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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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28/29

第28話 諏訪湖スタジアム

「キター!!!!」


諏訪湖スタジアム真正面。スタジアムが一番よく見える特等席で俺は叫んだ。驚いた周りの人間からは何事かという目で見られる。そして男だと気付かれまた驚かれる。でも今日の俺、そんなこと気にしない。だって野球の試合だから!野球観戦だから!周りの目なんて気にするだけ損なのだ。踊る阿呆に見る阿呆。俺はいつでも踊る阿呆。


「す、凄いテンションだね…」


一緒に試合観戦に来た美月が俺のテンションにドン引きしていた。


「だってホラ!野球場だもん!スタジアムだもん!」

「あはは… タクは本当に野球が好きだねえ」

「それよりあまり大きな声を出さないで下さいよご主人。周りから注目されてますよ?」


同じく一緒に付いてきた圭も菊花も呆れている。でもいいんだ!だって今日は野球観戦だから!というわけで今日は待ちに待った真田スズメーズのホームゲームの日。俺は美月、圭、菊花の3人と諏訪湖スタジアムに訪れていた。


「あ、あの~…」


そんなことをしていると知らないお姉さん3人組から話しかけられた。キャップは白。これは三好のキャップだな。つまり本日の対戦相手のものだ。

スッと音もなく俺とお姉さんとの間に入ろうとする菊花を手で制止する。菊花は抗議の目線を俺に向けると渋々といった様子で引き下がった。


「キミって男の子だよね?」

「うん、見ての通りだ!」

「うわー!野球観戦に来る男の子なんて初めて見たかも!」

「そうなの?」

「うん!テレビで見てる人は意外といるって聞いたことあるけど」


へー それは良いことを聞いた。もし男性専用席なんて作ったら意外と男も来てくれるかもしれない。


「それであの・・・ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」

「うん?」

「できればサインが欲しいんだけど・・」


サイン?俺の?そんなの貰ってどうするんだって思ったけど、よくよく考えたらここは男女比1:1000の世界。男というだけで珍しいのだろう。そういえば甲子園に出た時にサインの練習とかめっちゃした記憶がある。結局書く機会はなかったけど、まさかこんなところで役に立つとは。


「おー いいよいいよ!どれに書けばいい?」

「あのこれ・・・」


女の人は俺にボールを差し出してきたので、昔練習したサインを書いた。うむ、我ながらなかなか良いサインだ。


「おおー!タクかっけー!」

「だろー?」

「あ、私もお願いしていい?この色紙に・・・」


遠目に俺達の様子を見ていた女性達もチャンスだと向こうからやってくる。ちょっと怖い。


「ストップ!私は彼の護衛です!貴女達止まりなさい!彼に怪我でもさせたらどうなるか分かるでしょう!」


菊花が前に出て止めてくれた。その一言に女性達が止まる。


「なあ圭よ。男に怪我させたらどんな罪状になるんだ?」

「うーん・・・少なくとも執行猶予は付かないかな?」


それ結構な犯罪じゃないか。


「せ、せめて並んでくれると助かるかなー・・?」


俺がそう言うと女性達はあっという間に一列に並んだ。

勝手なことを・・と菊花がジト目で睨んでくる。


さてここにいるだけで100人くらいいそうだ。今は17時。果たして試合開始に間に合うのだろうか?



――――――――――――――――――――――――――


「試合始まっちゃってるじゃん!」


結論。間に合いませんでした。最初に並んでた100人だけで勘弁してもらったのだが、サインと握手だけでめっちゃ時間がかかってしまった。見物人も多くなってしまったし、アイドルのサイン会とかって大変なんだなー・・・と変な実感をする羽目になってしまった。

ちなみに女の人達は三好のファンが7割くらいで真田ファンより圧倒的に多かった。ほとんどが三好出身で真田領で働いている人だったが、中にはわざわざ京都から車で応援に来たって人までいるんだから大したものだ。俺のサインが少しでも良い思い出になったのなら嬉しい。


「拓真君・・。席こっちだよー」


美月に案内されて席に着いた。今日の座席は一塁側ベンチの真後ろ。めっちゃ良い席だ。一見すると真田の応援にうってつけの席だが、この席からだと屋根が影になって真田のベンチが全く見えない。三塁側の三好のベンチはとても良く見える。なんだか本末転倒だ。


