第30話 取材を受ける
結果から言うと真田スズメーズはその後もけちょんけちょんにされた。俺の観戦を確認した後の真田ナインは明らかに燃えていた。でも全然通じなかった。まあ当然だ。真剣勝負のスポーツは気合いでなんとかなるもんでもない。というかお相手の三好コンドルウォリアーズの皆さんも燃えていた。あんなに燃えて一体どうしたんだ?って思ったけど、どうやら俺に良いところ見せたかったらしい。プレイ中に明らかに俺の方をチラチラ見てきてたし。
結局試合は15-2で真田スズメーズは惨敗だった。それでも一応2点取ったのはエライ。
試合の最後に一塁側・・・というか俺に向かって選手が頭を下げてきた。
「「「「「不甲斐ない試合ですみませんでしたー!!」」」」」
いきなりの事態に驚く。試合に負けたからと言って選手がファンに謝るなんて聞いたこともない。俺だって選手と一緒に戦っていたつもりだ。もし負けたのが選手の責任だと言うのならば、それは一緒に戦ってた俺の責任でもある。
「いいよー!!みんな頑張った!俺は明日も来るからがんばろー!!!」
大きく手を振って選手に答えるとスズメーズの選手の皆さんも手を振り返してくれた。
「いやー・・・ボロ負けだったな!」
「なんで負けたのにそんなに嬉しそうなんですか・・・」
菊花が呆れていた。
「だってやっぱりこの雰囲気最高だもん!来て良かったー!」
諏訪湖スタジアムはかなり古めかしい球場だった。なんか広島市民球場を思い出す。しかしこれはこれで味があって良いものだ。観客席のベンチも相当古めかしい木製で、表面が削れてツルツルの飴色だった。歴史が感じられてとても良い。
もちろん不満点がないわけではない。まず男子トイレが一個もなかった。そりゃそうだ。男は来ないんだから仕方ない。幸い美月から聞いていたため、予め済ませておいたものの、やはりトイレが無いのは不安。あとご飯を食べられるところがほとんどなかった。辛うじて焼きそばとホットドッグを売っているくらい。それも祭りの縁日にあるような普通の出店だ。じゃあ観客はどうしてるんだ、というとほとんどがお弁当を作ってくるか、近くの商店で買ってくるかするらしい。ちなみに俺も今日は美月お手製のお弁当を食べた。もちろんそれはそれで美味しかったけども、やはりスタジアムに来たからには球場メシを食べたい。元の日本にいた時は選手プロデュースのメニューとか毎回食べていた。アレを食べると球場に来たと実感できて良かったんだ。それにその代金もチームの収入になるから、それが選手の強化や待遇改善に繋がる。良いことばかりだ。
「でもボクも大体ルールが分かりましたよ!要するに投げたボールを棒切れで殴ってから走ればいいんですよね!」
大体合ってる。
「あはは!タクってば凄い注目だったねー!」
「私も電光掲示板に映ってて緊張しちゃった・・・」
圭と美月もはしゃいでいる。楽しそうで何よりだ。なんでも真田の選手の中に個人的な知り合いが何人もいるらしい。確か真田スズメーズは真田領の出身者ばかりらしいし、それも当然か。
「ああー 楽しかったー・・」
未だ興奮が冷めやらない。こういう時は球場近くの食事処に行って野球ファンに囲まれて少し食べるのが好きなんだが、そういうお店はここには無いらしい。少し寂しい。
「あの~・・・すみませ~ん・・」
出口も空いて来たので、そろそろ帰ろうかと考えていると話しかけてくる人がいた。菊花が目を光らせて俺の前で帰れ帰れしてるので突撃してくる女子はいなかったのだが、見上げた根性だ。マイクを持ってスーツを着た女性だった。
「こちら京都テレビのレポーターなんですけど、お話聞かせて頂けませんか?」
「京都テレビ?」
テレビが何故俺の話を?
「だ、男性の観客の方って珍しいので少しお話を聞かせてもらおうと・・・。お時間取らせませんし、謝礼もお支払いしますので!」
「あー」
そういや男は珍しいんだった。こういう出来事があるとその後しばらくは自覚があるのだが、10分も経つとその辺の感覚がスパーンと抜けてしまう。
「あのねえ・・・ 男がテレビの取材なんて受ける訳ないでしょう?さっさと去りなさい。ボクたちも帰るんですから」
しっしと追い返す菊花。しかしこれはチャンスかもしれない。もしこれで俺が目立てばスタジアムに足を運んでくれる人が少しは増えるかもしれない。本日の観客は3000人ほど。ピッチャーの人数が足りていない原因は球団の収入が低いことも原因だろう。これでお客さんが入るようになればスズメーズの助けになるはずだ。
「いいですよ!なんでも聞いてください!」
「ご主人!!」
今日一番の声で怒る菊花。
「本当に正気ですか!?何度も言いますが、男性が目立つのは危険なんですよ!テレビになんか出て、厄介なのに付きまとわれたらどうするつもりですか?!」
「大丈夫」
菊花の言うことは正論だ。しかし俺は諏訪チャンネルもやらないといけないし、どの道目立つのは避けられない。野球場に来ている限り嫌でも目立つみたいだし、これは仕方がない。それに恐らく中途半端が一番良くないのだ。やるなら完全に姿を隠すか、思いっきり目立って日本中で有名になるかどちらかが良いと思う。有名になればなるほど注目度が上がり、却って手を出されにくくなるんじゃないだろうか?
「俺には菊花がいるからな」
「~~~~~~!!ボクがいるんだから当然大丈夫ですよ!もう好きにしてください!」
「ごめんな菊花」
一応サインとか握手とかそういうのはもう応じないことにした。俺も毎回試合に間に合わないのは嫌なのだ。
「あ、そ、それじゃあお話聞かせてもらいますね?」
というわけで30分ほどインタビューを受けた。野球の魅力、どれだけ野球が好きなのか、今日良かったプレーは何か、どの選手が気になったかなどなど。
結構個人的な質問もされたけど答えなかった。流石にどこに住んでいるかを訊くのはやめてほしい。菊花もかなりキレていた。
「ありがとうございました!とても素晴らしいお話聞かせて頂きました!」
「あはは・・・これくらいなら全然・・・」
「ホラ、早く帰ってください。ボクたちだって帰るんですから」
「はい・・・それであの握手を・・・」
男性に触れ合う機会は女子の人生で平均1.2回ほどらしい。そりゃチャンスがあれば来るよなー。
「ええいいですよ!」
「はー・・・あ、ちゃんとカットしてくださいよ!こんなとこテレビで流れたら大変ですからね」
分かってます、と言うレポーターと握手すると彼女はとても喜んでピョンピョンしていた。可愛い人だ。羨ましそうにしていたカメラさん、照明さん、音声さんとも握手をすると彼女達はニッコニコで帰って行った。
「よし俺らも帰ろうか?」
「タク・・私はなんか疲れたよ・・・」
「拓真君は優しいね・・」
「もう女子に話しかけられても無視して下さい。本当にいつまで経っても帰れませんよ?」
時刻はすでに22時30分。
明日も学校がある圭と美月にはちょっと申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
そういえばレポーターさんに謝礼の入った封筒を押し付けられたんだった。中身を見てみると15万入ってた。
「いやたけえよ!!」
この世界やはり慣れない。




