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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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第5話 甲子園から信州へ

「…」

「…」


幼女を救出したと思ったら少女2人に熱い視線を向けられる。

なんだろう。

視線が熱すぎて怖い。


「あの…?」

「あ!す、すみません!つい見つめてしまって…!」

「いやー 男の子をここまで近くで見たことないもんで」


それは随分な箱入り娘だ。

てかこんなおっさん捕まえて男の子もないだろうに。


「まあ見たいなら好きなだけ見てくれて構わんけ「マジで!?」食い付き凄いな!?」


前のめりのサイドポニーに若干引きながら立ち上がる。

川に流されて相当体力を消耗したが、ようやく息が整ってきた。


疲労困憊だが身体の調子がとても良い。

現役時代に練習した後のような清々しさすら感じる。

今日は甲子園で応援→森を彷徨い歩いて子供を探索→川に流される

と散々だったが、よくおっさんの身体で体力がもってくれたものだ。


「おーい!」


そんなことを考えていると向こうから10人くらいの女性達がやってくるのが見て取れた。

千春ちゃんも女性に抱き抱えられてこちらに手を振っている。


「この度は千春を助けて頂きありがとうございました。もう本当にこの子ったら…」


千春ちゃんを抱いている女の人が俺に頭を下げた。

千春ちゃんのお母さんだろうか?

心底申し訳なさそうに恐縮するものだからこちらも却って申し訳なくなってしまう。


「……本当に男の人なんですね?」

「? ええまあ見ての通りです」


信じられないものを見る眼で俺を見つめてくる千春ちゃんのお母さん。

さっきからなんだろうか?

一緒に来た他の女の人も似たような視線だ。

今日は女性からの視線が熱い。

なんだ?急にモテ期が来たのか?

自慢じゃないが自分はこれまで一切モテたことはない。

甲子園に出場した時すら、である。


『川相君は野球が恋人みたいなもんだよねえ』


クラスメイトの女子からそんなことを言われたこともあった。

確かに実際高校時代は野球ばかりで女の子と遊ぶこともろくにしなかった。

卒業して大学に行った後も積極的にそういうことはしなかった。

特に理由があったわけでもない。

普通にそういう欲求もあるのだが、ズルズルここまで来てしまった。

情けない限りである。


「男の人を危険な目に遭わせてしまうなんて・・・。本当にこの度は申し訳ありませんでした」


お母さんが深々と頭を下げてくる。

いかんつい物思いに耽ってしまった。

黙っている俺を見て怒っているとでも思われてしまったのだろうか?

千春ちゃんのお母さんは心なしか顔色が悪いように見えた。


「本当に気にしないでください。当然のことをしただけですから」


こんなに恐縮されてしまうと却って申し訳なくなってしまう。


「・・・・・・・・・・・」


ふと見ると俺の顔をじっと見つめる千春ちゃんと目が合った。


「こら千春ちゃん。なんであんなところにいたんだい?中州は危ないって教わらなかったのかい?」

「え?えっと・・・あの・・・。いい天気で・・木陰でお昼寝してて・・・。気が付いたら水がドバーッて・・・」

「それで雨に気が付かなかったのか・・・。中州は危ないからもうあんなところでお昼寝しちゃダメだよ?」

「うん・・ごめんなさいお姉ちゃん・・・」

「お姉ちゃんじゃない。お兄ちゃんだお兄ちゃん」


何をどう見たら俺が女に見えるんだ。


「・・・・お兄ちゃん?」

「そう。年上の男の人のことをお兄ちゃんって言うんだ。お姉ちゃんは女の人」

「そうなんだ・・・」

「そう!だから俺のことは拓真お兄ちゃんって言って良いぞ?」

「拓真おにいちゃん・・・」

「おう!」


わしゃわしゃと千春ちゃんの頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じた。

小動物みたいでカワイイ。


「それじゃあもう真っ暗ですし、そろそろ帰りましょうか?」

「うんそうだね!」


俺と千春ちゃんのやり取りをじーっと見つめていたサイドポニーが相槌を打ってくる。

「ところで、キミのお家はどこ?私達が送って行くよ!」

「家か・・・」


そういえばすっかり忘れていたが、ここはどこだろう?


「甲子園ってここから近い?そこまで行ければ帰り道は分かるんだけど・・・」

「コウシエン?」

「え、知らないのか?マジか」

「うーん・・・聞いたことないなあ・・・美月は知ってる?」

「私も・・・全然聞いたことない・・・」


え、お前キャッチャーだろ・・・。それなのに甲子園も知らんのか。あれか?にわかか?にわかなのか?でもあの体幹・筋力は見事なものだった。とてもにわかとは思えなかった。


