第36話 繁華街での騒動
「つっかれた~・・・」
諏訪大社を4つ周るの案外大変だった。
一応番組ということで常に何かしらのリアクションをしていたためとても疲れる。
しかも神社は階段を上ることも多いので、体力も結構消耗した。
「だらしないですよご主人。もっと鍛えないといけないかもしれないですねえ」
「そんなこと言ったってさー・・・」
護衛忍者である菊花は元より、カメラを抱えていた美月、一緒に出演していた圭も全く疲れたそぶりはない。こいつらのフィジカルどうなってるんだ。
「まあタクは動画出演初めてだし仕方ないよ!私達は慣れてるし」
「そ、そうだよ・・」
2人が慰めてくれる。ホントに良い子達や。
ちなみに美月は今もカメラを回している。ショート動画として使えそうなところは全部使うつもりらしい。
「今日で動画何本分くらいになるかな?」
「んーそうだねー・・見所一杯だったからねー」
「10本くらい作れるんじゃないですか?」
「それは作り過ぎだろ・・・」
どんだけ使うつもりだ。
「男性が出ている動画は珍しいですからねえ。今回の動画も凄い人気になるんじゃないでしょうか?」
「そうかなあ・・・?」
その辺の感覚は全くピンと来ない。こっちの世界の女性の気持ちってまだよく分からないんだよなあ・・。この3人はいい子なので、この子らを標準と考えたらいつか痛い目を見る気がする。
ちなみに今は諏訪湖近くの南側のリゾート街を歩いて晩御飯を食べる場所を探している。
お昼は春宮近くのカフェで軽く食べただけだったので、ちゃんとした食事を摂りたい。
こっちの世界に来てから蕎麦率が高いので、こういう機会にレストランとか行きたいのだ。いや伊月さんの蕎麦に不満なんてないのだが。
「ちなみに何か食べたいもんとかある?」
幸い精子提供を続けているおかげで懐は温かい。多少の無駄遣いならしても大丈夫だろう。
「拓真君の好きなところにして・・・?」
「タクに任せる」
「ボクもです。というか女の意見なんて聞かなくていいんですよご主人は」
なんでもいいが一番困るんだよなあ。
「それじゃあイナゴの佃煮にしよう。それでもいいのかお前ら?」
女子にイナゴはキツかろう。適当なことを言った報いを受けるがいい。
「イナゴかあ・・。そういえば最近食べてなかったかも・・・」
「それなら良いお店があっちにあるよ!早速行ってみようか?」
「ご主人は変わった希望を言うんですね?わざわざ食べに行くようなものでもないというのに」
「え」
怯まない女子達にこっちが怯む。
というかあるのかイナゴ専門店。
恐ろしいな信州。
「い、いややっぱりイナゴはやめておこう。普通に肉とか食いに行こうぜ?」
「? そう?それならあっちに洋食のお店あるから行ってみる?」
「そうしようそうしよう!」
焦った。
危うくイナゴ専門店に連れて行かれるところだった。
「それじゃあ・・・」
-きゃあ!!
レストランに行こうとすると少し遠くで小さい悲鳴が聞こえた。
何事だろう?と見ると女の子が1人地面に座り込んでおり、それを4人くらいが囲んでいるのが見えた。
何か揉め事だろうか?
「あれはなんだろ?喧嘩かな?」
「すぐに通報するね。ごめんねタク」
圭がどこかに電話をし始める。
でもなんかヤバい雰囲気だな・・・。
4人が1人を取り囲んで罵詈雑言を浴びせているのが見えた。
警察は間に合うだろうか?
取り囲まれている方は半泣きを通り越して全泣き状態だし、雰囲気が異常だ。
周りの人間も誰も止めようとしない。
「ちっ・・ なんで誰も止めないんだ」
「・・・はあ。仕方ありませんよ。だってあれは・・・」
相手の顔をよく見る。そして気が付いた。
「俺様の肩にぶつかっておいて土下座もしねえとか何考えてるんだよお前!!!!地に頭を付けて謝りやがれ低能!!!このクソドブスが!!」
それはこの世界で初めて見る男の姿だった。
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-side 出浦菊花-
男が3人の女を引き連れて一人の女を罵倒している。
ボクはその姿を見て嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
一体何様のつもりなのだろうか?
