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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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53/101

第53話 北条大炎上

-side 国丸翔子-


シャワーを浴びて今日一日の汗を洗い流す。

時刻は23時50 分。

今日は本当に無駄に長い試合になってしまった。

ハッキリ言って気分の悪い試合だった。

上からの指示とはいえ、あそこまでやる必要はなかった。

野球は9回が終わった時点で1点でも相手よりも多く点を取ればそれでいいのだ。

10点も20点も取る必要はない。

打って走るのだって体力を消耗する。

明日以降も試合があるのに無駄に疲れることに何の意味がある?


「はあ・・・」


思わずため息が出る。

今日の試合のピッチングは酷いものだった。

今日のスコアは33-4。

見た目だけならウチのチームの圧勝だ。

しかし話はそう単純ではない。


|4点も取られているのだ《・・・・・・・・・・・》。


今日はたまたま打線が爆発したから勝てただけのこと。

通常4点も取られたら半分以上の試合で負ける。

私の今期の防御率は1.20。

9回投げて1.2点しか取られない計算だ。

ところが今日は5回投げて4失点。

9回投げたら7、8点も取られる計算だ。


今日の私は明らかに浮かれていた。

川相拓真君。

野球観戦に男性が来てくれるなんて想像もしていなかった。

テレビで彼の姿を見た時は衝撃的だった。

男性があんなに楽しそうに野球観戦をしてくれるなんて信じられない。

ありえない。

女だらけの観客席なんて私だってあまり行きたくはない。

それなのに男性があんなに女性が密集した観客席で笑顔を振りまくなんて、彼は一体何者なんだろうか?

それとも真田の男子は皆ああなのだろうか?

もしもそうなら私は本気で真田への移住を検討せざるを得ない。


「ふう・・・」


シャワーを浴びて少しスッキリした。

ボールをぶつけてしまった山本投手には本当に申し訳ないことをしてしまった。

2アウト2塁。例え打席に立つのがピッチャーでも絶対に打ちに来る場面。

外角一辺倒では打たれると思い、少し内角寄りに投げたスライダーがすっぽ抜けた。

しまったと思った時にはボールは手を離れ、曲がることなく山本投手の腰に直撃したのだった。


浮かれていた。

腑抜けていた。

集中していなかった。


いや男子が観客席にいたから、なんて言い訳は人として最低だ。

ちゃんと明日山本投手に謝りに行こう。

彼女は私が子供の頃から真田で投げ続け、そして負け続けた投手だ。

最初は子供心にみっともない、と思った。

でもどれだけ打たれても挫けず、投げ続ける姿に私はいつしか尊敬の念を抱くようになった。

その強靭なメンタルはピッチャーとして得難い資質だ。

しかも彼女はちゃんと毎年8勝程度はするのだ。

負けは60敗くらいあるけど。

だが私も中1日で投げろと言われたら、成績はそこまで変わらないような気がする。


「翔子ー!!」

「ん?」


シャワーから出るとチームメイト達が走ってくる。

酷く慌てた様子だが何かあったのだろうか?


「どうしたの?そんなに慌てて。早く帰って寝ないと明日もキツイよ?」


私は先発だから明日の試合は無い。

だがこの子達は野手だから明日も試合だ。

早くホテルに引き上げた方が良い。


「そ、それが・・・」

「これ見て!北条がSNSで大炎上してる!」

「え・・・」


炎上?

誰が?

ウチのチームが?

確かに今日の試合は酷かった。

必要以上に相手を貶める行為をしたのも事実だった。

しかしルールに則った行為ではあるし、個人記録もあるのだ。

手を抜かねばならない道理はない。

確かに山本投手にぶつけてしまったのは申し訳なかった。

しかしウチの選手だってぶつけられることはある。

基本的にお互い様なハズだ。


「ちょっと見せて」


炎上した場面を見せてもらった。


「・・・・は?」


その動画の内容は衝撃的なモノだった。

動画に映っているのはウチの当主の娘の北条美雲。そして拓真さん。

彼女が真田を、拓真さんを馬鹿にする様子がハッキリと映っていた。

どうやら真田が動画を生放送していたらしい。

それに気付かず美雲が醜態を晒したようだ。


「なにこれ・・・なにこれ・・・・」


膝に力が入らず座り込んでしまった。

これでは私がわざと山本投手にぶつけたようにしか思われない。

ありえない。

そんなことするわけがない。

でもネットでは既に私がわざとデッドボールを投げたことは事実になっていた。


以下コメント。

>マジで北条ゴミじゃん

>わざと当てるとか・・ しかも長老に当てるとか最悪

>山本投手をなんだと思ってるんだ!? 年を取ると回復も遅くなるんですよ!

