万などという端金には一ミリも興味を示さないほどの『超大物ギルド』の重鎮たちから、破格の条件で熱烈なスカウトを受け始めているという事実を。


読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに。

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