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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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59/111

第59話 諏訪スタ最終戦 決着

「あはは・・・ まあそんな簡単にはいかないか・・」


黒田圭はマウンドで苦笑いしていた。

6回表1アウト1塁2塁。

案の定2巡目に捕まった。

流石は現在トップの北条ファルコンフォース。

簡単にはいかない。


美月がタイムを取ってマウンドにやってきた。


「どうする圭?次から上位打線だよ」

「どうするも何もないっしょ。抑えたら勝ち。抑えなかったら負け」

「うん分かりやすくていいね。相手は気合い十分みたいだよ」

「ならカーブ引っかけさせよう。5球目に内野ゴロ打たせるよ」

「了解」


配球について綿密な打ち合わせをして定位置に戻った。


「ふっ!」


一球目はカーブ。

まずはカウントを取りに行く。

得意のカーブだ。打てるものなら打ってみろ。


カキーン


打たれた。

ヒット性の当たりだが内野真正面の内野ゴロゲッツー。


せっかく細かく打ち合わせしたのに。

やっぱり野球は上手くいかない。


「ド真ん中じゃねえか!何してるんだ圭!」

「うるへー!疲れてんだこっちは!黙って見てろタク!」


圭は楽しそうに笑って答える。

初試合初マウンド。

彼女は実に楽しそうだった。


――――――――――――――――


「・・・・・・小気味の良い投球をしますのね彼女」


北条美雲は驚いていた。

正直予想外だった。

確かに良いピッチャーのようだが、流石にウチの最強打線を抑えるなんてできないだろうと考えていた。

6回5安打無得点。

上々どころかできすぎの結果である。


国丸投手は6安打打たれているが要所を抑えている。先ほどのスクイズで取られた1点が重い。


「拓真君助けて!あんなの打てねえっす!」


本日二度目の三振をした7番バッターが泣きながら拓真に話しかける。


「どうやったらあんなの打てるのでしょうか!?私、国丸投手相手に24打席20三振です!」

「三振し過ぎだ馬鹿野郎!どうせ打てないなら目瞑って思い切り振ってこい!」

「ラジャーっす!」


拓真君も実に楽しそうだ。


「・・・・選手が観客に話しかけるってアリなんですの?」

「さあ・・・」


でも元の日本にも割といた気がする。


「ホラお前も北条の選手に声送ってみろよ」

「は、はしたいないですわよ・・・」

「いいからホラ」


一瞬の躊躇の後。


「国丸頑張りなさい!これ以上失点したら承知しませんわよ!」

「・・・・・・・・・・・・」


国丸投手はチラリともこちらを見ない。


「声小さいんだよ」

「うう・・・恥ずかしいですわ・・・」

「北条の令嬢ともあろう方が情けないですねえ」


菊花は焼きそばを食べながら毒づく。


「し、仕方ないでしょう!?そんな経験ないのですから!そういうアナタこそどうなのですか!?」

「俺を挟んで喧嘩すんな。試合見ろ試合」


5回ウラの第二打席の美月は四球。

7回ウラ第三打席の美月はファールフライだった。

国丸気合いの勝利だった。



「・・・全然ダメ。やっぱり凄いね」

「ドンマイドンマイ!よーし私がスタンドに叩きこんでくるぜ!」


スパーン!


「三振だったぜ!」

「そっかー・・・」


国丸投手もすっかり立ち直り、もはや隙なしといった構えだ。

ランナーはそこそこ出るのだが全く失点してくれない。

真田スズメーズは残塁の山を築いていた。

完全にギアを上げてきた。


「・・・・・・・・・・・・」


美雲は固唾を飲んで見守っている。


「なあ美雲」

「なんですの?」

「野球は面白いだろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


美雲は後悔していた。

正直自分は野球のことなんて全く知らない。

ただ北条のチームがなんとなく強いと知っていたくらいだった。

それでも北条が勝ったと聞いてなんとなく嬉しくなるみたいな。

それくらいの認識だったのだ。


ところが先週。

お風呂上りに何気なく見ていたニュース番組に面白そうな男の子が出ていた。

男の子なのにあんなに堂々としていてカッコいいと思った。

お母様に訊いてみると、なんでも真田領の男の子で先日北条と少し揉めたらしい。

興味が沸いて接触することにした。

私の不用意な発言で大炎上した。

でも彼は庇ってくれた。

嬉しかった。

本当に嬉しかった。


美雲は人と上手く話をすることができない。

偉そうな態度など単なる虚勢。

本当はいつも周りが怖くて仕方がない。


嫌われて当然だろう。

自覚はあった。

でも拓真はそんな自分と楽しくお喋りをしてくれる。


美雲は後悔していた。

彼の愛する野球を貶してしまった。

今なら分かる。

デッドボールをわざと当てる人間などいるわけがない。

あの時はちょっと意味深なことを言って彼の意識を引きたいだけだった。

たったそれだけの幼稚な考えだったのだ。

今なら分かる。

自分がどれだけ浅はかで頭の悪い発言をしてしまったのか。

拓真にも国丸にも申し訳なかった。


「・・・・・・・・・・・・・・」


試合はもう8回だ。

あの国丸が消耗している。

今日のスズメーズは気合いが入っていて、簡単にアウトを取らせてくれない。


「山本パイセンの弔い合戦じゃー!!!」


ってさっき聞こえた。

山本投手、死んだのだろうか?


