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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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20/29

第20話 精子提供

諏訪湖の南東。

ランニングコースから逸れてやや繁華街に行った場所。

高島城(圭の家)が見える位置にその病院はあった。


諏訪総合病院。


諏訪藩で一番大きな病院で、重症の患者からただの風邪まで諏訪藩に住む人間は体調を崩すと大体この病院に来るらしい。


というわけで俺は若月警部に勧められて精子提供に来ていた。なんでも精子提供をすると謝礼がもらえるらしい。どの道義務なんだから余裕があるならさっさとやっておいた方が良いということだ。まあどうせやらないといけないのだからそれは構わない。しかし俺の精子を使って知らない人が人工授精で俺の子供を妊娠して出産するというのはなんとも不思議な気持ちだ。仮に俺が元の世界に帰れたとしても俺の子供はこの世界に残るのか。向こうじゃ子供を作る予定なんてなかったのになあ。人生何が起こるか分からんもんだ。


病院の中に入ると消毒?薬?の臭いが鼻につく。昔から病院は苦手だった。しかも今は希少な男子。滅茶苦茶注目されている。

受付の番号札を取ると近くの椅子に腰かけた。409番。今の呼び出しが404番だから、あと5人待ちか。

スマホが無いと暇だなーって思っていると向こうから看護師さんが小走りでやってきた。

かなり慌てた様子で話しかけてくる。


「す、すみません!川相拓真様でよろしいでしょうか?」

「あ、はいこんにちは」

「え、えっとこんにちは!じゃなくて!拓真様の受付はこちらですので、どうぞいらしてください!」

「え?そうなんですか?精子提きょ・・・」

「わー!わー!わー!」


看護婦さんが大声を出してブンブン手を振る。


「精子提供に来たことをあまり大声で言わないで下さい!周りに聞かれてしまいますよ!」


看護婦さんが耳元でささやくように言ってきた。ちょっとくすぐったい。なるほどそういうものか。


「男性の受付は奥の方になりますので!どうぞこちらへ来てくださーい!」

「あ、はーい」


周りの患者から注目されながら俺は奥の方へ連行されていった。清潔な白い壁は元の世界と変わらない。すれ違う入院患者や看護婦も女性ばかりだ。


「こちらへどうぞ」


俺は病院の一室に通された。そして看護婦さんから精子提供について説明を受ける。何故俺が精子提供しに来たと知っていたか疑問だったが、どうやら若月警部が予め連絡してくれていたらしい。感謝しなければ。


「なるほど・・・。それじゃあ奥の部屋でこの容器に射精をすればいいんですね?」

「はい・・・どうかよろしくお願いします」


看護婦さんは何やら緊張しているようだ。


「わかりました!それじゃあ行ってきます!」

「あ、え、えっと・・・その・・・」


看護婦さんがもじもじしながら言う。


「も、もし必要であれば私がお手伝いしますけど・・」


チラッチラッと俺の方を見る看護婦さん。年の頃は25歳くらいだろうか?

可愛らしい感じの容姿で化粧も髪型もバッチリ整えられている。もしかしたら俺が来ると知って急いで準備してくれたのかもしれない。しかしわざわざそんな手伝いをさせてしまうなんて申し訳ない。看護婦の仕事というのは尊いものだ。人の命を預かる仕事だし、常に勉強だってしなくてはならない。そのために知識、経験を積み重ねてきた人達。そんな人を俺の欲望を吐き出すために利用していいはずがない。


「いえ1人で大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」

「あ・・・・そ、そうですか・・・」

「はい!では失礼します!」


俺は奥の部屋に1人で入った。ちなみに、この世界では看護婦はなりたい職業の中でもかなり上位に食い込む。その理由が『精子提供を手伝うチャンスがあるかもしれないから』なのを俺が知るのはしばらく経ってからのことだった。


―――――――――――――――――――――――――――


-3分後-


「終わりましたー」

「早いですね!!?」


看護婦さんは驚いていた。俺もちょっと驚いていた。

この2日間自分ですることができなかったこと、特に同居人の2人が俺の性欲をあますとこなく刺激してくること、この2点が相まって提供はあっという間に終わってしまった。


「それではこちらをどうぞ」


早速出したものを看護婦さんに渡す。看護婦さんは疑わしげな様子だ。


「えっと早速検査しますので、少し待っていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どれくらいかかりますか?」

「10分ほどで終わります。申し訳ありませんが少々お待ちください」


看護婦さんは足早に部屋から去って行ってしまった。

とても気まずい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


これで不妊とかだったらどうしよう。流石に元の世界でも検査などしたことがない。もし精子に問題があったりしたら男性登録外されたりしないだろうか?水蓮さんにあれだけお願いされて役に立たないなんてことになったら相当申し訳ないな。

しばらく待つ。やはりこういう時にスマホが無いと暇だ。男性登録もしたんだし図書館くらい使えるかな?今度文庫本でも借りてこようか。あとスマホも買いたい。この世界のネット文化にも触れておきたいところだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ざわざわざわざわ

バタバタバタバタ


ボーッとしていると外が騒がしい。何かあったのだろうか?