「す、すみません・・・」

「ああいや謝る必要はないんだけど・・・。というか・・・」


俺は周りを見渡しながら言う。


「ここってどこ?」


少なくとも甲子園球場の近くにこんな鬱蒼とした森はなかったはずだ。カブトムシとかめっちゃいそう。


「あ、えっとここは・・・」


2人は声を合わせて言う。


「「信州の真田領だよ?」」


何やら耳慣れない土地の名前を言われるのだった。



―――――――――――――



どうやら自分は甲子園から随分遠くに拉致られたらしい。

それだけは理解した。


仕方がないので1人警察に行って保護してもらおうとしたらサイドポニーとキャッチャーに全力で止められてしまった。


「男の人がこんなところ1人でウロウロ歩いてたら危ないよ!!最悪拉致られて他領に売られちゃうよ?」


美月と呼ばれていたでかいキャッチャーもコクコクと必死に頷いている。

随分物騒だな信州。デトロイトかここは。


とりあえず他の探索隊の女の人達とは別れて俺達は森から街に向かうことになった。

探索隊の人は千春ちゃんが見つかったことを報告しないといけないらしい。

今はサイドポニーとキャッチャーに両脇を固められて歩いている。

キャッチャーがでかいおかげで気分はまるで連行される宇宙人のようだ。

しかもキャッチャーの胸がさっきから俺の顔面付近を跳ね回っており大層落ち着かない。

どうしてもチラチラ視線を向けてしまうがこれはもう致し方ないことだろう。


「ご、ごめんなさい・・?ちょっと近いでしょうか・・・?」

「いやそれは全く問題ない」

「あはは、なんていうかキミは変わっているねー。女の人にこんなに近寄られて怒らない男の人なんて初めて見たよ。普通こんなに近付いたら怒鳴り散らされるか怯えられるか殴られるかするらしいのに」

「物騒すぎないか信州!?」


恐ろしい土地だった。


「あ、そういえばまだ名前を聞いてなかったな。俺の名前は川相拓馬。改めてさっきは助けてくれてありがとうな?」


俺はキャッチャーに頭を下げる。


「あ、ううん・・・こちらこそ千春ちゃんを助けてくれてありがとう・・。私の名前は大豊美月・・・です」

「私は黒田圭!よろしくね!」

「おう!よろしくな!」

デカい方が大豊美月で、サイドポニーの方が黒田圭か。

俺は黒田さんの手を取って握手をする。

「ひょわわぁ!」

変なリアクションをされてしまった。

「あ、すまん驚かせてしまって」

「う、ううん!大丈夫!あー、ビックリした・・・」

「だからゴメンて」

「・・・・・・・・・・」

大豊さんが握ったり閉じたりしながら右手を右往左往させながらチラチラとこちらを見てくる。

「?」

「わ、私も・・・」

「おー 大豊さんもよろしくな?」

大豊さんとも握手を交わす。

「あ・・・・」

嬉しそうにはにかむ大豊さん。

本当に綺麗だなーこの子。

乳越しに見上げないと顔が見えないのが残念だ。邪念が混じる。

あと力が強い。滅茶苦茶強い。


「いだだだだだだだだだ!!」

「あ!ご、ごめんなさい・・・」

「いや大丈夫・・。それにしてもさっき川から上げられる時も思ったけど凄い力してるな?」

「あ・・・うん・・・鍛えてるから・・・」

大豊さんがちょっとうつむきながら言う。

「そういえばキャッチャーしてるんだってな!凄いな!女子野球か!」

思わずテンションを上げて言う。

「俺も野球は大好きなんだ!」

「え・・凄い!拓真君も野球好きなんだね!野球好きな男子なんているんだ・・」

「そりゃいるだろ・・・。いいなーちょっと見てみたいなー」

これだけ綺麗な子が野球やってる姿!是非見てみたい。少なくともこの見た目と身体だ。男性人気は凄まじいものになるだろう。

「お、それなら私ピッチャーやってるよ!明日は美月と練習するから見に来てよ!」

「おお!!」

千春ちゃんを受け取る姿がサマになってると思ったら黒田さんはピッチャーだったのか!捕球の構えもしっかりしてたし、フィールディングの練習も欠かさないのだろう。若いのに大したもんだ。

「よし!それなら俺もショートやってるから!是非とも練習に参加させてくれ!」

なんだかテンションが上がってついつい声を上げてしまった。

女子学生チームに混ざって野球をする成人男性。下手したら事案かもしれない。

「「え」」

俺の言葉を聞いた2人が固まった。確かに自分でも言ってからこれはないなって思ったけどあんまりなリアクションだ。さっきまで和気あいあいとしてたのに傷付く。

「あ、ごめん・・・ やっぱ男が女子に混ざるのは厳しいか・・」

「あ、ううん!そんなことないよ!」

「う、うん・・・でも・・・」



大豊さんがこちらを伺うように言った。



「野球をする男の人なんて初めて聞いたから驚いちゃって・・」



「・・・・・・・・え」



ホーホー


フクロウの声がやけに大きく聞こえた。

得体のしれないものを感じた俺の背中に冷や汗が噴き出る。


明らかな異常事態。


「・・・・・・・・」


ここは一体どこなのだろう?

俺は改めてそう思った。

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