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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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57/105

第57話 大豊美月の決意

-side 大豊美月-


「私はタクが好き」



・・・・ビックリした。

いきなり圭に宣言されてしまった。

いやそんなの見てれば分かるし、改めて言われることでもないのだが、やはり敢えて宣言されてしまうとインパクトがある。

元より拓真君は希少な男子。

しかも優しくてかっこよくて漫画の中でしか見たことがない理想的な男子。

あまりにも女性に都合の良い存在過ぎて、いまだに彼に会えたのが夢や妄想なんじゃないかって疑うことすらある。


好きにならないわけがない。


拓真君に会ったことがある女の子はみんな彼が好きなんじゃないだろうか?

私だってそうだ。

彼と同じ屋根の下で暮らしている幸運。

この幸運はいつまで続くだろうか?


「私、タクの役に立ちたい」

「うん・・・」

「タクは真田のために色々やってくれてるよね?」

「うん・・・」

「私達ってこのままでいいのかな?」

「・・・・・・・・・・・」


私は何も答えられなかった。

拓真君は本当に真田のために尽くしてくれている。

普通の男子であれば諏訪スタであんなに愛想を振りまいてくれない。

普通の男子であれば動画撮影なんて手伝ってくれない。

普通の男子であれば北条に転居してしまったっておかしくない。

私はそんな彼に何か恩返しできているだろうか?


「・・・・・・・・・・・・」


私は彼に何も返せていない。

拓真君はきっとこれからもっと有名になる。

いずれ彼は日本中から愛されるだろう。


私はそんな彼の隣に立っていられるだろうか?


今の私のままでは無理だろう。


「・・・・・・・・・・美月」


圭が私の眼を黙って見つめてくる。

このままではきっと彼は遠くに行ってしまう。

どれだけ有名になっても彼は私のことを友人だとは言ってくれるだろう。

泣いて縋れば子供だって作ってくれるかもしれない。


だけどこのままでは。



私は彼の隣に立てない。



遠くに行ってしまう彼を黙って見送ることしかできない。


蕎麦屋のお客さんに

「あの有名な川相拓真君って昔この家に住んでたんですよ・・・?」

なんてささやかな自慢をする人生になるのだろう。


そんなことでいいのだろうか?


「・・・・・・・・・・・・・」


良くないよね?

圭の眼はそう言っていた。


「ねえ美月」

「・・・なに?」

「私はやるよ」


今後も彼の隣に立つために。

圭の眼は言っていた。


『だから美月も覚悟を決めて?美月と一緒じゃないと彼の隣に立てないよ』


なるほどそうか。

そうだよね。

蕎麦屋の女将や、貧乏藩の藩主じゃ彼の隣に立てないよね?

彼の隣に立つのなら、日本一のプロ野球選手しかないよね?

