第55話 諏訪スタ最終戦
-side 北条美雲-
「まったく不甲斐ない!」
北条美雲は激怒していた。
見るも無残な惨敗。
昨日の勢いはどこへいったのやら?
まさかの屈辱的敗戦になってしまった。
しかも北条本家から酷い叱責を受けてしまった。
なんでも北条の領民から酷い苦情の声が殺到していると。
昨日の拓真様とのやり取りが生放送で全国に流れてしまったらしい。
まさか拓真様が配信中だったと知らなかった。
>拓真君を怒らせてどうする!
>お前スポーツをやる人間として最低だぞ!
>これで北条が拓真君に嫌われたらどう責任を取るつもりだ!
などなどなど。
私のSNSのアカウントにも同様のコメントが流れており、今の北条は日本中からヘイトの声が向けられていた。
そんな中でも拓真様は北条のことを庇ってくれた。
優しい。素敵。
「ああ拓真様・・・!」
毅然とした態度で私と向き合う瞳。
堂々としたその姿。
少し怒った顔すら素敵だった。
北条を庇ってくれたのも心の中では北条へ移住したいと考えているからに違いない。
なんとしても彼を北条に迎え入れなければ。
「そうと決まれば・・」
次の作戦を考えよう。
私は北条ファルコンフォースの本部に連絡を取るのだった。
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-side 川相拓真-
「タクおっはよー!!」
今日は諏訪スタでの最終戦。
時刻は13時。
いつもの大豊家で待っていると圭がやってきた。
「うっし来たな圭!おはよう!」
「おはよう!さあ今日は天王山!頑張ろうね!」
圭は気合十分だな。
「おはよう圭・・」
「なーに緊張してるの美月!今年最後の諏訪の試合!楽しまなくちゃ損だよ!」
圭は笑顔で言った。
一方の美月は真っ青な顔でガクガクしている。
「でもやっぱり緊張する・・・」
「大丈夫大丈夫!」
「そうだぞ美月!こういうのは気合いで乗り切るんだ!」
「うん・・」
「北条はただでさえ今は弱ってるからね!なんとかなるよ!」
というわけで俺達は今日も今日とて諏訪スタに向かう。
さて今日は今年の諏訪スタ最終戦。
どうなることやら。
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午後17時半。
そろそろ試合が始まる。
スタジアムのざわつきは昨日の比ではない。
ざわざわざわざわざわざわざわ
観客たちは混乱の極みにあるようだった。
「盛り上がってますねえ観客達は」
「まあ気持ちは分かるな」
俺と菊花はいつもの一塁側ベンチ上の席に座っていた。
今日の付き添いは菊花だけだ。
・・・・・・・・・そう思っていたんだけど。
「おーほっほっほっ!奇遇ですわね拓真様!」
何故隣にこいつがいる。
「・・・・・何故アナタがここに?北条美雲様?」
「おーほっほっほっほっ!そんなの試合を観るために決まっているでしょう!?北条ファルコンフォースが真田スズメーズに圧勝する瞬間を!」
昨日あれだけボロ負けしておいて何を言う。
ちなみに昨日の試合の後、テレビの取材でブーイングはやめるようにお願いしておいた。
そして改めて国丸選手のデッドボールがわざとではなかった、と訴えた。
これでどれだけ変わってくれるのやら。
ざわざわざわざわざわざわざわ
しかし観客のざわつきは昨日の比ではない。
盛り上がっているようで何よりだ。
「ところで拓真様」
「なんだよ」
「北条への移住の件、考えてはもらえましたかしら?」
「くどいです。何度も言っておりますが、私は真田の民でありそれを変えるつもりはありません」
「ですが真田など所詮は小領!我が北条に比べればその国力は雲泥の差ですわよ!それにファルコンフォースの方がずっと強いですし、拓真様も嬉しいのではなくて!?」
しつこいな・・。
こんなことを言うためにわざわざこの席に来たのだろうか?
