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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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54/104

第54話 いつもと違う諏訪スタ

次の日俺は再び諏訪スタを訪れていた。

圭と美月はいない。

あの2人は今日はやることがあるので来ることができない。


というわけで今日はスペシャルゲストを呼んだ。


「山本投手、腰が痛いのにわざわざ来て頂いてありがとうございます!」

「よ、よろしくお願いします!わ、私が来ちゃって良かったんでしょうか・・?」


球団に連絡を取ってもらい、昨日腰に死球を喰らって今期絶望の山本投手に来てもらった。

真田一筋で20年以上投げたレジェンド投手。

是非話を聞きたかったのだ。


「あ、山本さん!隣にいるのって拓真君じゃないですか!」

「なんですか!?2人で試合観に来たんですか!?カーッ!!羨ましい!」

「山本さん!来週ウチで採れた大根持って行きますんで!」


真田民から滅茶苦茶話しかけられる山本さん。


「愛されてますねえ山本さん」

「あはは・・・ まあ長く投げてますので・・」


先ほどの人達は近所に住んでる人達らしい。

俺が来る前の諏訪スタは3000人しか観客がいなかった。

でも、3000人は試合に来てくれていたのだ。

どれだけチームが弱くても、それでも応援してくれてる人がいたんだ。


「ありがたいですね、ホントに」

「はい!」


ニッコリ笑う山本投手はとても可愛らしかった。



――――――――――――――――――――――


昨日と同じ一塁側の席に座る。

山本投手は諏訪スタを見渡すと目を細める。


「そういえばここから諏訪スタを眺めるのは初めてかもしれません」

「いつもはベンチからですものね」


席に着くと諏訪スタの雰囲気がいつもと違うことに気が付く。


「・・・・・・・・・?」


なんか観客たちが妙にザワザワしている?

また俺なんかやっちゃったか?って思ったけど、特にそういうわけではないらしい。

皆の視線の先は・・・北条の選手達?


「な、なんだか北条の選手達睨まれてません?」

「そ、そうですね。北条の選手達もやりにくそうですね」


時刻は17時。

選手達は各々ウォーミングアップをしているが、観客の様子がおかしい。


「どうしたんでしょうねコレ?」

「さあ・・・?」


山本投手も不思議そうだ。


「・・・・本当に分からないんですかご主人?」

「何が?」


またも菊花に呆れられてしまった。


「あー!!!!亜梨紗なにしてんの!!」


雑談しながら試合が始まるのを待っていると真田の選手たちが俺達の方に続々とやってくる。今日の席も一塁側ベンチの真上の席なので、選手はとても近かった。


「今日は拓真君と一緒に試合観戦です☆えへへ皆がんばってねー」

「何それずっる!」

「おいおいそりゃねえでしょ姐さん」

「そーだそーだ!」


真田ナインが俺ら前でデモを始める。


「すみません!山本さん借りてしまって!」

「拓真君は何も悪くないの!全部亜梨紗が悪いんだから!」

「何それ酷くないですか!?年寄りはいたわるものですよ!」

「都合の良いときだけ年寄りぶっちゃって!」


笑いながら真田の選手と話していると北条ベンチから近付いてくる人がいた。

あれは確か・・・


「あ、あの・・」

「ん?あー!翔子ちゃん昨日はお疲れ様~」


山本投手がフリフリと手を振る。

そこにいたのは昨日先発だった国丸翔子投手。

マウンドではあれだけ堂々とした姿で見事な投球をしていたのに。

今日のこの人はまるで迷子の猫のようだった。


「き、昨日はごめんなさい・・」

「いえいえ気にしないで下さい。私も北条の投手に当ててしまったことなんて何度もありますから」

「でも・・明日投げられないって・・。それに引退するって・・・」

「あはは・・・まあ今までちょっと投げすぎましたからね。最後の試合で点を取られ過ぎましたけど、やり切ったんじゃないかなと」


力なく笑う山本投手。

明日は今期最終戦。

投げて現役生活を終わらせたい気持ちは間違いなくあったはず。

国丸投手は涙目だった。

俺と目が合う。


「あ、拓真君・・・」

「こんにちは」


笑顔で挨拶しておいた。


「こんにちは・・。それと昨日は北条の人間がごめんなさい。言い訳のしようがありません」


深々と頭を下げる国丸投手。

この人は何も悪くないのに。

昨日改めてニュース番組でデッドボールシーンを観た。

どう見てもスライダーのすっぽ抜けで、わざと投げたようには見えなかった。


「気にしないで下さい。国丸選手が謝ることではありませんよ」

「それでもごめんなさい。それとありがとう。テレビのインタビューで庇ってくれたこと、嬉しかった」

「私が思ったことを言っただけですよ。だから庇おうとして言ったわけではないので、それも気にしないで下さい」

「うん・・。ありがとう。今度は昨日みたいなあんな不甲斐ない投球しないように努力する。だからまた見ててね」

「あはは・・お、お手柔らかにお願いします・・」


昨日以上の投球をされてしまうともう打つ手が無いよ。

俺がそう言うと国丸投手は少し笑って三塁側のベンチに帰って行った。

そろそろ試合が始まる。


「拓真君見ててねー!」

「亜梨紗も見ておけ!私達まだまだやれるってこと教えてやんよ!」


真田は気合十分だ。

さあ勝とう。

俺は今日も選手に声援を送るために気合いを入れた。



―――――――――――――――――――――――


「これは・・・」

「な、なんだか凄いですね・・・」


真田スズメーズ vs 北条ファルコンフォース


試合が始まって異変にすぐに気が付く。

観客から北条へのヘイトが凄まじかった。

空振り1つで。ショートゴロで。キャッチャーフライで。

スタジアム中にブーイングが起こる。

バットを振っただけでブーイングされるのだから選手としては溜まったものではない。

これでは何もできないじゃないか。


「どうしてこんなことに・・?山本さんは分かりますか?」

「分かりません・・・。」

「分からないんですかご主人?」


菊花が呆れたように言う。


「真田で人気の男子を奪おうとした件、山本投手にデッドボールを当てた件、これみよがしに後続投手を打ちまくった件、どれもこれも怒られて当然ですよ」

「いやでもデッドボールの件は事故なんだから・・・」

「ご主人はそう思ったとしても他の観客がそれで納得するかは別の話です。昨日のあの映像を見てあのデッドボールをわざとじゃないって思う人間は少ないでしょうね」


なんてこった。

でも確かにあの北条美雲の言い草を見てしまうとそう思ってしまうのも無理はないのかもしれない。

しかしこれは良くない。

スポーツは楽しく観戦するものだし、何より観客のブーイングで選手を萎縮させるのは良くないことだ。


「なんとかしたいな・・・」


しかし俺には観客に自分の気持ちを伝える手段がない。

相変わらず電光掲示板に映りまくっているので、ブーイングをやめるように伝えているんだが、全く伝わっていないようだ。


「まいったなあ・・・」


1回のウラ、北条の投手が内角に投げると今日一番の大ブーイングが起きた。

これではもう内角を投げることができない。

仕方なく投手は外角を中心に攻めるが、やはり狙い球が絞られて打たれてしまう。


北条の先発投手は5回7失点。

そして打線も集中力を乱し、全く打つことができない。

昨日までの滅多打ちはどこへやら。

なんとか意地を見せて3点取るのが精いっぱい。


真田スズメーズ 9-3 北条ファルコンフォース


首位北条ファルコンフォースまさかの惨敗。

シーズン終盤に向けて痛い敗戦を迎えるのだった。

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