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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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35/42

第35話 諏訪大社

諏訪大社の正面から足を踏み入れると、まずその荘厳な存在感に圧倒された。

古き神々を迎え入れるための大きな鳥居は、まるで異世界と神界を繋ぐ扉のようだ。

鳥居をくぐると長い参道が目の前に広がり、足元に敷かれた石畳がコツコツと静かに響く音を立てる。

参道の両側には何百年も生き抜いた大木が立ち並び、葉の隙間から差し込む光が木漏れ日となって足元を照らす。

時折木々の間を吹く風が心地よい。

奥に進むに連れ徐々にその神聖さが増していき、やがて正面に巨大な社殿が現れた。

諏訪大社の社殿は、他の神社と比べても特に力強さを感じさせる構造をしている。壮麗な屋根には独特の形状があり、古代の信仰の象徴として、時の流れに耐え、今もなお神々の力を宿しているかのようだった。


本殿の前に立つと、空気が一層静かになり、周囲の音が遠くに感じられる。目を閉じる。

無言の祈りがその場所に込められていることを感じ取れるようだった。

朝も早いのに参拝者が何人か見える。

時折、参拝者が静かに手を合わせる音が響き、その一つ一つの動きが、長い歴史を持つ諏訪の地に流れる神々への敬意を象徴しているようだった。


ドン・・


ドン・・・


遠くから太鼓の音が聞こえる。

何かのお祭りの準備だろうか?


諏訪の地は、その独特な信仰の歴史を今もなお色濃く残しており、古代から続く神々の力強い息吹を感じることができた。


「これは・・やっぱ凄いなー」


俺が諏訪を訪れたのは8歳くらいだっただろうか?親に車で連れられてきた家族旅行だったが、その時の記憶が呼び起こされる。

その姿は俺が見た諏訪大社と何ら変わらない気がした。


「えへへー 凄いでしょ?」

「ああ・・ いつ来ても神聖な気持ちにさせてくれるなここは」


前回来た時も子供ながらに圧倒された記憶がある。


「? タクは諏訪大社に来たことがあるの?」

「大昔にな。その時は子供だったけど、やっぱ雰囲気あるなーって」

「ご主人は記憶がないんじゃないんですか?」

「こ、こういうのは何故か覚えてるんだよ?」


記憶喪失設定めんどいな!てか今更ながらに記憶喪失とか無理がある気がしてきた。

多分記憶喪失の人はレプリカユニフォームとか言わない。

かと言って正直に話すわけにもいかんしどうしたものか。


「ま、まあいいじゃんそんなの!それより早く撮影しようよ!」

「そ、そうだね・・・ 撮影しよう・・!」


美月と圭が慌てる。

彼女達はきっと俺の記憶が戻って欲しくないと考えている。

それはそうだろう。

彼女達にとって俺の記憶が戻る日が俺との別れの日だ。


「別れの日・・・か」


俺は元の日本に戻れる日が来るのだろうか?甲子園で試合観戦中にいきなりこちらに連れてこられた俺だ。諏訪スタで試合観戦中にいきなり戻される可能性だって十分ある。

こちらの世界の危機的状況について十分理解している。

そしてそんな状況にも拘わらず俺に種馬生活を強要せず自主性に任せてくれた千幸様には感謝しかしていない。

しかしそんな俺がいきなり消えてしまった時、彼女達はどうなるだろう?