「ふう・・・ やっと席に着いた」

「あははお疲れ様だったねえタク」

「自業自得ですよご主人は」


それは確かに。

ちなみに今日はみんな普段着に真田のキャップを被っている。菊花なんて着物にキャップ姿だから違和感が凄い。個人的には応援時には必ずレプリカユニフォームを着る派だったので、今日も買おうと思っていたのだが売ってなかった。まだこの日本にはレプリカユニフォームという文化は存在しないらしい。泣く泣くキャップだけ買ってここまで来た。

それにしても美月の後ろの席の人は大丈夫だろうか?ちゃんと試合が見られるだろうか?今日も今日とて美月はでかい。Tシャツも猫柄のはずなのだが、すでに胸部分が伸び切って別の生物みたいになってる。哀れだ。


「よーし!それじゃあ応援するぞ!」


試合の経過を見る。

試合は幸いまだ2回表だった。結構時間が過ぎてしまっていたが、1回を見逃したくらいで済んだか。



<三好コンドルウォリアーズ 6 - 0 真田スズメーズ>



「スズメーズめっちゃ負けてるじゃん!」

「あ、うん・・いつものことだから・・・」

「うんうんいつものことだよ」


この2人は達観している。


「おおー これが野球ですか。ボク初めて見ました。これは何をどうしたらどうなるんですか?」


菊花はマイペースだ。よしちゃんと説明してやろう。


「いいか菊花良く聞け。まず、あのピッチャーがキャッチャーに向かってボールを投げるんだ」

「? どうしてそんなことを?」


どうしてと言われるとなあ・・。

そんな哲学的なことを問われても困る。


「そういうものなんだ」

「はあ・・ なるほど・・・?」


全然ピンと来てない様子だった。


「それで投げたボールをあっちのバッターが棒で打ち返すんだ」

「? なんでそんなことを?」

「考えるな感じろ」


説明が面倒くさくなってきた。今は試合に集中したい。


「ルールは後で説明するから今は試合を雰囲気で楽しめ」

「はあ・・分かりました・・」


これ何がおもろいねんという顔で菊花は試合を観ている。

マウンドでは真田のピッチャーが投げているが2回で相当辛そうだ。球速は140km/h行くか行かないかくらいか。直球にもキレが無いように見える。


「なるほど・・・あのピッチャーも頑張ってるみたいだけど、そら滅多打ちに遭うわけだな」

「山本選手も頑張ってはいるんだけどね・・・」

「一昨日投げてた時もかなり辛そうだったからねえ」

「先発が中1日かよ!」


それは無理させ過ぎだ。そんなことしてたら肩なんてすぐ壊れてしまう。


「そんなにピッチャーがいないのか?」

「先発は2人で回してるよ・・・」

「他のチームは?」

「そりゃ5,6人で回してるよ」


そこまで人がいないのか。これはもう弱いとか強いとか努力がどうとかそういう問題でもない。こんなの物理的に勝てるわけがない。

・・・いやそれでも7勝しているんだった。例え101敗しててもそれでも彼女達は7勝しているんだ。一昨日のニュースでは結構ボロクソに叩かれていた。きっとネットの掲示板の評価も悲惨なことになっているだろう。

ピッチャーが投げる。まだ2回なのに早くも肩で息をしているが、バットは空を切りなんとか三振を奪った。その姿を見ていたらなんだか込み上げてくるものがあった。


「頑張れー!2アウトだぞー!!」


思わず声を上げていた。

ギョッとした菊花がこちらに目を向けてくるがそんなの知らん。俺は力の限りマウンドのピッチャーを応援した。

男の声に気が付いたのだろう。球場が異様なざわつきを見せ始めた。

マウンドのピッチャーが一塁ランナーを見る。バッターに目線を戻したと思ったらバッ!と再び俺の方を見た。こんな綺麗な二度見初めて見た。


目が合う。


「やったれー!とりあえずこの回抑えよう!」


俺は彼女に笑顔を向けると彼女に届くように声援を送った。

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