第6話 違和感
「着いたー!!」
2人に連れられ街を歩いていると、ある店の前で黒田さんが立ち止まった。
さっき歩いている時に腹が減っていることを彼女達に申告したら大豊さんの家でご馳走してくれることになったのだ。
なんでも大豊さんの家は蕎麦屋らしい。
信州蕎麦。
前に家族旅行で行った際に食べた蕎麦は大層美味しかった記憶がある。
とても楽しみだ。
今は日曜日の9時頃だから、すでに土曜に食べた球場メシから24時間以上経ってしまっている。ただでさえ身体を動かし通しだし、そりゃ腹も減るワケだ。
それに身体も地味に冷えてきた。
今は夏とはいえ、濡れネズミのままでは風邪を引いてしまう。
「さあ!それじゃあ入って入って!あ、伊月さーん!お客さんだよー!」
黒田さんがどかどかと店に入っていく。
「・・・・ここ大豊さんの家なんだよな?我が物顔だなあの子」
「あはは・・・幼馴染だからね・・・」
小学生の頃からずっとバッテリーを組んできたらしい。
なんだか憧れるシチュエーションだ。
「それじゃあお邪魔しまーす」
「うんあがってあがって」
店内に入る。
『大豊庵』と書かれた暖簾をくぐる。
店内は昔ながらの、懐かしい蕎麦屋という出で立ちだった。
長年の歴史と年季が店内の各所から感じ取れる。
鰹節の良い香りが漂っていた。
「おーい!伊月さーん!」
黒田さんが奥に向かって呼びかける。
すると1人の女性が店の奥から姿を現した。身長は160cm程度。大豊さんのお母さんにしてはそこまで大きくない。しかし胸。チラリと横にいる大豊さんを見る。
「?」
小首を傾げる大豊さん。
なるほどこれは間違いなく親子だ。胸のサイズを見比べてそう思う。
「あらあら~ お客さ・・・!!!!!?」
伊月さん?が俺を見て固まった。
高校生くらいの娘が突然こんなびしょ濡れのおっさんを連れて帰って来たのだ。
それは驚くだろう。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
何故か見つめ合う二人。
「お母さん・・?」
「ふぇっ!?あ、あ、ごめんなさい!ちょっとビックリしちゃって!男の子なんて久しぶりに見たから!」
「ああいえ気にしないで下さい」
出来る限り不審者じゃないことをアピールするために笑顔を向ける。
しかし先ほどの千春ちゃんの捜索隊の時も思ったけど、この辺って男がそんなに少ないのだろうか?
「・・・・・・・・・・・?」
長野県ってそうなのか?
前に旅行で行ったときは全然そんなことは思わなかったけど。
俺、長野県に詳しくないからよく分からない。
「・・・・・・・・・・・・・(ぼ~)」
「伊月さん!それじゃあ天ぷら蕎麦3つね!あ、天ぷら蕎麦でよかった?」
「あ、うん大丈夫。むしろ好き」
「好き!!!!?」
伊月さんがビクリと肩を震わせた。
「あ、はい!好きなんです!天ぷらも!蕎麦も!」
できるだけ印象を良く持たせるためにニコリと笑いかける。
「好き・・好き・・・」
なんか伊月さんフラフラしながら店の厨房に消えた。大丈夫だろうか?体調が悪いなら無理はしないで欲しい。
「お母さん大丈夫?」
「あはは・・・まあ気持ちはちょっと分かるけどねー」
「あ、それじゃあ私は着替えを持ってくるね。あの川相さんの着替えは・・・」
「うん、着替え持ってないなんだわ・・。悪いんだけど近くにコンビニとかないか?」
この際無地の白シャツでもいい。せっかくのユニフォームも随分汚れてしまった。早く洗濯してあげたい。
「コンビニ?」
「うんコンビニ」
「?」
「何それ?」
何それと来たもんだ。
「もしかして・・・この辺にコンビニってなかったりする?」
「えっと・・・美月は聞いたことある?」
「ううん。初めて聞いた」
「マジか・・・」
街並みも含めて結構な田舎だなとは思ったけどコンビニもないか。
「それなら申し訳ないんだけど、シャツとかズボンとか借りてもいいか?」
「あ、う、うん分かった・・」
