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男女比1:1000の世界でも野球観戦がしたい  作者: げんずむ


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第16話 野球中継を見よう!

諏訪湖球場を一周して一通り楽しんだ後、俺達は大豊庵に帰って来た。

圭と若月警部とは途中で別れた。若月警部が言うには俺の照会結果は今日中には出るらしい。まあどうせ一致する人間なんているわけないんだけども。


「ただいまー」

「お、おじゃましまーす」


お店の中にはお客さんがたくさんいて、席は既に満席の様子だった。お店はとても繁盛しているようだ。


「あ、美月ちゃんお帰りー。悪いんだけど、お店手伝ってもらっていい?」

「いいけど・・・ 今日は凄い人だね・・・」


今は夕方5時くらい。確かに夕飯前にも拘わらず満席とは凄いな。


「ええ・・それが・・・」


チラッと俺の方を見てくる伊月さん。店内のお客さんも俺の方をチラチラ見てきていた。

どうやら昨晩から今まで散々目立ってきたせいで大豊庵に俺が保護されていることがバレているらしい。なるほど今の俺は美少女アイドル。客寄せパンダには持ってこいの逸材だろう。


「みなさんいらっしゃいませー!あ、伊月さん俺も手伝います!」


居候としてお世話になっているのだ。これくらいはしても罰は当たらないだろう。


「あら拓真君いいの?それじゃあ拓真君はそこでお客さんとお話してくれる?」


あっという間に戦力外になった。


「いやいや!俺皿洗いでもなんでもやりますよ!だから指示出してください!」

「皿洗いなら私がやるから・・・。拓真君はお客さんとお話してあげて?」


頑なに戦力外だった。

まあでもそれはそうか。きっとここにいる人達は男と話す機会なんて滅多にないのだろう。いや男女比1000対1じゃ下手したら一度も話したことがない人すらいるかもしれない。よしそういうことなら少しは役に立とうか。


俺は開いている椅子を持ってくると店のド真ん中に陣取ってお客さんの相手をした。しかしここは何のお店だっただろうか?ここは蕎麦屋だったはずだが・・・。なんだか変な気分だ。人気キャバ嬢ってこんな気分なのかもしれない。

結局蕎麦を食べ終わっても居座る人が多く、外で並んでいるお客さんから追い出される事態になっていた。みんな近所に住んでいる顔見知りらしい。そういえば千春ちゃん親子もやってきて改めてお礼を言われてしまった。昨日はまだちょっと体調が悪そうだった千春ちゃんだったが、体調はすっかり良くなったようだった。元気になって何よりだった。



―――――――――――――――――――――――



「あ、そういえば拓真君。いま野球中継やってるよ?」

「マジで!!?」


お店でなんちゃってキャバ嬢をやっていると美月が教えてくれた。

一瞬でテンションが上がる。美月はまだ店の奥で忙しそうに皿洗いをしている。伊月さんは片づけを始めていた。どうやらもう麺が無くなってしまったらしい。店の外で待っていたお客さんから不満の声が上がったものの、こればかりは仕方がない。せめて店内に、とも思ったがもう店内も一杯だ。なんか俺ばっかり遊んでて申し訳ないな。2人に働かせて俺だけたくさんの女性に囲まれてわいわい楽しく遊んでいるなんて。


「あ、皆ゴメン。テレビのチャンネル変えていい?」

「「「「はーい」」」」


皆快く了承してくれる。元より誰もテレビなんて見ていなかった。

テレビのチャンネルを変えるとそのうち1つが野球中継だった。


「おお~・・・」


思わず声を上がった。特等席に陣取ってテレビに喰らい付く。画面の向こうでは女の子が野球の試合を行っていた。今日のカードは北条ファルコンフォースvs三好コンドルウォリアーズの一戦。まだ2回だが早くも三好が3点をリードする展開のようだ。


「拓真さんは本当に野球が好きなのねえ」

「はい!それはもう!」


目に入れても痛くないほどだ。

コンドルウォリアーズのピッチャーが投げる。球速140km/hのフォーク。北条のバッターがバットに当てるもファールになった。

女子が凄い球を投げているのを見て俺は興奮が止まらなかった。やはり野球のレベルは元の世界の男子に引けを取らないように思う。


「ちなみに真田にも野球チームがあるんですよね?」

「あるよ~。真田スズメーズ」

「めっちゃ弱い」


弱いのか・・。


「今期7勝106敗」

「滅茶苦茶弱いな!?」


野球というのは通常どれだけ弱いチームでも3割くらいは勝つ。大体6割勝ったら優勝。4割しか勝てなかったら最下位。そういうスポーツだ。1割も勝ててないというのは異常としか言いようがない。