分かったよ圭。

そんなに彼のことが大切なんだ。







私も同じだよ。


私は圭の眼を見て黙って頷く。

圭は少し笑うと山本さんに向き直った。


「山本さん。球団に連絡してください。黒田圭、投げます。ユニフォーム用意してもらってもいいですか?」

「え!?い、いいんですか!?諏訪藩は・・・」

「そんなの気にしなくていいです。美月待ってて!私もグローブ取ってくる!」


圭は高島城までグローブを取りに行った。


さあ覚悟を決めよう。

ここがきっと人生で一番の分岐点。

どうなるかなんて誰にも分からない。

運命の糸は果たして何に繋がっているのか。


あ、そういえば北条の試合はテレビ中継で全国に流れるんだった。

それは流石に少し緊張しちゃうかもしれない。


―――――――――――――――――――――――――


-side 川相拓真-


そんな訳で昨日今日は美月と圭と一緒に対北条を見据えて練習をしていた。

ちょっと自分で投げたい気持ちもないわけじゃなかったのだが、圭が投げてくれるなら話は別だ。

彼女は俺の一万倍良い投手だからな。

全国に彼女の投球をお伝えできるのは楽しみでしかない。


昨日は山本投手と一緒に試合を観に行ったが、それ以外の時間は2人と過ごしていた。

北条は強い。

だが隙が無いわけではない。

何より圭も美月も素晴らしい選手だ。

間違いなくプロにだって通じる。

それに北条の選手のデータは10時間以上かけて全部彼女達に叩きこんだ。

きっと勝てるはずだ。

あの2人のバッテリーで負けるはずがない。

ちなみにキャッチャーも変わってもらったのは初見で圭のボールを捕れるとは思えなかったためだ。

やはりバッテリーは慣れている人間がするに限る。

慣れていないバッテリーではミスが起こるからな。

諏訪の最終戦で捕手の方には申し訳なかったが、俺からお願いしたら快く変わってくれた。


「・・・随分若い先発投手ですのね?」


北条美雲が驚いていた。


「あんなに若くてまともなボールなんて投げられますの?」

「まあ見ててくださいよ」


圭が投球練習を始めるようだ。

スタジアムの観客からも声がする。


『なにあの子?見たことないね』

『確か藩主の娘さんじゃなかった?』

『ああ、諏訪の・・。なに?山本投手が投げられないからって思い出作り?』

『あんな華奢な身体で投げられるの?』

『キャッチャーの子でか!』


などなどなど。

観客はみんな不安を感じているようだった。

よし圭見せてやれ。

お前の投球を。

まだ一ヶ月ちょっとだが一緒に努力してきた。

圭が振りかぶって投げる。


スパーン!


今日もいい球だ。

145km/hは余裕出ているな。

それに緊張している様子もない。

この状況を心底楽しんでいるようだ。

観客たちは静まり返っている。

どうやら驚いて声も出ないようだ。


「よーし今日も絶好調!」


静まり返るスタンドで圭の声だけが聞こえた。

さあ行こう!

北条絶対に倒すぞ。


――――――――――――――――――――


「あの子凄い球を投げますのね」


美雲は目を丸くしていた。


「そうでしょう?そうでしょう?」


相手バッターは圭の投げる球に全くタイミングが合わない。

ストレートとカーブ、そして新しく覚えたチェンジアップを武器に圭は北条と対峙する。


北条の選手も驚いていた。


特に新しく覚えたチェンジアップが非常に強力だ。

ストレートと全く同じ投げ方と軌道で打とうと力を入れると面白いように沈んでいく。

初回は北条選手のバットに掠ることもなく、三者連続三振でスタートした。

相手はファールすら打つことができなかった。


「ブイ!」


ベンチの真上にいる俺にブイサインを向けてくる圭。


「こら圭試合中。集中して」

「はーい」


美月に連れられて圭はベンチへと帰って行った。

ベンチからはきゃーきゃー聞こえるのでスズメーズナインに褒められているのだろう。

ここからだとその様子が見えないのが残念だ。


「さ、三者連続三振ですか・・・ウチの選手がああも簡単に・・・」

「ほー 圭さんもやるもんですねえ」


菊花さんもご機嫌だった。

圭は元々優秀な投手だ。

それに相手には圭のデータが全くない。

逆に圭には北条のデータを全て叩きこんだ。

相手バッターの苦手な球種、苦手なコース、全て調べて圭と美月に念入りに教えたつもりだ。

初見で戸惑っている一巡目は問題なく抑えることができるだろう。


「二巡目からが本番だな・・・」


二巡目になると相手も慣れてくるだろう。

相手も一流のプロ野球選手だ。

きっとすぐに対応してくる。


「っとまずはこっちの攻撃だったな。さて相手ピッチャーは・・・うげ」


しまったチェックしてなかったけどまさかの人物だった。


「なんで国丸投手が投げてるんですか・・・。中一日じゃんか」

「国丸自ら直訴したらしいわよ?昨日の惨状を見て本来投げるはずだった子がどうしても投げられないってね」


ローテ投手がそんなんでいいのだろうか。

まあ気持ちは分かるけど。


ズドン

ズドン


相変わらず国丸投手は凄い球を投げる。

キャッチャーミットにボールが収まる音が聞いたこともないほど大きい。

国丸投手がこちらを見る。

手でも振ろうかと思ったが今日は慣れ合わない。

今日は勝ちに来たんだから。


『今日は負けない』


その想いを込めて見つめ返すと国丸投手は薄く微笑んだ。




真田スズメーズ1回表の攻撃は3分で終わった。

全球直球での三者連続三振。

見事にやり返されてしまった。



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