第40話 歴史の齟齬
「・・・・佐渡の金山?」
琥珀様は怪訝な顔をしている。
「はい!佐渡の金山っていったら有名ですからね!一度は行ってみたいと思ってたんですよ!」
元の日本で動画投稿サイトで佐渡の金山特集を見たことがある。
佐渡の金山は確か江戸時代に開発されて、江戸幕府の財源を支え続けた大切な金山だったとか。採掘跡とか凄かった記憶がある。是非一度見てみたいものだ。
「・・・・・・・確かに、室町時代に少しだけ佐渡で金山開発を行った記録があったと思うけど。そんなマニアックなことよく知ってるね?」
「え」
室町時代に少しだけ?
いやいやそんなワケがないだろう。
佐渡の金山は江戸幕府を支えた大切な・・・・
大切な・・・・・
「あ」
そこである重要な事実に気が付く。
江戸幕府 無いんだった。
背中から脂汗が流れる。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
つまりこの世界では佐渡の金山が丸々採掘されずに残っているということか?
これは一大事じゃないだろうか?
「・・・・・・・・・・・」
「拓真さん?」
「あ、はい!」
いかんどうにか誤魔化さないと。
「あ、あはは!いやー!なんか勘違いしてたかもですね!よく考えたら佐渡に金山なんてなかったかも!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ご主人。それは流石に無理があるかと」
琥珀さんと菊花が疑いのまなざしを俺に向けている。
やっぱダメか。
「ま、まあ!気にしないで下さい!あははは!」
「ん。分かった」
琥珀さんはあっさりと引き下がる。
良かったなんとか誤魔化せ・・・てはいないんだろうけど、これ以上触れるのはやめてくれるらしい。
「それじゃあ私は行く。拓真さんまたどこかでお会いしましょう」
琥珀さんは肩で風を切って歩いて行った。
武道でもしていたんだろうか?非常に姿勢が良くてカッコいい後ろ姿だ。
「カッコいい人だなあ。流石は長尾家の次期当主」
「先祖代々自分は毘沙門天の生まれ変わりと主張してやまない変人達の巣窟だよ長尾家は」
圭がバッサリ切る。そういえば長尾は特に衆道が盛んな家だったと記憶しているのだが、その辺どうなったんだろうか?
「まあいいや。それより今週の諏訪スタの試合は長尾と対戦かー」
長尾のチームはまだテレビ中継されたのを見たことがなかった。
どんなチームか楽しみである。
「よし!今週も頑張って応援するぞー!」
「おー!・・・ってそういえばタクに訊くの忘れてた」
「どうした圭?」
「試合のチケットってもう買った?この間の試合は千幸様にチケット貰ってたけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ」
前に予め買おうとした時に圭にこう言われたのだ。
「前売り券?そんなの買わなくても諏訪スタなんていつもガラガラだから当日券で十分だよ」
しかし前回の試合の騒動を考えると・・。
俺は慌ててネットでチケットサイトに飛ぶ。
すると諏訪スタの試合はこれから全試合全席完売となっていた。
――――――――――――――――――
「はあぁ~あ・・・・」
時刻は18時。
俺は大豊庵の机に突っ伏していた。
諏訪スタではこれから真田スズメーズvs長尾メジロスラッシャーズの試合が間もなく始まろうとしているだろう。
それなのに俺は諏訪スタに行くでもなく蕎麦屋の机に突っ伏していた。
先週の調停の後、チケットが売り切れなことに気が付き、慌ててチケットの入手を試みたが駄目だった。完全に油断していた。まさか自分の影響でここまでチケットが売れるなんて思いもしなかったのだ。いや本当は2試合目の時点で早く気が付くべきだったのだが、完全に抜けていた。
「はぁああああああ・・・」
「拓真君ごめんね・・・。私が言ってあげればよかったのに・・・」
「いや美月のせいではない。気にしないでくれ」
しょんぼりしている美月に慌てて否定する。
「でも拓真君はまだ諏訪に慣れてないんだし、気が付かなくてごめんね・・・」
