第19話 お金がない!
野球部の練習に参加した次の日の朝。
軽く諏訪湖周りをランニングをして帰ってくると制服姿の美月が朝ご飯を食べていた。どうやら今日は学校があるらしい。
「あ・・・拓真君おはよう・・・」
美月がトーストを齧りながら挨拶をしてくれる。
「おう!おはよう!」
今日も諏訪湖は爽やかな陽気だった。早朝ランニングは是非日課にしたいものだ。
「そういえば美月は学校か」
「うん・・・今日は登校日だから・・・」
今日は8月17日だから本来はまだ夏休みのはずだ。そう言えば昨日部活に行くとき美月は制服じゃなくて私服だったな。元の世界じゃ部活に行くときは制服で行くもんだと思っていたが、この辺も文化が違うのかもしれない。
「にしても髪の毛ボサボサだな美月」
「あう・・・」
美月は結構クセっ毛だ。長いザンバラ髪をポニーテールにしているが、ボサボサだ。何せ男がいないからあんまりお洒落の必要もなかったのかもしれない。
「どっかに櫛とかないか?」
「あ、うん・・・。洗面所の方にあったかも・・・」
洗面所に行くと鏡の前に櫛が置いてあった。伊月さんのものだろうか?ちょっと拝借。美月の方に戻ると髪の毛に櫛をかけてみた。
「た、拓真君!?」
「いいから朝ご飯食べてて」
美月の髪を梳いていく。美月は顔を真っ赤にしながらトーストをむしゃむしゃしていた。ていうか朝から凄いな。何枚食べるんだそれ。
ふと台所の方を見ると伊月さんがこちらを微笑ましそうに眺めていた。
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美月が学校に行くのを見送ると途端に暇になった。
伊月さんは朝からずっと蕎麦打ちをしている。どうやら昨日お客さんが一杯来たおかげで在庫の蕎麦が全部なくなってしまったらしい。俺も手伝いを申し出た。
「なるほど・・・ この蕎麦と水を混ぜたものをこねればいいんですか?」
「ええ 是非やってみてちょうだい」
蕎麦粉をこねこねしてみる。空気が入らないようにこねこねこねこね・・・。
思ったより難しい上に体力が必要だ。なるほど美月も伊月さんも結構腕力がありそうだったが、これだけの重労働を毎日やっているのであればそれも納得できる。
「い、意外と難しいですね・・・」
「そんなことないわよ。上手上手♪」
そんなことを言いつつ伊月さんは蕎麦を器用に伸ばしてあっという間に切っていく。
俺も頑張って蕎麦をこねるが、どうしても時間がかかってしまっているな。
「ふふっ♪今日食べにくるお客さんはラッキーね♪男の子が打った蕎麦なんて私も食べたことないもの」
「あはは 言ってくれればいつでもしますよ」
試しに俺も蕎麦を切らせてもらったが、ちっとも太さが均等にならない。やっぱりプロは凄いなと感心しきりだった。
「うん♪美味しいわ♪」
「あはは・・・」
伊月さんはそんな俺の蕎麦を嬉しそうに食べていた。
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今日も今日とて蕎麦屋は満席で、行列まで伸びている始末だった。流石に今日は美月がいないので俺も接客をしているのだが、てんてこ舞いだ。結局朝打った分の蕎麦は13時には無くなってしまった。それにしてもいくら希少とはいえ、男子店員効果はすさまじいな。俺もできる限り愛想を振りまく。こうしてきゃーきゃー言われながら接客するのもなんだか不思議な気分だ。元々美味しい蕎麦なのだから、俺なんか関係なくもっとお客さんに来てもらいたいものだ。
「今日はこれからどうしましょうか?」
「そうねえ・・・。そばつゆも少なくなってきたし、今日はもう店じまいね」
なんでもそばつゆはしばらく寝かせる必要があるらしく、その仕込みもしないといけなくなってしまったらしい。伊月さんはこれから全力で蕎麦作りをするようだ。俺も手伝いを申し出たが、流石に申し訳ないと断られてしまった。
時間がぽっかりと空いてしまう。外出しようにもお金が全くないから、公園くらいにしか行ける場所がない。
「金かあ・・・」
どうしよう。これから諏訪湖スタジアムでやる野球の試合は基本的に全部行くつもりだ。となると当然お金が必要になる。伊月さんに言えばきっと少しはくれるだろうが、それも申し訳ないし何より足りない。ただでさえ居候の身分だ。これ以上大豊家に金銭的負担をかけるつもりはない。当然俺も働く。
「うーん・・・」
よそで働くことも考えないといけないかもしれないな。蕎麦屋の手伝いもいいのだが、なんかお客さんが来過ぎていて逆に迷惑になっている感が凄い。手打ち蕎麦は作れる量も限界がある。かと言って俺の都合で蕎麦以外のものを売るようなことはして欲しくないし・・。
どうしたもんかな・・・。
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「というわけで相談に来ました」
「そ、そうか・・・」
やって来たのは諏訪警察署。仕事中なのに申し訳なかったが、若月警部を呼んでもらった。何せこの世界に他に知り合いがいない。美月も圭も学校だし、藩主の水蓮さんに気軽に連絡することもできない。伊月さんに相談したらお金を押し付けられてしまいそうだ。
「お仕事中なのに申し訳ありません」
「いやいいんだ。むしろ黙って働き始めていたら確実にトラブルになっていた。事前に相談してくれて感謝する」
相談しただけで感謝されてしまった。感謝のハードルが低い。
「それで何か働き口とかないでしょうか?」
「うーむ・・・そうだなあ・・・」
「あ、それなら警察署で働きません!?マスコットとして!」
昨日もいた婦警さんが提案してくる。確か杉本さんだったっけ。
てか何をするんだ警察署のマスコット。
「ええい!お前はいいから杉本巡査!さっさと仕事しろ!」
「ええー」
杉本巡査は他の警察関係者に拉致されて行ってしまった。警察署ももちろん女性だらけだ。今後もお世話になることもあるかもしれない。手を振って愛想を振りまいておく。優勝パレードで手を振る選手ってこんな気分かもしれない。
「それで仕事だったか?まず一応言っておくが、お店の店員などはしてはいけないぞ」
「それはもう実感しています・・・」
蕎麦屋の手伝い大変だった。でも今日の蕎麦は俺も打ったんですよーって言ったらお客さんがとても喜んでくれたので、やって良かったと思う。
「一応男性の警護も警察の仕事の1つではあるのだが、流石に私も毎日付き合うことはできんのだ」
そりゃそうだ。というか、俺が仕事をするために他の人の仕事を増やしてたんじゃ本末転倒のような気がする。
「それだとどうすれば・・・」
「うーむ・・・一応アテがあるにはあるが・・・」
若月警部が言いにくそうに言う。
「お、何かお仕事ありますでしょうか!?」
この際肉体労働でも良い。いやむしろ身体が鍛えられる分肉体労働の方が良いくらいかもしれない。
「時に拓真君は真田で男性登録を行ったのだったな?」
「あ、はい。昨日させてもらいました」
若月警部は少し考えてから言った。
「それなら精子提供をしてきたらいいんじゃないか?謝礼がもらえるぞ」
「え」
射精をしたらお金が?何そのシステム。




