第26話 安房守の覚悟
「ふー・・・ 拓真君は意外と強情ですね」
「こればかり譲るわけにはいきません」
10分後。
千幸様が天を仰ぐ。
半ば呆れたような目で水蓮さんも圭も俺のことを見ている。
「圭だってもし自分が種付けだけされて放っておかれたら嫌だろ?」
「うえっ!?」
何故私に話を振る!?と思った圭。しかしタクとの子供・・・。タクとの子供・・・。いかんしっかりと想像してしまった。きっと玉のような赤ちゃん・・・。できれば男の子・・いや女の子でもきっと可愛らしいだろう。この日本の女達、母性に目覚めるのが元の日本よりとても早い。
「わ、私はそれでも別にいいけどなー・・?タクのためになるのなら・・」
「馬鹿者!そんなこと言うな圭!俺なんかのことよりちゃんと自分のことを大事にしなさい!」
「ええ~・・・」
理不尽である。
「お、男の人が俺なんかなんて言うもんやないで?」
「そうですよ拓真君。男性の価値に比べたら女性の価値なんて比べるまでもありません。拓真君は養育費なんて気にしないで、気に入った女がいたら種を付けてくれればそれで良いのです。それを拒む女などこの日ノ本にはおりませんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんなのだこの人達は?気に入った女がいたら種付けしていい?それを嫌がる女がいない?そんなワケないだろう?俺に気を遣っているのかもしれないがいくらなんでも自分の領の女を軽視しすぎではないのか?千幸様の飄々とした様子に段々腹が立ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「拓真君・・・?」
「拓真君どしたん?何か気ぃ悪くさせたやろか?」
「タク?どうしたの?お腹痛い?」
他の女性達からしたら訳が分からない。だって自分達は男性に有利な発言をしたはずだ。それなのになんで彼は気分を害しているのだろう?拓真は相当機嫌が悪そうにしている。ここで彼を怒らせて決裂してしまえばもう終わりだ。彼は他の領に行ってしまいかねない。千幸様は顔には全く出さないが、内心は穏やかではなかった。
「・・・・・・千幸様。先ほど俺に女に5人孕ませるように仰いましたね?」
「え、ええ」
「分かりました。その言葉に従います」
「! ホンマか拓真君!?」
「ただし条件があります。千幸様」
「・・・何かしら?」
来ましたか・・・。千幸様は覚悟した。拓真君は基本的に無欲だと聞いている。しかぐに数多くの女に種付けをしろなんて無茶な命令、対価が無ければやるはずもないだろう。一体何を要求されるだろうか?金だろうか?地位だろうか?冠位なんてことも考えられる。自分にできる限りのものを差し出したいとは思っているが、果たして貧しい真田に彼の望むものを与えられるだろうか?
「もし俺が5人の女を孕ませた暁には・・」
「「「暁には・・・」」」
ゴクッ
3人の喉が鳴った。
「千幸様にも俺の子を孕んでもらいます」
「?」
「?」
「?」
3人の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
おかしい。今は拓真君に苦痛を伴う仕事をしてもらう代わりに真田が何か代償を支払うという話だったはずだ。それなのに何故ご褒美の話になっているのだろうか?
確かに千幸様は美しい女性だ。しかし年のほどは22。こんな年増を抱きたいなんて男はあまりいない。この世界の男は基本的に20歳を超えた女と交配することはない。それなのに何を言っているのだろうこの男は?
「あの・・タク?それだと千幸様が・・・」
得をするばかりなのでは?と言いかけた瞬間、圭は恐ろしい視線を感じた。上座を見ると千幸様がこちらをガン見していた。何せこちらに50万円くれたら100万円もらってやってもいい、くらいの状況だ。訳が分からない。こっちしか得をしていない。当然圭はツッコむ。先ほど千幸様からも命令されたのだから当然だ。
そんな圭に千幸様からアイコンタクトが送られる。
(後生だから黙ってなさい圭)
(ええ~・・でも・・・)
どうやら拓真君は私が種付けされるのを嫌がっていると思っているようだ、と千幸様は察した。
嫌がる子を無理矢理なんて自分の趣味じゃない。
確かにその通りである。だがいずれそんな自分にも春が来ると考えていた。正直に言おう。カッコつけていた。しかし現実は無慈悲。幼き頃より真田家の当主として知略・策略・領地運営の全てを叩きこまれてきた千幸は男にとって恐怖でしかなかった。頭が良すぎる。何もかも見通されているような気がする。そんな人物にこの日本の弱い男が釣り合うはずがない。若い頃は領主として男の人に近づく機会もあった。だが自分は全く相手にされなかった。本当は自分だって若いうちに自然交配で子供を作りたかった。
そのチャンスがいま目の前に転がっている。
しかも目の前の男子は今まで見たどんな男子より遥かに好ましい。ひと目見た瞬間身体に電流が走ったように惹かれていた。堂々としたその態度。キリッとした姿勢。その姿はまさにその昔にいたとされる男のサムライそのものじゃなかろうか?実は先ほどから顔には全く出さないが内心ドキドキしっぱなしだった。顔には出さないが。
「・・・・・なるほど。それが拓真君の望みというワケね?」
「ええ。その覚悟が千幸様にありますか?」
そんなのあるに決まっている。なんなら今からこの2人を叩き出しておっぱじめてもいいくらいだ。いやせめて身体を身綺麗にしてからか?少し悩ましい。
「・・・・・いいでしょう。もしも拓真君が私のお願いを聞いてくれるなら、この身を拓真君に捧げましょう」
「!!? お館様!?」
なにを悲痛な覚悟みたいな感じで言うてんねん!と水蓮さんがツッコもうとしたところを千幸様に遮られた。
「いいの。この身が真田領の役に立つのであれば我が血肉も本望というもの」
「いやいや何を・・・」
「とにかく!私は了承したわ。これでいいかしら拓真君?」
「!! ほ、本当によろしいのでしょうか?」
「構わないわ」
なんという覚悟だろう。
この日本のために自分の身を捧げるとは。これが真田家当主の責任というものか。千幸様は誠意を見せた。千幸様も結局のところ自領の人間を子供を産む道具くらいにしか思っていないのだ、と誤解してしまった先ほどまでの自分が恥ずかしい。激しい後悔の念が俺を襲った。
「・・・・・・承知しました千幸様。ご命令しかと承りました。また先ほどはご無礼を致しました。私の言はお忘れくだ・・・」
「それはいけないわ!!!!・・・・・・いえ拓真君。拓真君が覚悟を見せるのだもの。仕方ないわ。私だって覚悟を見せないといけない。これは当然のことよ。分かるでしょう?」
「いや・・でも・・・」
「いいから!ちょっと準備するモノがあるから拓真君は一旦外に出てもらってもいいかしら?また準備ができたら呼ぶわ」
一旦時間を置いて落ち着く作戦に出た千幸様。恐ろしいことに内心は動揺しきっているのだが、顔にはほとんど出ていない。ただにこやかに拓真に話しかけているのみだ。真田家の当主恐るべし。
「・・承知しました。それでは準備ができたらお呼び下さい。それと先ほどの発言重ね重ね失礼しました」
拓真は圭を伴って評定室を退出していった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
後に残されたのは千幸様と水蓮のみ。気まずい沈黙が流れている。
「・・・・ねえ水蓮」
「・・・なんやろかお館様?」
「私、去年のお正月にお雑煮を食べ過ぎて太ってしまったの。これからダイエットをしないといけないのだけど良い方法があれば・・・」
「知らんわボケ!!!」
スパーンと良い音を立ててツッコミを入れる水蓮さんだった。