「仕方ないよ・・・」

「真田はお金全然ないし」

「メンバーも少ないし」

「冬は練習できないし」

「人口も少ないし」


何重苦だそれは。


「というか人口って?」

「あ、真田領の人口って150万くらいなんだけど・・・」

「北条とか三好なんて3千万人くらいいるからね」


聞くところによると元の日本と異なり、プロ野球選手は大体自分の出身の領のチームに入ることが慣例らしい。だからシンプルに人口の少ない真田ではその分良い選手が出てきにくく、結果的にチームが強くなりにくいのだ。


「しかも真田の選手って普段は別の仕事している人もいるからね・・」

「それじゃ練習も足りなくなっちまうな・・・」

「で、でも頑張っているんだよ!真田の選手!」


うんうんと皆頷く。でもプロスポーツで頑張ってるなんてのは当たり前の話だ。やはりプロスポーツは勝ってなんぼの世界だ。


「でもそれなら圭や美月には期待しちゃうな」


彼女達はきっとプロでも活躍してくれるだろう。彼女達ならきっと真田スズメーズのエースと4番になれるかもしれない。


「あ・・・」


声が聞こえたので振り向くと美月が隣に立っていた。どうやら皿洗いは終わったらしい。彼女は申し訳なさそうに顔を伏せていた。


「美月・・・?」

「あ、あの・・・私プロ野球選手にはならないかなって・・」

「え」

「その・・・お母さんのお店を継ぎたくて・・・。そ、それに目立つのもちょっと・・・」


そんな勿体ない。と、思わなくもないが、それも一つの選択肢か・・。彼女のポテンシャルを考えると非常に残念だが、堅実に生きるのも正しい。元の世界の日本にも社会人野球から敢えてプロに行かない選手も大勢いた。


「ご、ごめんね拓真君・・・?」

「いや美月の将来を決めるのは美月だから。ちょっと残念だけど・・」


テレビでは北条の4番がホームランを打って3点差をひっくり返したところだった。三好のキャッチャーは茫然としている。俺には三好のキャッチャーよりも美月のほうが高いポテンシャルを持っているように感じた。



――――――――――――――――――――――――――


午後九時を回った。

お客さんはすでに全員帰っており、俺らは店の掃除をしている。

テレビの試合は5-5の延長戦に突入した。夜ではあるが夏の暑さのせいでどちらも満身創痍といった感じだ。一昨日の甲子園の試合を思い出す。まだこっちの世界に来てから2日しか経ってないんだなー・・。なんだか随分長いことこっちにいる気がする。


そういえばテレビ中継を見ていて気が付いたことがある。応援がまばらだ。わーとかきゃーとかは聞こえるのだが、トランペットなどの鳴り物や応援歌も何も聞こえない。公式の応援団はいないのだろうか?応援ガチ勢としてはちょっと寂しい。タオル回したい。


コンコン


店内の掃除をしていると店の扉からノックの音が聞こえた。


「ごめんください。伊月おってですか?」

「あらあら水連ちゃんいらしゃい」


誰かお客さんがきたようだ。


「お久しぶり~。元気だった~?」

「ええまあ。最近は忙しゅうてあんまり来れんで堪忍な」


やって来たのは着物姿のとても美しい女性だった。そういえば今日諏訪湖の周りを歩いていた時も気になっていたが、着物の女性を多く見かけた。この辺りも戦国時代が終わらなかった名残だろうか?諏訪独自の文化なのかもしれない。

そんなことを考えていると女性の方と目が合う。


「あなたが拓真君?なんやウチの娘に聞いてた通りカッコいい男の人やなあ」


なんか肩をペタペタ触られる。


「ほー ほー なるほどなあ。こんなに硬いもんなんやねえ。おもろいなあ」

「ええっと・・・?」


困って伊月さんの方を見る。


「紹介するわね」


女性を引きはがしながら伊月さんが紹介してくれた。


「こちらは黒田水蓮さん。この辺を治める藩主の方よ」

「拓真君よろしゅう~」


こちらに向かって手を振る水蓮さん。

微笑む水蓮さんはとても美しかった。


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