第27話 ニンジャ
30分後。
俺と圭は再び評定室に呼ばれていた。千幸様は相変わらずたおやかな笑みを浮かべて上座に正座している。先ほどあれほど悲痛な覚悟を見せたというのをおくびにも出さない。感心を通り過ぎて畏怖の感情さえ沸き上がった。
「お待たせして悪かったわね拓真君。改めて真田の要望を受け入れてくれて感謝するわ」
「いえいえそんな!」
自分がお礼を言われるようなことじゃない。それに俺だって男だ。この状況に胸が踊っているのも事実だった。養育費の問題はあるが、それでもあの魅力的な女性達と…と考えると下半身が滾るのを抑えられない。
「それで拓真君にはこちらからいくつかプレゼントがあります。まずはこれを」
千幸様が取り出したのはスマホだった。
「おおー!」
「拓真君スマホを持ってないんでしたね。こちらのスマホをお渡ししておきます」
「俺としてはありがたいですが、いいのですか?」
「ええ。スマホがあれば位置情報も分かりますし。防犯上持っておいてもらわないとこちらが困るわ。もう契約は済んでいるから好きに使ってください」
「ありがとうございます!」
やった!スマホゲット!これでこの世界の野球掲示板を覗くことができるぞ!いやこっちにもあるのか知らんけど!
「私の電話番号とメッセージアプリのアドレスも入れておいたわ。近況報告を1日一回はお願いね」
「!?」
「!?」
こいつ何気に何やってんねん!水蓮さんは口に出そうな言葉を我慢した。
「タク!私とも交換!」
「分かったからあとでな」
まだ千幸様のお話の最中である。
「次にお仕事のお話ね。これはお願いなんだけど、拓真君には普通のお仕事をしてほしくないの」
「やっぱり俺が働くと混乱させてしまうでしょうか?」
大豊庵の惨状を思い出す。伊月さんは今日も大変そうだった。
「それもあるけど、拓真君には是非他領からお金を稼いで欲しいのよ」
「他領から…ですか?」
「ええ。例えば諏訪に100億円のお金があったとしましょう。それで拓真君が諏訪で働いて一億円稼いだとするわね。すると諏訪にはいくらお金が残るかしら?」
「それだと諏訪の人からお金を貰っただけですから100億円のままですね…。でも他領の人から一億円稼げば…」
「諏訪のお金は101億円になる!」
なるほどなあ。諏訪の人からいくら稼いでもダメなのか。真田以外の領から稼がないと真田は貧しいままだ。
「しかし他領から稼げと言われてもどうすれば…」
「まずは圭ちゃんがやってる配信チャンネルを一緒にやってみたらどうかしら?」
「おお!タクそれはいいね!一緒にやろう!」
圭が食い付いてきた。
「って言われても俺そんなんやったことないし…。てか圭はどんな配信してるんだ?」
「ふふん!これだよ!」
配信のトップ画面を見せてくれる。そこには『諏訪ちゃんねる~諏訪のちょっといいとこ探してみよう~』と、あった。登録者数は400人ちょっと。
「…これは多いのか?」
「いやー全然だよ。本当はこの配信をきっかけに諏訪に一杯人が来てくれたらなーって思ってるんだけどね…」
あんまり成果はないらしい。藩主の娘としての責任感もあるのだろうが、本当に諏訪のことを愛しているのだろう。
「登録者がほとんど諏訪藩民というのが問題だよねー…」
「それは確かに意味ないな…」
「でも男性が紹介したとなれば観光客も増えるでしょう?配信の利益も他領からの収益になるし、一石二鳥というわけよ」
なるほどなー。
「分かりました!これについては後で圭と相談しておきます」
「そうして頂戴。そして次のプレゼントだけど…」
まだあるんか。流石は千幸様、痩せているのに太っ腹でらっしゃる。
「拓真君には護衛をプレゼントするわ」
「護衛…ですか?」
「ええ。流石に今までのように自由に外を歩かせるわけにはいかなくなってしまったわ。必ず護衛を1人付けるようにして」
まあこれも当然か。軟禁されないだけマシだろう。
「分かりました。それで護衛の方というのは…」
「拓真君の隣にいるでしょう?その子が今後拓真君の護衛になるわ」
ん?
右隣を見る。圭がニコリと微笑んだ。こいつ・・・ではないよな?
左隣を見る。そこにはいつの間にか知らない子供がちょこんと正座していた。
「うわあビックリした!」
膝と膝が触れ合うほどの距離だったのに一切気が付かなかった。年のほどは12,3歳といったところだろうか?おかっぱ頭の着物を着た少女だった。
「あー、ビックリした…。座敷わらしかと思った」
「……」
ドスッ!
「ぐおっ!」
座敷わらしに脇腹を殴られた。
「ち、千幸様!座敷わらしが突然暴力を!」
「腕は確かだから我慢して頂戴。菊花ちゃんご挨拶」
「はっ!ボクの名前は出浦菊花。これからはボクがしっかりと守ってあげますから、感謝して下さいね」
そう言ってニコリと笑う女の子。なんだろう名前の通り花が咲くような笑顔なのにどこか仮面を貼り付けたような気持ち悪さを感じてしまう。それと彼女はどう見ても子供だ。こんな子供に護衛を任せてもいいんだろうか?
「…何か失礼なことを考えていますね?」
鋭い。
「心配せずとも彼女以上の護衛はこの領にはおりません。彼女は真田忍軍の中でも一番優秀な子ですので」
「おお!」
忍軍!つまりは忍者か!素晴らしい!忍者の護衛なら安心だ!
「まさか忍者とは思わなかったです!なるほど!なんか座敷わらしみたいだなと思ったけど、これは変装だったわけですね!」
「いえそれは元々よ」
元々かよ。
「あなた本当に失礼な人ですね…。もう18なのにこんな姿のボクがそんなにおかしいですか?」
「18!?」
てっきり小学生くらいだと思ったらまさかの年上かよ。いや精神年齢的には年下か。この場合はどっちなんだ。
「フンだ…」
「ごめん悪かったよ。」
頭を撫でて謝る。
「!! あ、頭を撫でないで下さい!」
「あ、ごめん。良い位置にあったからつい」
「まったくもう…。本当にどうしようもない人ですねあなた…」
呆れられてしまった。中身おっさんなのに見た目小学生に呆れられるとは心外だ。
「まあ仕方ありませんね。これもお仕事です。これからはちゃんとボクの言うことを聞いて下さいよ?分かりましたね?」
「はい分かりました」
素直に返事をする。すると菊花ほ満面の笑みで「よろしい」と返してくれた。それは先ほどまでの貼り付けられた笑顔の仮面よりもずっと魅力的に映った。
「さて仲良くできそうで何よりね」
これには千幸様もニコニコだった。
「では最後のプレゼントよ」
そう言って千幸様は何かの紙切れを4枚俺にくれた。
「これは…?え、あ!もしかして!」
「ええ」
圭と菊花も俺の手元を覗き込む。
そこにはこのように記載があった。
『真田スズメーズvs三好コンドルウォリアーズ 一塁側内野席』
それは明後日行われる真田スズメーズのホームゲーム、諏訪湖スタジアムでの試合のチケットだった。