一度は希望を見せられただけに絶望も大きいだろう。

もし俺の自主性に任せたことが他領に知られた場合、千幸様は攻め立てられるかもしれない。


「何故彼がいなくなる前に彼の種を残さなかったのだ」と。


当然だ。

千幸様は優しい。優し過ぎる。ハッキリ言って今の世界の状況を考えれば俺が呑気に野球観戦して動画撮影なんてしているのが異常だ。

本来であれば城に隔離されていて然るべきだろう。


「・・・・・・・・・・・・」


だからこそ報いなければならない。

昨日と一昨日は野球観戦に夢中になってしまって考えていなかった。

いや目の前のあまりにも大きな問題から逃げていたのかもしれない。

だが俺がいつ元の世界に戻されるか分からない以上、本来であれば一刻の猶予も無いと考えるべきだろう。



俺も覚悟を決める時がすぐそこまで来ている。



「? おーいタクー?動画撮影するよー?」

「おおーすまんすまん 今行くよー」


いかんボーッとしてると俺は圭に呼ばれた。


「どうしたのタク?お腹痛くなっちゃった?」


圭が上目遣いでじっと俺を見つめてくる。相変わらずの美少女。サイドポニーをたなびかせる姿はそこらのアイドルにだって負けないだろう。こっちの世界にアイドルなんているのか知らないけども。


「大丈夫だよ。さ、それより早く撮影しようぜ」

「うん!そうだね!」


圭はとびきりの笑顔を俺に向けてくる。

本当に魅力的な女の子だ。

俺も流石に理解している。

彼女の好意を。

きっと彼女は拒まない。

しかし同時に考えざるを得ない。

彼女の人生がかかった行為だ。

簡単に決めていいものではない。



俺は誰に何をお願いするべきなんだろう?



―――――――――――――――



「ほー ここが諏訪大社ですかー!なんだか涼しくて良い風が来ますねー。それになんだか神聖な気持ちになります」

「そうでしょうそうでしょう!」

「長閑でいい雰囲気ですねー」


俺達は諏訪大社をプラプラしながら中を見て回っていた。


「ちなみに諏訪大社は全部で4つあってね。それぞれが違った役割をしているんだよ」

「へー そうだったのか。それにしてもなんで別れちゃったんだ?」


内部での後継者争い的なヤツだろうか?


「いやいやそういうんじゃなくてね。それぞれに役割が違うの。諏訪大社はまず上社と下社に別れて、そこから更に上社が上社前宮と上社本宮、下社が下社春宮と下社秋宮に別れたんだ」


聞くところによると上社の本宮がメインの信仰の対象で、前宮が神様の使いを迎える儀式を行い、春宮が春に関する祭祀を、秋宮が秋に関する祭祀をそれぞれ行っているらしい。この辺は元の世界と同じなのだろうか?戦国以前からあるのなら同じだと思うけど。


「諏訪大社が4つに別れたのっていつ頃なんだ?」

「え、えっと・・・確か・・・」

「平安時代から鎌倉時代ですよ。もう1000年ほど前の話です」


菊花がフォローを入れてきた。てか喋るのか音声さん。まあいいけども。しかし1000年も前ということはきっと元の世界でも同じなのだろう。


「ちなみに今いるのってどこ?」

「今いるのは上社本宮だよ。周る順番は特に決まってないんだけど、まずここをお参りしてから他に行く人が多いかな?」


ここ本宮には建御名方命たけみなかたのみことという神様が祀られており、長らく信仰されているそうだ。それこそ歴史を紐解いていくと縄文時代まで遡るとのことなのだから驚きだ。諏訪大社もいつからあるかハッキリしないらしい。


「奈良時代にはあったらしいんだけどねー」

「奈良時代て」


平安時代の更に前か。大化の改新とかそういう時代?いやあれは飛鳥時代だっけ?奈良時代に何があったのか1個も知らない。


「さ、タク!それじゃあ諏訪大社を巡っていこう!」


というわけで我々4人は諏訪大社をひたすら散歩し続けた。今日は本宮→前宮→春宮→秋宮の順番で周っていくらしい。

各所で圭や菊花が解説を入れてくれるから楽しく見ることができた。

普通に勉強になる。


「このでっかい柱はなんなんだ?」

「これは御柱って言ってね。その昔建御名方命様が山から採ってきた神木を諏訪大社に立てたっていう伝説があって、それを今に引き継いでいるんだってさ」


なんでも7年に1度山から神木を採ってきて諏訪大社に運ぶお祭りまであるらしい。その際に御柱の上に人が何人も跨るなんて危険な行為までするというのだから驚きだ。


「なんか、それ普通に危なくないか?」

「うん。毎回死人が出るし」

「マジで!?」


危ないなんてもんじゃなかった。

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