第23話 高島城の変
「拓真君がこないなところに来てくれるなんて嬉しいわ~」
翌日。
俺は高島城を訪れていた。
昨日の夜、美月から圭を通じて水蓮さんに連絡を通してもらった。大事な話があると。すぐに圭から美月のスマホに着信が来たが彼女はパニック状態だった。どうやら俺が領地替えをすると思ったらしい。泣きながら止められてしまって宥めるのに随分時間を使ってしまった。領地替えなんて考えてもいないし想像すらしていない。多分恐らくだけど決して悪い話じゃないから水蓮さんと話がしたいことをお願いした。
水蓮さんは快く承諾すると朝一で時間を取ってくれたのだった。
「ほんで拓真君、今日は何の御用かしら?」
「タクやっほー」
「・・・・・・・・・・・」
高島城の畳張りの広い空間に俺は通されていた。評定所と呼ばれる場所で、戦国時代ではここで城主と部下が会議をしていたとか。そこには水蓮さんに圭、あとは後ろにサングラス姿の人が4人くらい立っているのが見えた。
「てかなんで圭がいるんだよ・・・」
今日は学校だったはずだ。
「気になり過ぎて休んじゃった♪もし領地替えなんて言ったら泣き叫んで引き留めようと思って」
「だから違うって言ってるだろ・・・」
「まあまあいいじゃんいいじゃん」
圭はカラカラと笑っている。元気そうに見えるけど、本当に領地替えしたいなんて言った日にはマジで泣くんだろうなー・・・。昨日めっちゃ泣いてたし。
「それで拓真君、今日はどんなお話聞かせてくれるんやろか?」
水蓮さんがニコニコしながら言う。恐らく内心は穏やかではないのだろう。だが電話で話していいような内容ではなかった。
「その前に」
俺は一呼吸置くと言う。
「人払いをお願いできますか?」
「人払い?ああ後ろのこの子達ならウチが子供の頃から知ってる部下やから心配せんでええよ。圭も娘で次期藩主やからな。だから・・・」
「すみません」
俺は水蓮さんの目を見つめて言う。
「人払いを」
「・・・・・そないに大事な話なんか?」
「ええとても」
ふーっと水蓮さんがため息を吐く。
「もちろん水蓮さんの判断で後ろの方に伝えて頂いても構いません。その点はお任せします」
「・・・・分かった。それじゃあアンタらこの部屋から出て行き。今からこの部屋に誰も入れちゃあかんで」
後ろに控えてた人達が本気か?という目で水蓮さんを見る。
「皆さん申し訳ありません。何卒よろしくお願いします」
後ろの護衛の人達が渋々といった感じで出て行った。
「圭・・・」
「イヤ!絶対に残る!」
圭は一歩も動く気はないらしい。
「タクにとって大事なことなんでしょ?私も聞きたい。もし悩んでるなら一緒に悩んであげたいし、私がいたら相談に乗れることだってあるかもしれないでしょ?」
圭の瞳に射抜かれる。どうやら単なる興味や好奇心というワケではないらしい。俺のことを本気で心配してくれているのだ。まだ出会って日も浅いのにこれだけ俺のことを気にかけてくれる。胸の奥に込み上げるものがあった。彼女の誠意には俺も誠意で答えるべきだろう。
「わかった。それじゃあそこで話を聞いてくれ」
「ありがとタク。あとできれば美月には話してあげてね?あの子もかなり気にしてたみたいだから」
学校に行く前の美月の心配そうな様子が思い出させる。美月にも本当に世話になった。彼女にもできるだけ隠し事はしたくない。
「わかった」
「うん ありがと」
「ほんで拓真君。そろそろお話してもらってもよろしいか?」
「はい・・・分かりました」
俺は佇まいを正す。
「昨日精子提供に行きました」
「ああ病院から連絡があったわ。早速行ってくれたんやね。ありがとなー」
「・・・・・・てれてれ」
圭が照れていた。俺も精子を提供したとかそういう情報を顔見知り女子に言うのはちょっと恥ずかしい。
「ふふっ 若いってええわあ」
「そ、それはいいですから・・・」
「ほんでそれがどうかしたん?」
水蓮さんが首を傾げる。
「実は精子提供をした際に思い出したことがあるんです」
「!? 記憶が戻ったの!?」
圭が前のめりになる。
「いや完全に記憶が戻った訳じゃないんだ。ただ一つ思い出したことがあってな」
水蓮さんと圭の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。何も知らない彼女達に爆弾を落とすのは申し訳ないが、こればかりは仕方がない。どうすればいいのか俺にだってよく分からないのだ。
「若月警部に教えてもらいました。いま男女比がこれだけ狂ってしまっているのは三毛猫ウイルスに感染したからとか」
「え、ええそうやね。あの忌々しいウイルスのせいで世界は女ばっかりになってもうた」
「ええ。Y染色体に異常が出たと」
「そうそう。XY染色体を持っていても女の子になっちゃうんだよね」
「ええ。それで実は・・・」
俺は背筋を伸ばすと水蓮さんに言った。
「俺のY染色体は三毛猫ウイルスに感染していない可能性が有ります」
「――――――――――――――」
「――――――――――――――」
時が止まった。黒田親子は目を見開き固まり、上手く喋れない様子だ。何度か口をパクパクさせて何か言おうとしてやっぱりやめてを繰り返している。
「え、お、う・・・」
「そ、それは確かなんか拓真君!?」
水蓮さんがこちらにやってきて俺の両肩をガシッと掴んだ。
「すみません正確には分からないんです。ただ元いた場所では特別女が多かったわけではない気がしていて・・・。男女比も1:1だったと記憶しているんです」
「そ、そんな場所あるの!?」
圭が驚愕していた。
「・・・もしかしたらどっかの領の実験設備かもしれへんな。拓真君は身体を弄られてしまったのかも」
そこまで言って水蓮さんがハッとする。
「ご、ごめんな拓真君!拓真君にデリカシーのないことを・・・」
「あ、いえ気にしないで下さい」
改造人間呼ばわりされても困るが、実際はそうでもないことを知っているので大して気にもしない。
「それでY染色体の検査をする方法というのはあるのでしょうか?」
「!! そうやったな!それはあるで!」
Y染色体の異常箇所というのは分かっているため、検査をするのは比較的容易らしい。
水蓮さんはハッとするとすぐにどこかに電話をかけ始めた。
「もしもしウチや!昨日精子提供があったやろ!?うん・・うん・・・そうやそれや!その精子なんやけど、人工授精に使うのはちょっと待ちぃや!うん?なんでやあらへんわ!このボケ!いいから言われた通りにしいや!」
水蓮さんの口調が荒れている。あの美人の口からボケとか言っているのを聞くと複雑な気分になる。
「・・・・水蓮さんってあんな感じなのか?」
「あはは・・・ふ、普段はそんなことないんだけどね?今はちょっと興奮してるみたいだから・・・」
ピッ
「まったくアイツら・・・。久しぶりに新鮮なのが手に入ったのにとか知らんちゅうねん・・」
そこで水蓮さんと目が合った。
「え、あ・・・ こ、これは・・・」
水蓮さんがワタワタと手を振った。
「ちゃうねん!」
どうやら違うらしい。




