第38話 ペンギンとアメンボ
驚いた。
わざわざ長尾家の嫡子の方がこんなことのためにいらっしゃるとは。
男同士の諍いというのは俺が想像するよりも大事なのかもしれない。
まあ男女比1:1000じゃ滅多にないことだろうしな。
しかし綺麗な方だなー。そこのペンギンみたいな体型のおばさんと並んでいると5割増しで美しく見える。
「これは長尾からわざわざありがとうございます。道中遠かったでしょう?」
「・・・そんなことない。春日山から諏訪湖まで車で2時間くらいだから」
それでも結構な外出だ。忙しいだろうに申し訳ない。
「んなことはどうでもいいザマス!!早くこいつらを裁いて罰を与えるザマス!!」
「ん。それじゃあまずはお互いの主張を聞きましょう」
〇俺達の主張
・道を通りかかっていたら女性に一方的に絡む連中を発見。
・取り巻きの女達が俺の肩に手を回してきたので危害を加える意志アリとみなしてウチの護衛がボコボコにした。
・そこのアメンボは勝手に倒れておしっこちびってた。
〇荒川新之助の主張
・道を歩いていたら俺と女3人がいきなり襲ってきた。
・奇襲だったので取り巻き三人はやられたが、新之助は勇敢に戦った。しかし数の不利を覆せなかった。
「ふむ・・・お互いの主張は真っ向からぶつかっているみたいだね」
「そいつらがウソを吐いているザマス!そんな田舎者と私達どちらが正しいことを言っているかなんて明らかザマス!」
「そうだそうだ!」
騒ぐペンギンとアメンボがうるさい。
ちなみに女3人はまだ病院にいるらしい。
「おいそこのアメンボ。お前は勇敢に戦ったと言うのか?」
「そ、そうだ!そんなの当然だ!てか誰がアメンボだこら!」
「よしそれじゃあ今から俺と戦おうぜ?お前が何分持つか試してみよう」
「おお!いいですねえ!ボクも協力しますよ!1秒持ったら褒めてあげますよ」
こっちはバリバリの体育会系。一方向こうは水生昆虫系。まともに戦っても死に方を選ぶことすらできないだろう。せめてタガメぐらい強そうならよかったのに。
「ま、待った!」
慌てるアメンボ。
「きょ、今日は調子が悪い」
「じゃあいつ調子が良くなる?いくらでも待つぞ」
「きょ、今日北条に帰るからもう無理だ!」
「ア、アナタ!新之助ちゃまになんてこと言うザマスか!」
「だってお前らが戦ったって言ってるんだもん。それがウソだって証明してやろうってのに」
残念だ。ちょっとはこいつの腑抜けた根性叩き直せると思ったのに。
琥珀さんがため息を吐く。
「それよりどうしようか?これだとどっちかがウソを吐いていることになるんだけど」
「どうもこうも無いザマス!こっちが本当に決まってるザマス!アタクシ達は北条の重鎮の家系!そちらはただの田舎者ザマスから信用が違うザマス!罰としてそっちの女どもには多額の慰謝料請求!男の方は後で私の寝所まで来るザマス!」
寝所で何をさせる気だ。気色悪いことを言うな。
「うーん・・・」
「おらおら琥珀よ!早くそいつら捕まえちゃってよ!こっちはそいつらに襲われて迷惑かけられてるんだからさー!!」
「・・・・・・って言ってるけど拓真君達は何か反論はある?」
「あるわけないザマス!そんなの・・」
「あ、昨日の騒動の一部始終を録画してるんですけど、見てみます?」
固まるペンギンとアメンボ。
「・・・・・・・・・え」
「だから録画してるんすよ。昨日俺ら動画サイト用に動画作ってたんで。その流れで」
証拠:事件の一部始終を録画した動画
つきつける。
世界一やりがいのない逆転裁判だ。
「ん。そんなのあるんだ。それを見たらてっとり早いね」
早速見てみよう?と琥珀様。
「ま、待つザマス!」
ペンギンがストップをかける。
「? どうしたの?」
「ア、アンタ!ちょっとそのカメラ寄越すザマス!」
「? 嫌です」
美月が心底嫌そうにしている。
「た、タダでとは言わないザマス!それをこっちに寄越せば100万・・・
いや200万払ってやってもいいザマスよ!どう!?アナタのような田舎者にとっては大金でザマしょ?!」
「いらない」
美月はキッパリと言う。
「・・・荒川氏。調停員の前で堂々と証拠隠滅とはいい度胸ね。この調停の様子も録画されているって忘れてない?」
「それに録画されていたんなら喜ぶべきでしょ?自分の言っていることが正しいって証明されるんだから」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ・・・・」
早速映像が流される。しかし流れるのは当然俺達の言った通りの光景だ。アメンボと取り巻きが女性に絡み、俺に絡み、取り巻き女がブッ飛ばされてアメンボが漏らす。
「こ、これは作られた映像ザマス!そもそも・・」
「もう結構!」
琥珀さんが一喝する。
「調停員として判断します。荒川親子の言うことは嘘八百。よって取り巻き3名は川相拓真氏に慰謝料を支払うものとする。額については現行法に照らして追って通達。もしこの決定が不服と言うのであれば北条に帰った後、領主を通して連絡するように。分かりましたね?」
「ぐ、ぐぅぅ・・・」
「? 琥珀様。ペンギンとアメンボからは私に何もありませんので?」
「ん。彼は別に拓真君に何かしたわけじゃないから・・・」
ああそういやそうか。
「そういえばコイツは何もできずにただビビッてちびってただけでしたね。でも通行人にタックルした挙句罵倒してましたけど?」
「それくらいだと男の人は罪に問われないから・・・」
相変わらず男に甘い世界だ。
「? なあ圭?」
「なにタク?」
「それならこいつらなんでこんなに抵抗してるんだ?」
罪に問われないならさっさと認めて家に帰った方がいいんじゃ?