すでに看護婦さんが出て行ってから20分ほど経っている。


「川相さん!」

「うわっ!ビックリした!」


急に扉を開けてさっきの看護婦さんが入って来た。


「川相さんの結果出ました!」

「おおっどうでしたか?」

「100点です!」


100点?


「それは何点満点で?」

「100点満点です!」

「あ、そうなんですかー」


どうやら不妊ではなかったようだ。安心する。


「100点ですよ!100点!なんでそんなにテンション低いんですか!?」

「いやそう言われましても・・・」


それが凄いのか凄くないのかサッパリ分からん。


「これだけ濃い精液なら自然妊娠の確率も100%かもしれません!」


これは凄いことですよ!と鼻息荒い看護婦さん。逆に普通は自然妊娠の可能性は低いのか?人工授精が発展し過ぎた弊害だろうか。それはもう生物として終わっているのではないだろうか?いや精液を造るエネルギーを生命エネルギーに変えないといけないくらい男性はか弱い存在になってしまっているのかもしれない。


「えっと・・・よく分かりませんけど、とりあえず人工受精に使用できるということでいいのでしょうか?」

「はい!それはもう!」


ニッコリと満面の笑みで答えてくれる。これだけ喜んでくれると俺も苦手な病院に来た甲斐があったというものだ。ちょっと嬉しい。


「また是非来てくださいね!あ、できればでいいんですけど!」

「あはは!なんならもう一回くらい行けますよ!どうしますか!?」


テンション上がってつい調子に乗ってしまう。その時空気が凍るのを感じた。


「え・・・・」


看護婦さんが信じられないようなものを見る目で俺を見て来た。家に帰ったらエイリアンが茶の間でラーメン食べてるのを見た、くらいの眼である。完全に異星人を見るそれだった。


「え・・あの・・・まさかとは思いますけど、それ本気で言ってます?」

「? はいもちろん・・・」


女性に引かれるのは心が痛むがここは堂々と言ってのける。

ヒッ!と看護婦さんが声をあげた。


「ちょ、ちょっと待っててください!すぐに容器を持ってきますから!」


その後看護婦さんに新しい容器を渡されたので、またすぐに事に及んだ。ちなみに看護婦さんと同時に医者が3名と別の看護婦さん5名が付いてきた。もし俺に何かあったらすぐに医療行為をしてくれるらしい。厳重な体制だ。連続2回ともなると流石に疲れるが、若いこの身体なら特に問題ない。


2回目も10分間で済ませて戻ると医者達から歓声が上がった。昨日の野球部以上の歓声に複雑な気持ちを隠し切れない。


「川相さん素晴らしいです!」

「よくやってくれた!」

「私、感動しました!」

「よくぞ・・・よくぞ・・・!!」


泣いてる人までいる。話を聞いてみると、真田領の男性は一か月に一度の射精すらすでにしんどい状態で、しかも点数は平均15点ほどなのだとか。おかげで真田領では子供を作ることすら困難で、他領から精子を高額で購入しなければ領が維持できないほどの危機的状況だったそうだ。昨日の水蓮さんが必死だったのはそれが原因か・・・。


「すぐに人工受精に回せ!川相君!本当にありがとう!」


医者達は嵐のように去っていった。これでさっきの射精と合わせて俺の子供が20人・・・いやもしかしたらそれ以上できてしまうのか。なんとも複雑な感情だった。


感謝感激といった様子の医療関係者に見送られて俺は病院から出た。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


なんだろう。射精以上にドッと疲れた。人生でこんなに褒められたことなんてなかった。甲子園に出た時ですら流石にここまでではなかった。俺はただ大豊親子のあれやそれやを思い出して1人で頑張っただけだ。それをここまで褒められる謂われはない。

しばらく諏訪湖のほとりのベンチに腰掛けて遠くを見つめてしまった。

そういえば帰りがけに謝礼を貰ったんだった。中を見てみる。


封筒には知らないお札で4万円入っていた。

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