国丸は必死に投げている。

ワタシにはそれを見守ることしかできない。


8回ウラの攻撃が終わった。

国丸投手はランナーを2人背負うも無失点。

スコアは北条 0-1 真田。

真田のあの投手の凄さも今なら分かる。


「よっし9回行くぞ美月!完封勝利じゃー!!」

「圭うるさい」


真田のピッチャーも随分疲れているようだ。

なんだか頭がハイになってしまっているようで、ちょっと怖い。


球速は未だに衰えない。

彼女は本当にプロ初登板なんだろうか?

国丸投手にも全く引けを取らないように感じた。


「ああー」


拓真君が頭を抱える。

先頭打者に四球。


「美雲覚えておけ。先頭打者四球は大体失点につながる」

「へー そうなんですの?」


拓真君は物知りだった。

黒田圭は最後の力を振り絞って投げる。

魔球チェンジアップもここに来て冴えわたる。

6番バッターから見事三振を奪う。

ワンナウト。

7番バッターは粘りに粘るもファールフライ。

ツーアウト。


「なんだか大丈夫そうですわね?」


これはもう北条の負けだろう。

少し残念だがよい試合が観れて満足だった。

しかしあの投手は結局1点も取られなかったのか。

末恐ろしい、素直にそう思った。


「甘いなあ美雲。野球はツーアウトからなんだぞ?」

「え?」

「周りを見てみろ」


他の観客を見てみる。

皆必死に声を出して応援していた。

もう勝ったなんて思っている真田ファンは1人もいない。

もう負けたなんて思っている北条ファンも1人もいなかった。


カキーン


今日一番の快音を聞き、慌ててグラウンドを見る。

ホームランかと思ったが惜しくも足りない。

フェンス直撃の2塁打。

1塁ランナーは一気に帰って来た。


キャッチャーのカバーに入った黒田圭は苦笑いしていた。

隣を見ると拓真も苦笑いしていた。


「最高の球だったのに。あんなの打つのかよ」


恐らく黒田圭も同じ気持ちだったのだろう。


―――――――――――――――


その後圭は四球を出した後になんとかもう1人を抑えるとベンチに帰って行った。


「タクゥ~・・・打たれたよぉ~・・・」

「打たれたなあ」

「あれは仕方ないよ。まだ同点だから打順回ってくるよ」

「ええ~・・・私はピッチャーだしもう代打でしょ?」

「ダメ。10回誰が投げると思ってるの?」

「もう交代でしょ!?疲れたよぉ~・・・助けてタクゥ~・・・」

「ホラ行くよ」


圭は美月に引きずられて行ってしまった。


「哀れ圭」

「大丈夫なんですの彼女・・?もうフラフラじゃないですか」

「国丸投手が下りてくれたら圭も心置きなく降りられるんだけどねえ」


9回ウラも国丸投手が行くようだ。

彼女はまだ余裕があるみたいだな。

中1日で9回まで投げてなんでまだ余裕なんだよ。

恐ろしい体力をしている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


国丸投手はネクストバッターサークルにいる美月を見ていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


美月も国丸投手を見返す。

今のところ3打席1安打1四球1得点。

新人打者としては十分すぎる成績だが美月はまだ満足していないようだ。


「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


2人の間に闘志の炎がが見える。

観客も固唾を飲んで見守っていた。

国丸と大豊。

軍配はどちらの手に渡るのか。


これは歴史に残る大事な勝負に


カキーン


「え」

「え」

「え」


「あ」


9回ウラ。

国丸投手が投げた第一球だった。

球速全く衰えず160km/hは出ているストレート。

それに何故かこれまで全くタイミングが合っていなかった7番打者がドンピシャのタイミングでフルスイングした。

打球はみるみる伸びていき・・・。


ゴン


バックスクリーンに当たると鈍い音を立てて落ちて行った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」


センターの辺りをボールは転々と転がる。


何故だろう。

サヨナラホームランなのに気まずい沈黙が流れる。

何故か申し訳なさそうな顔でダイヤモンドを一周する7番レフト飯田。

彼女はヒロインインタビューでこう語った。



「拓真君に目を瞑って打てって言われたので・・。目を瞑って打ったら入っちゃいました」


こうして今年の諏訪スタ最終戦は終わった。

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