「美雲嬢は強い方に尻尾を振り、主を変えるような男が好みなのですか?」
「? 男性とはそういうものでしょう?」
失礼なことを言う。
しかし参ったな。
諏訪での最終戦、こんなのが隣にいたのでは応援に集中できない。
しかも本当に厄介なことが1つ。
この女からは俺への純粋な好意を感じる。
あの北条慈雲とは異なる、話題性や貴重な男の入手、性欲、そういった打算のない好意だ。
失礼で失言の多いバカの二代目といった印象だが、自分に純粋な好意を向ける相手をあまり無碍にもできない。
慈雲相手ならいくらでも言えるのだが、誰だって美人を傷付けるような言動はしたくないのだ。
自分でもつくづく甘いと思うが、こればかりは仕方がない。
「ところで・・・。今日は随分お客様がざわついておりますわね?」
「ええそれはもう」
前代未聞のことだろうからな。
「そういえば美雲嬢は野球のルールは分かるので?」
「美雲でいいですわよ。ルールはボールを棒で叩いて走ることくらいしか知りませんわ」
やっぱり知らないんだな。
だからデッドボールをわざと当てたなんて簡単に言えるのだ。
「ふむ・・・」
目の前には無垢な金髪悪役令嬢。
しかも俺に好意を持っている。
「なるほど」
この令嬢に野球の楽しさを叩き込む。
これはなんだか物凄く楽しいことな気がする。
川相拓真、精神年齢36歳。
美人の隣で好きに語りながら野球観戦するなんて夢のような経験だ。
そうと決まれば。
「よし美雲聞け」
「な、なんですかいきなり!?美雲だなんて呼び捨てで!そんな夫婦みたいに!」
「おめーが呼べっつったんだろうが!いいから聞け。今日はお前に野球の魅力を叩きこんでやる。俺の隣に座ったお前が悪い。覚悟しろよ?」
「え・・・?」
美雲嬢はポカンとしている。
さあそろそろ試合が始まる。
一体どうなることやら。
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時刻は18時。
試合開始の時刻となった。
諏訪スタに押し掛けるは1万5千人の大観衆。
試合の興奮はピークに達していた。
今日は諏訪スタ最終戦。
この試合が終わったら来年まで野球観戦はお預けになる。
プロ野球ファン的にはぽっかり空き時間ができてしまい、寂しい限りなのだ。
仕事終わりに家で観る野球中継。
これがどれだけ人生を豊かにしてくれるか。
テレビを点けて野球中継を見ようとして「あ・・・もうシーズン終わったんだった・・・」ってなった経験のある人は多いだろう。
『選手紹介です。5番ファースト川上絵里。背番号21』
お、選手紹介が始まった。
いよいよ始まるな。
「あら?こんな風に選手紹介をしてくれるんですのね?」
「そう。これも演出だな。てか昨日もおとといもしてただろ・・・。何を聞いていたんだ・・」
「昨日とおとといは夕食を食べてからの途中参加でしたので。20時まで来られませんしたのよ」
ほとんど見てねえじゃねえか!
まったく勿体ない。きっと領主の関係者なら良い席で見られるだろうに。
『2番セカンド、福本美穂。背番号7』
その後も選手紹介は続く。
今年最後の野球観戦。しっかりと目に焼き付けよう。真田スズメーズの雄姿を。
「そういえば・・今日のピッチャーはどうしたんですの?」
「お前らのピッチャーがウチの数少ない先発を潰してくれたからな・・」
「あ、あれは・・その・・・。ごめんなさい。あのことは特に後でこっぴどく怒られましたわ。ただわざとではないんですのよ?」
「知ってるよ。あの国丸投手が選手にわざとぶつけるようなことをしないってのは」
美雲が素直に謝って来た。これについてはよほど言われたのだろう。思い出したくもないって顔をしている。
『7番ライト、高橋沙雪。背番号25』
さて選手紹介もそろそろ終わる。
行ってこい。
お前達なら必ずできるはずだ。
『8番キャッチャー、大豊美月。背番号66』
紹介された美月がキャッチャーボックスに入る。
少し緊張しているようだが気合いは十分。
「あら?あの方一昨日いた方かしら?」
「防具越しに分かるのか?」
「大きいですしあのポニーテールですから分かりますわよ」
それもそうか。
『そして本日の真田スズメーズの先発投手を紹介します』
そして最後の選手。
9人目の野手がマウンドに上がった。
緊張は感じられない。
この場面を心から楽しむような良い表情をしている。
「いけー!お前達ならできる!かましたれー!!」
彼女は軽くこちらを見るとブイサインをして見せた。
『9番ピッチャー 黒田圭 背番号99」
「よーし美月いっくぞー!!」
「うん・・!」
彼女達の試合が今まさに始まろうとしていた。