「それはお互い様だからこの際言いっこなしだ」
しかしこれからどうしよう?まさかまた千幸様にお願いするわけにもいかない。諏訪スタの試合は今期あと6試合あるのだが、チケットは全日程で壊滅状態だった。この際転売屋からでも・・!という悪魔の囁きが頭をよぎったがそれすらもなかった。
どうやらこっちの世界ではまだそういう連中は出てきていないらしい。
今後問題にならないといいんだけど。
まあそれは後で考えるとして・・・。
「はあああ・・・」
「拓真君しっかり!」
「お姉さんが慰めてあげるね」
蕎麦屋の常連に慰められる俺だった。
プルルルル・・・ プルルルル・・・
「ん?」
誰かから電話が来た。表示を見る。
-真田千幸-
おっと千幸様から電話だ。
ちなみに千幸様にはちゃんと言われた通り毎日寝る前に電話している。
他愛のないことが大半だが、それでも毎日15分~30分もお話しているので、ちょっと千幸様には申し訳ない。
千幸様聞き上手なので、俺もついついお話してしまうのだ。
『もしもし拓真君?』
「あ、千幸様こんばんは!」
『こんばんは拓真君。今どこにいるの?』
「? 大豊庵におりますけど・・・」
本当は諏訪スタに行きたかったけど仕方ないのだ。
元の世界でも甲子園のチケットを取るのはかなり大変だった。
『どうして?今日も試合に行くのではなかったの?』
「ああ、それがチケットが全部売り切れで今日はいけなかったんで…」
仕方ないのだ。
『拓真君。今すぐ諏訪スタに行きなさい』
千幸様に告げられる。
「え、でもチケットがないので・・・」
『それはこちらでなんとかするわ。さっきから諏訪スタに拓真君がいないって苦情が真田に殺到しているのよ。助けて欲しいわ』
「え?」
何故それで真田に苦情が?
『どうやら私が拓真君を幽閉したと思われたみたいね』
「幽閉?」
『可愛い男の子を領主が独り占めしたくなったんじゃないかって』
そんなことあるわけ・・・ないこともないんだろうなあこの世界だと。
とにかくこれで今日も野球を観にいけるんだ。それ以外なんでもいい。
「分かりました!すぐに諏訪スタに向かいます!」
『お願いね』
通話を切ってすぐに準備をする。
「よし菊花!すぐに出かけるぞ!!」
「はあ・・仕方ありませんねえ」
「あ・・・」
美月がちょっと悲しい声を上げる。
「あ、美月も来れるのか・・?ごめんちょっと分からん!」
「あ、うん・・。私はいいよ・・お店もあるし・・。拓真君は楽しんできて・・?」
「そうか・・・」
美月の分のチケットまで貰えるか分からないもんなあ。スタジアムまで行って中に入れなかったら寂し過ぎる。今日は仕方ないか。
「ごめんな!明日からの試合のチケットなんとか皆の分も貰えないか訊いてみるから!」
「うん・・・ありがと拓真君」
慌てた様子でお店を出て行く拓真。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
いつも学校に行く時は拓真君が私を見送ってくれる。そして拓真君が出かけるときは大体私も一緒に出掛けていた。だから拓真君を私が見送ることというのはこれまでほとんどなかった。
「寂しい・・・」
思わず出たひと言を聞かれてしまった美月は常連にからかわれて恥ずかしい思いをするのだった。
――――――――――――――――
というわけでやってきました諏訪スタ。
スタジアムの外はほとんど誰もおらず閑散としていた。
試合を観に来たお客さんはスタジアムの中に入ってしまったのだろう。
「失礼。川相拓真様ですね?」
入口に向かうと知らない人から話しかけられた。
「そうですけど・・・あなたは?」
音もなく俺と女性の間に少し肩を入れる菊花がちょっとかっこいい。
「失礼。私は長尾の職員の斎藤と申します。拓真様こちらにどうぞ」
俺と菊花は知らない入口からスタジアムの中に入る。ここはスタッフ用だろうか?
薄暗い通路を歩く。ここは・・・
「あれ、こっちって・・・」
通路を抜けると開けた場所に出た。
「おおおー!!!」
俺達が出た場所は野球観戦のまさに特等席。
選手が最も近くで見られるバックネット裏にやってきたのだった。




