第8話 異世界(信州)一日目の夜
いきなり信州(異世界日本)に飛ばされた挙句、無一文でどこにも行き場がなくなってしまった俺。
どうしよう。
「良かったらウチに泊まっていって?」
「でもご馳走までしてもらってそれは流石に・・・」
「だ、大丈夫だよ!部屋なら余ってるから!」
「それに男の子をこんな夜中に1人で放り出したりなんてできないわよ~」
「なんならウチでもいいよ!黒田の家は結構大きいよ!」
3人からグイグイ来られてしまった。
しかしどうしよう。
こんな女性2人の家に成人男性1人が泊まるのも・・・って思ったけどよくよく考えたらそれは俺の元の日本の感覚だ。
今の俺は美少女アイドルなのだ。
元の日本の感覚に翻訳すると、今日知り合ったおじさんと若い男の住む家に急に泊まることになった美少女アイドル、くらいの感覚か。
「・・・・・・・・・・・・」
それは普通に貞操の危機かもしれない。
いやそれはむしろ全然構わないんだが、大豊家の2人を改めて見てみる。
「・・・・・・・・」
でかい。
本当にでかい。
2人ともとにかく見事な胸部装甲をしている。
こんな2人と一つ屋根の下で過ごしてしまって本当に大丈夫だろうか?
正直なところ自分の理性にあまり自信がない。
しかも話や雰囲気から察するとこちらから彼女達を性的に襲っても全然ウェルカムな雰囲気すらする。しかし果たしてそんなことをしてしまって良いものだろうか?
なんだか男が少ないという弱みに付け込んだような行動に思えて酷く罪悪感がある。
「あ、あ、もちろん変なことなんてしないよ!?」
「いやそこは別に心配していない」
美月さんも伊月さんも本当に良い人たちだ。こんな人たちを疑うなんてどうかしている。もしどうしても彼女達が性的に暴発してしまったとしてもそれはそれで受け入れる覚悟だ。
「それじゃあ申し訳ないけどお世話になってもいいかな?」
「う、うん!歓迎する!」
「もちろんよ~。それじゃあまずはお風呂に入ってきたらどうかしら?」
確かに着替えたとは言え、身体は冷え切っていた。
「ありがとうございます。あ、でも美月が入ってきた方が・・・」
彼女もさっきまでびしょ濡れだったはずだ。
「う、ううん!男の子が風邪なんて引いたら大変だし!」
そうか今の俺は美少女アイドルだった。
確かに元の世界で同じような展開になったら俺も彼女達と同じようにするだろう。
「それじゃあ申し訳ないけど先にお風呂頂きます」
「あ、うん廊下の突き当りの右にあるから」
「それでは失礼して・・・」
俺は足取り軽くお風呂に向かっていった。
―――――――――――――――――――――
-side 美月-
「・・・・・・行った?」
「うんお風呂入ったみたい」
拓真君がお風呂の部屋に入ったことを確認してから私達は椅子に倒れ込んだ。
「はー・・・緊張したー・・・・」
今でも夢みたいだ。
私の家にあんなにカッコいい男の子がいるなんて。
しかもあんなに優しい男の子。
今でもドキドキしてる。
「男の人ってもっと女を怖がるって聞いてたんだけど、そんなことないんだね・・」
「いやいや何を言ってるの美月!!拓真君は異常だよ!あんなに女に丁寧な男の子なんていないって!」
そういえば圭は家の関係で何度か男の人に会ったことがあるって言ってた。
「男の人って女に対して傲慢か、怯えちゃって近付くこともできないの2パターンくらいしかいないよ!それなのにあんな・・・」
「千春ちゃんを命がけで助けてくれた」
「あれも異常だよ・・・男の人は女が100人殺されてようが黙って逃げろって教えられるらしいのに・・・」
男の人は1000人に1人しかいないのだ。
女100人の命より重いなんていうのは当然かもしれない。
川に流されている拓真君を助けることができて本当によかった。
日頃鍛えていた自分が少しだけ誇らしかった。
「お母さんもね。一度だけ男の人に会ったことがあるの」