身体付きを見る。
筋肉なんてほとんどないモヤシであることはすぐに分かった。
腕はヒョロヒョロでロクに運動すらしたことがないのだろう。
まるで水面に浮かぶアメンボのようだ。
周りの女3名は護衛だろうか?髪を金髪に染めたただのヤンキー、といった雰囲気だ。
ロクな訓練も受けていないのだろう。
品がなくぎゃーぎゃーうるさい。
見た目は完全に山賊だ。いや山賊の方がマシか。山賊なら斬り捨てて終わりだし。
持ち物の品質から見るにあれは北条の上流階級の女だろう。男に付いて良い気分といったところか。
「オラオラ!!早く地べたに頭を付けて謝れや!!」
「きゃははは!みっともなーwww流石は真田の田舎者wwwだっせー女www」
「ホラホラwwお前みてーな田舎者には一生お目にかかれない男様だぞww靴でも舐めたらいいんじゃないのwww」
「ぶわははは!!そりゃいいや!オラキサマ!とっとと跪いて靴舐めやがれ!!」
見苦しい。
この間部屋でゴキブリの交尾を見かけて叩き斬ったことを思い出す。
何をどうしたら人間としての品性をあそこまで失えるものなのだろうか?
吐き気がする。
叩き斬ってしまいたい。
しかし少し厄介だった。
何せ相手は男だ。
基本的に女が男に危害を加えることはできない。
もちろん女に対してやりたい放題というわけではない。
例えば男が女を殺せばちゃんと殺人罪になる。
だが基本的に男が他領で起こした罪は金で解決される。
他領で問題を起こしたからと言って身元を預かることはできない。
その昔、北条が自領を訪れた男に難癖付けて捕縛したことが何件もあったため、このような処置になったと聞いた。
さてこの場合どうしたものか。こんな男叩き潰してやりたいがそれもできない。もしそんなことすればどちらが悪いかに関わらずボクは捕まる。最悪北条領で縛り首になることもありうる。それだけ女が男を傷付けるという行為は罪が深い。
なんてことを考えているとご主人が男たちに向かっていく。しまった考え事をしていて反応が遅れた!
「ちょ、ちょっとご主人!何をするつもりですか?」
「アレを止める。見過ごせない」
「ダメです!女なんかのために余計なトラブルに首を・・・」
「女なんか、じゃない!」
大きな声を出すご主人に思わずビクリとした。初めて向けられる怒りの声に膝がガクガクと震える。基本的に女は男から負の感情をぶつけられることに慣れていない。一瞬パニックになりかけるが、すぐに精神を落ち着ける。心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。こうなるともうご主人を止めることはできないだろう。見て見ぬフリをすればいいのにわざわざトラブルに首を突っ込むなんて。
ああ、ボクはなんて厄介なご主人の護衛を任されてしまったのだろう。
そしてそれがこんなにも誇らしいなんてきっとボクもどうかしている。
「お前ら何をしている!!」
ご主人が男達と俯く女性の間に立つ。
ボクはご主人の隣にピタリと付いた。一緒に来ようとした美月さんと圭さんを手で制す。こんなヤツらに3人もいらない。ボクだけで十分だ。それよりも美月さんには撮影を続けるように目で合図を送った。後になって有利な証拠になる。こちらに不利なら破棄すればいい。
「あん?なんだてめえ?」
「お前らどこから来た?真田の人間ではないな?」
「はん!俺様がこんなちっぽけな領の人間なワケがねえだろ!俺様は荒川新之助!てめえこそナニモンだ!?」
「俺は川相拓真。お前らウチの領の人間に何をしている?」
ご主人は一歩も引かない。女三人も睨んでいるが、その視線もどこ吹く風と言わんばかりだ。
「きゃははは!!おいおいよく見たらコイツ男じゃんよ!!」
「可愛らしい顔して!!お姉さん達が遊んでやるよ!!」
「もちろんベッドの上でだけどな!きゃはは!!」
喚くブタ共。
ご主人はそんな3匹を一瞥すると心底嫌そうに言う。
「黙れドブス。吐き気がする」
空気が凍る。
「おいおいお前・・・。自分の立場分かってんの?ウチら北条本家の縁戚だよ?」
「その私達が来いっつってんの。大人しく付いて来いよ」
「おらおらおら~!!」
女の1人が拓真君の肩を掴み、もう1人が腰に手を当てた。
よしこれでいい。やりやすくて何よりだ。
ボクは1人の女の手を握る。
「18時37分。女性から男性への暴力行為を視認、並びに撮影。これより排除します」
「はあ?おいなに掴んでんだよ、早く手を・・・」
「うるさい」
ボクはピーピー鳴く女の顎を打つ。それだけで女はきりもみしながら10mは吹っ飛び、路上のごみ箱に頭から突っ込んだ。
「ブタがいっちょ前に喋るな」
残りの2人の女も排除する。こいつらのせいでボクまでご主人に怒られてしまった。この恨みぶん殴れば少しはスッキリするだろうか?