「あっちの病院送りにされた女達の方がヤバいんだよ。あいつら持ち物からしてかなりエライ奴の娘とかだと思うよ」
「ああなるほど・・・」
偉い人の娘が他領で男を攫おうとして性的暴行を加えようとしたというのは流石に体面が悪すぎると。
「慰謝料もたくさん出るよ!やったねタク!」
「いや・・・別にあれくらい・・・」
「下手なこと言わない方がいいですよご主人。ちゃんと貰っておかないと舐められますよ?」
あいつ訴えてこないらしいから性的暴行しちゃえ的な感じか。それは勘弁だ。
「ぐぬぬぬぬうぅ・・・・ わ、分かったザマス!そっちの男については勘弁してやるでザマス!!」
「おお」
素直なペンギンだ。
「だぁあけど!!代わりにそっちの女に慰謝料たっぷり請求してやるでザマスぅう!!!お前ウチのボクちゃんにぶつかっておいてタダで済むと思うなザマスぅぅうううう!!!」
「ええ・・・」
所詮ペンギンか。
「おいおい~!!そっちは映像とかねえんだろ?お前らが来る前の話だからなあ!ざまあみやがれ!」
「あ、そっちもちゃんと監視カメラの映像もらってきたよ?」
「ほげえええええええええええええええええ!!!!!」
ペンギンうるせえ。
ちなみにこのアメンボがホテルの角から女性に突っ込んで行った様子がバッチリ監視カメラに映っていた。結構高いホテルの前であった事件だったからちゃんと監視カメラがあったんだなあ。
「ん。見てみよう」
琥珀さんは黙って監視カメラの映像を再生する。そこには自分からわざと影から飛び出して女性に体当たりするアメンボの様子が映されていた。
「まだ何かある?」
「こ、この映像だけだとどっちに非があるか分からないザマス!」
「いや思いっきり自分から飛び出てるじゃん・・・」
「そ、そんなの分からないザマス!!」
見るからに影から狙って飛び出てるんだけど。
「そこの小娘が悪いザマス!男に無断で接触するなんてどうかしているザマス!」「ふぇえ・・・」
巻き込まれただけの女性は半泣き状態だ。
「そ、そっちからタックルしてんじゃん!」
「うるさいザマス!仮にそうだとしても男からのタックルを避けられないのが悪いザマス!」
「あんなの避けられない・・・」
「そんなの女としての自覚が足りないザマス!男からのタックル避けられないなんてどうかしているザマス!避けずに接触する奴なんて慰謝料請求されて当然ザマス!」
「ふむ・・・」
ちょっと考える。このペンギンホントにうるさいな。なんとかしよう。
「一応質問するけど、男からタックルしてもされた女の方が悪い、ということでいいのか?」
「いいザマス!さっきから言っているザマス!」
「タックルされた方が慰謝料払って当然と?」
「そうザマス!お前から請求される分を全部その女に請求してやるザマス!」
「なるほど」
そういうことなら話が早い。
「うおりゃああああああああああああ!!!!!!」
「ぶぺっ」
ペンギンに向かって思い切りタックルをかます。
ペンギンはパイプ椅子から転がり落ちると壁の方に転がり、机に置いてあったお菓子をぶちまけてから壁にぶつかり止まった。
この部屋にいる人間全員が何してるんだコイツという目で俺を見ている。
ちょっと気分が良い。
「何するんザマスか!!」
「お、お、お前!母様になんてことを!ただじゃ・・」
「おいペンギン」
俺は右手を差し出す。
「慰謝料寄越せ」