お母さんが高校時代に一度男の人が慰安に訪れたらしい。その時に廊下で軽くすれ違ったらしいのだが・・・。
「『なんだ貴様気色悪いな!その胸!なんなのだ貴様は!視界に入るな無駄乳でかクソ女!』って言われちゃった」
「・・・・・・・・・・・・」
悲しそうに目を伏せるお母さんに何も言えない。
男の人は威圧感のない低身長でスマートな体型の女の子が好みらしい。
私のような身長190cmで無駄に大きな乳をしている女は嫌悪の対象だ。しかしどうしようもない。私だってこんな胸になりたくなかった。服は全然ないしキャッチャー用の防具も着にくい。でも勝手に育ってしまったのだからどうしようもないのだ。
お母さんから言われたことがある。
「ごめんね美月ちゃん・・。そんな身体に産んでしまって」
お母さんは悲しそうだった。
「でも拓真君は美月のこと全然怖がってなかったよね?」
「う、うん・・・。男の人ってこんなに丁寧なんだってビックリしちゃった」
「いや何度でも言うけどあれは拓真君が異常に優しいだけだから!拓真君が男子の標準だと思っちゃダメだよ?」
「う、うん・・分かってる・・・。それに拓真君私の胸すごい見てたね」
「最初は流石に嫌がってるのかな?って思ったけどそんな感じじゃなかったよね?」
「ど、どうなんだろ・・・」
男の人に会ったのも初めてなんだから、そんなこと分かるはずも無かった。
「とにかく・・・」
男の人が私の家にいる。
その事実だけでもニヤニヤが止まらない。
しかも拓真君が入った後のお湯に私はこれから入るのだ。
こんなのもう交尾と変わらないんじゃないだろうか?
「美月・・・なんか凄い顔してるよ・・・」
「うっ・・!」
「拓真君がお風呂から上がるまでにもっとシャンとしてね」
にやけ顔を戒める。
でかいくせににやにやするな私!
顔面をマッサージしている私の姿をお母さんが嬉しそうに見ていた。
――――――――――――――――
-side拓真-
お風呂に入って気が付いたことがある。
あ、お風呂は大変見事なヒノキ風呂で大満足だった。
だがそんなことは良い。
それよりも重要なことだ。
「なんか俺若返ってないか・・・?」
そう今の俺なんか若返っている。
年の頃は恐らく高校2年くらいだろうか?
道理で甲子園で応援した後に森を彷徨い歩いてから川に流されてもまだ体力に余裕があったわけだ。
元の36歳の身体だったら森の途中で遭難死していたかもしれない。
身長も少し縮んでいる気がする。やたらと男の子呼ばわりされてたのもこれが原因か。いくら男の数が少なくても36歳を男の子呼ばわりはないだろうと思っていたが、高校2年生の見た目じゃ仕方ない。
「しかしこれでハッキリとしたな・・・」
俺は今、何か非科学的な超常現象に巻き込まれている。今までは甲子園から拉致られて信州に連れてこられただけの可能性。俺が知らなかっただけで信州の男女比率が1000:1の可能性がまだギリギリ考慮された。しかし若返りはもはや言い訳のしようがない。
店内に戻って伊月さんと美月に挨拶をした。圭ももう帰るらしい。
俺は伊月さんに寝室を案内してもらって床に着く。顔色が悪かったのだろうか?3人からやたらと心配されてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・はぁー」
布団に入りながら思う。
起きたらこれ全部夢ってことにならないだろうか?目が覚めたら甲子園の観客席で・・・
「ならないんだろうなあ・・・多分・・・」
畳の感触、布団の感触、外から聞こえてくる虫の声、窓から見える満天の星空。どれを取っても現実にしか思えなかった。夢というのは所詮記憶である。こんな事態を夢見ることができるほど俺の想像力は豊かじゃない。
布団の中で思う。
「そういえば・・・」
さっきまで俺が観てた試合、結局ちゃんと勝てたのだろうか?
それだけが酷く気になった。