大豊さんはそう言って店の奥の方に行ってしまった。
恐らくあっちが居住スペースなのだろう。
「はぁ~・・・」
ようやく人心地付いた。4人掛けのテーブル席に腰掛ける。身体が濡れているのに座ってしまって申し訳ないが、耐えることができなかった。あとで拭いておこう。
「お疲れみたいですね」
黒田さんが正面に座った。
「あ、勝手に座っちゃってすみません。今日は色々ありすぎて疲れましたよ」
「大変でしたね~。川に流されちゃって」
「本当に。早く着替えたいわ」
と、店の奥から美月さんがやってきた。
彼女も着替えたようだ。先ほどと服が変わっている。
先ほどまで濡れ透けだったのにちょっと残念だなと思ったが、別に透けてなくてもその破壊力はあまり変わらなかった。
先ほど厨房に消えた伊月さんもだが、改めて見ると本当にでかい。
目の前に座る黒田さんもそこそこあると思うのだが、相対的にド貧乳に見えてしまうのだから恐ろしいことだ。
「あのこれ・・・シャツとジャージ・・・良かったら着てください」
『諏訪第一中学校』と胸元にプリントされたジャージだった。
「これ大豊さんのジャージ?」
「あ、う、うん・・・ ご、ごめんね嫌だったよね・・?」
「いや俺はいいんだけど・・・」
女子中学生のジャージを俺が着るのはどうなのだろう?
完全に事案のような気がする。それと流石に女子のジャージは小さいのでは、と思ったけどどう見ても俺のサイズより二回りはでかい。少し悲しい気分になる。
「お父さんの服とかでもいいんだけど・・・」
「? お父さんなんていないよ?」
「あ、そうだったのか・・・」
母子家庭だろうか?男の人が少ないって言ってたから出稼ぎなのかもしれない。詳しい事情は聞かない方が良いな。
「それじゃあありがたくお借りするな」
「う、うん・・・いま着てる服は洗濯しておくね?」
「どうもありがとう」
やっと濡れネズミから解放される。
俺は立ち上がるとユニフォームとシャツをまとめて脱いだ。
「きゃあああああああああああああああ!!!!」
「何やってるの!!?何やってるの!!?!馬鹿じゃないの!!?」
突如響き渡る絹を裂くような悲鳴。前に観た刑事ドラマで死体を見つけた俳優でももっと大人しい感じだった気がする。
「うわあビックリした!なんだよいきなり!」
「なんだよはこっちの台詞だよ!」
「服・・・早く服着て・・!服・・!」
大豊さんが顔を逸らしながら訴えかける。見苦しかったのだろうか?社会人になってからも筋トレは欠かさなかったのに、地味にショックだ。
顔を逸らす大豊さんと対照的に黒田さんはこっちをガン見してくる。
「男の人・・・男の人の裸・・・」
「・・・・触ってみるか?」
「いいんですか!!?」
「圭!」
ドゴォ!!
大豊さんが黒田さんの頭をひっぱたく。
「痛ったー!!!!」
「ダメ・・!川相さんも早く服を着てください・・!」
「あ、うん・・・。凄い音したけど黒田さん大丈夫か・・?」
背中を向ける女子2名。
俺は急いで服を脱ぐ。下着は・・・どうしよう。背中越しとはいえ女子2名を目の前にトランクスを脱ぐのはためらわれる。やむを得ずべちゃべちゃのトランクスの上からジャージズボンを履いた。ジャージがやや湿ってしまい申し訳ない気持ちになる。
「ジャージ着たからもうこっち見て大丈夫だぞ」
チラッこちらを見て服を着ていることを確認すると2人とも改めてこちらに向き直った。
「ほ、本当にダメですよ・・?女の人の前で服を脱ぐなんて・・」
「そうだよー?襲われたらどうすんのさ!まあ私達は淑女だから大丈夫だけどね!」
胸を張る黒田さん。
なるほどどうやら信州では男が女の前で服を脱ぐと襲われることがあるらしい。
「・・・・・・・・・・・・・」
後で移住を検討しよう。
そんなことをしていると厨房から伊月さん?が蕎麦を持ってこちらに来た。
鰹出汁の良い匂いがこちらまで漂ってくる。
どうやらようやく飯にありつけそうだ。