>しかも話の内容からすると北条が拓真君を引き込もうとして失敗して、その腹いせにやらかしたみたいだね。

>フラれた腹いせに死球とかマジで終わってる


また北条領の住民からと思われるコメントも多々見受けられた。


>真田領の方、そして拓真君本当に申し訳ないです。美雲氏の態度は流石にありえません。唾棄すべきものと考えます。重ね重ね申し訳ありません。

>山本投手のことが心配です。本当に申し訳ない。

>明日諏訪スタで観戦予定なんだけど、どうしよう。行きたくないよ。殺されるよ。

>国丸ありえん。マジで見損なった。

>最低。北条の恥晒し共。二度と応援なんてしない。


彼女達の書き込みも仕方ないことだろう。

あの動画を観た後ではそう思っても無理はない。

また更に最悪の事態が発生してしまった。


山本投手のSNSのコメント。

>私は大丈夫ですよー!皆様ご心配おかけしました。どの道もう今期で引退でしたので、それが少し早まったと考えてもらえれば!諏訪スタの最後戦、投げたかったですけど、間が悪かったですねえ。なんだかそれも私らしいですがw


山本投手からすればどうせ引退するのだから気にしてない、くらいの気持ちだったのだろう。

しかしこれがネット民の怒りに更に火を点けた。


山本投手の引退試合を潰しやがった。


山本投手は生きる伝説。

ファンだってとても多い。

そんな彼女の引退試合を潰したことは私にとっても大変なショックだった。


もはやネットの大炎上は留まるところを知らず、収拾がつかない状態だった。

北条ファルコンフォースのSNSのアカウントはすでに数千件のコメントが来ており、そのどれもが怒りの声、声、声・・・。


とにかく対策を考えないといけない。

時刻はもう遅いが、北条ファルコンフォースのメンバーは一旦ホテルのロビーに集まることにした。


「・・・・・・・・・・・・」


集まったメンバーは深刻な顔をしていた。

特に明日先発の投手が泣きそうな顔をしている。

この雰囲気でどんな球を投げればいいのか。

そんなの私にも分からない。


「拓真君・・・許さんって言ってたね・・・」

「そりゃそうだよ・・。私でも逆の立場なら言うもん」

「明日はどうしよっか・・・」

「多分酷いことになるよね・・」

「とにかく今日みたいに点を取るのは絶対にやめよう?」

「あはは、心配しなくてもこんなメンタルで点なんて取れないよバーカ」


最後のコメントがここのメンバーの総意だった。

昨日まで私達ははしゃいでいた。


「拓真君の前で良いところを見せたいねー。」

「もしかしたら少しはお話しできるかも!?」


なんて呑気に話していたものだった。

それが蓋を開けてみればなんだ。

拓真君を激怒させ、スズメーズのレジェンドに多大な迷惑をかけ、自チームのファンにすら愛想をつかされる始末。

拓真君に卑怯者だと思われたことが何よりも辛かった。

このまま消え去ってしまいたかった。


「あ・・・」


ロビーのテレビでスポーツニュースが流れている。

今日の試合も当然ピックアップされていた。

33-4の大勝。

しかしそれを喜ぶ人間なんていない。

むしろ全員恥ずかしそうに口を噤んでいた。

テレビ画面ではファルコンフォースが得点を重ねて嬉しそうにしている映像が流れている。

これから地獄に突き落とされるとも知らずにバカな連中だ。

自虐的な笑いが込み上げてくる。

テレビではアナウンサーやゲストがこの試合について話をしているが、ウチのチームに否定的なことしか言っていない。


「同じスポーツをやる人間としてこれほど恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。」


北条のかつてのレジェンド選手にも切り捨てられた。

もう私達には味方などいない。

明日どんな顔して諏訪スタに行けばいいのだろう?


「あ・・・」

「拓真君・・・」


さらにスポーツニュースでは拓真君へのインタビューを流すようだ。

あの動画の出来事の後に撮りに行ったのだろうか?

凄い勇気だ。私ならあの北条許さんを聞いた後に拓真君に話を聞きに行く勇気はない。


怖い。

見るのが怖い。

もし拓真君に罵倒されてしまったら立ち直れないかもしれない。

でも目を逸らすことは許されない。

私達は一言も発することなくテレビを食い入るように見つめる。


「拓真さん今日の試合お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!いやー長くなりましたねえ!」

「その・・本日は本当に申し訳ありませんでした」

「山本投手のことですか?デッドボールは気を付けてもあるものですから。お互い様ですよ。野球には付き物ですから」

「それ以外にも先ほどの・・・」

「すみません今日は試合の話だけしましょう?国丸投手の投球も凄かったですねえ!最速160km/h!興奮してしまいましたよ!」

「そうですね!国丸投手は北条の誇りですから!」

「分かります分かります!それに内野守備の方々も凄かったですよ。守備位置を細かく変えて安打を何本か防がれちゃいました。ちゃんとデータを見ているんだなと感心して・・・」


その後も拓真君は北条の良いところを一杯言ってくれた。

え、こんなに細かいところも見てるの?と感心してしまった。

この人は本当に野球に詳しくて、本当に野球が好きなんだなと伝わってきた。

チームメンバー全員泣きながらテレビを観ている。

拓真君に罵倒されることがなかったという安心。

自分のチームの良いところをたくさん見つけてくれたという嬉しさ。


そして


そんな彼や真田に対して自分達がした仕打ちに対する申し訳なさ


その全てが混ざりあい、もうどんな情緒になればいいのか分からない。

私達は今夜。

果たして眠ることができるのだろうか?

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