第15話 諏訪探検
一通り練習を終えて俺達は帰路に着くことになった。今日は日曜日で、練習は午前中だけ。まあそうじゃないと流石に身体が持たないだろう。
それにしても久々の部活動は楽しかった。しかも女子に囲まれての部活動だ。
これが楽しくないわけがない。
元の世界の男並に運動神経の良い女子達を見るのは本当に新鮮だった。
もちろん元の世界の女子にも素晴らしい運動神経の人達は確かに多くいた。
しかし女子野球でも女子サッカーでもやはりボールが随分重く感じられたものだった。
こっちの彼女達はそれを全く感じさせない。
華奢な身体で良い球をスパンスパン投げていく彼女達には最後まで違和感があったが、楽しくてつい見惚れてしまった。
ゲームなどで小柄だけど怪力な女の子や、ムキムキマッチョを一発で倒してしまうような女の子のキャラクターはあちらの世界でもよく見かけたものだが、リアルで見るとここまで違和感があるものなのか。
ちょっと圭に頼んで腕の筋肉を見せてもらったが非常に華奢だ。
元の日本と変わらない。
触ってみたけど特に滅茶苦茶硬いなんてことはない。
それなのにあの投球である。
人間がどんな進化を遂げたらこうなるのか想像もつかなかった。
「それでタク!今日午後から何をするの?」
「どうしようかなー・・・」
先ほどシャワー室を借りさせてもらったから汗はサッパリ洗い流せている。このまま帰ってもいいがどうしようか?
「そういえば美月・・。俺って今日も泊まっていい・・?」
恐る恐る尋ねてみる。すると美月は嬉しそうにはにかむと答えてくれた。
「あ・・・うん・・モチロン大丈夫・・・」
「なんならうちに来てもいいよ!?」
圭もグイグイくる。個人的には美人親娘のいる蕎麦屋からは離れ難い。だが圭にもなんだかんだ世話になってる。無下に断るのも申し訳ない気がしていた。
「そういえば圭の家も近いのか?」
「うん、あっちの方」
圭が指差すのは繁華街がある方だった。今朝諏訪湖を一周グルッと回ってみて気が付いたのだが、諏訪湖の周りは結構栄えている様子だった。湖畔にはホテルもそれなりに建っているようだし、公園なんかも多く見えた。
「あっちのどの辺?」
「ホラあそこ。あの辺りにお城が見えるでしょ?」
「おおホントだ」
なんか城がある。大きさはそうでもないが、やっぱり城というのは良いものだ。
そういえばこちらの世界では戦国時代が終わらなかったらしい。
長野県や兵庫県も全く通じなかったし、「県」という制度そのものが無いようだ。
日本のお城は廃藩置県や明治維新の際に多くが失われてしまったらしいが、もしかしたらこちらでは戦国時代に建てた城はそのまま残っているのかもしれない。
なんかテンション上がって来た。
「で、あの城がどうしたんだ?」
「あれが私の家」
「マジで!?」
家が結構デカいって昨日言っていたけど、まさかの城だった。
「うん。一応私って諏訪藩の藩主の娘だから」
「へー・・・」
よく分からんけどお嬢様だったっぽい。その割には迷子の子供を探していたり、随分親しみやすい子だ。
「圭ってお偉いさんの娘さんだったのか。その割には普通にしてるな?」
「あはは そりゃ諏訪藩なんて小藩だしね」
「あれ?でも昨日はこの辺は『真田領』って言ってなかった?」
なんかそんなことを言っていた気がする。
「諏訪藩は真田領に所属してるからね・・・」
美月に詳しく聞いてみる。どうやら諏訪藩は真田領にあるいくつかの藩の1つということらしい。元の世界で言うと「領」というのは「県」で、「藩」というのが「市」ということだろうか?この辺も後で詳しく訊いてみよう。
「そういえば諏訪って言ったら諏訪大社だよな。アレもこの辺にあるのか?」
「諏訪大社は諏訪湖からちょっと離れてるから・・・」
そうなのか。今朝諏訪湖を一周したものの、諏訪の地理がさっぱり分からない。
「あ、それなら私達がこの辺を案内してあげようか!?」
「お、いいのか?」
「う、うん・・・ どうせ後は帰るだけだし・・・」
というワケで俺達3人は諏訪湖の周りでブラブラと遊ぶことにした。
ちなみに若月警部は後ろの方で引き続き俺を見張っている。
俺が大人しく家に帰れば警察署に帰れたかもしれないな。
ちょっと申し訳ない。
今朝一周した時は人が全然いなかったが、やはり午後1時だと人が結構多く見受けられた。
すれ違う人全員が俺の顔を見る度ギョッとしているので、ヒラヒラ手を振って挨拶しておく。
あ、あの人は昨日千春ちゃん捜索の時に見かけた人だ。
昨日はどうもーと挨拶したら驚いていた。
諏訪湖の周りを歩いているとホテル街に到着した。ホテル街、と言ってもいかがわしい感じではなく、リゾートホテルが並んでいるような場所だ。
「おおー この辺は観光地か?」
「そうそう!」
「こ、この辺は涼しいから・・・。他領からも避暑にやってくる人が多いんだってお母さんが言ってた」
「他領から・・・って自由に行き来していいのか?」
「あ、うんそれは大丈夫。特に検問とか関所なんかもないよ」
EUとかアメリカの州みたいなもんだろうか?各領である程度独立を維持しているが、特に移動制限はないらしい。
「おおー それはいいな!俺もどっか行きたい!」
他の領の文化にも触れてみたかった。
しかし2人は渋い顔をする。
「あ、拓真君はちょっと・・・」
「お、男の子は簡単には他の領には行けなくて・・・」
2人が言いにくそうに言う。聞けば男は誘拐などの恐れが多いため、事前に届け出が必要なんだとか。
「う、うん・・・」
「だ、だからタクは諏訪にずっといればいいんじゃないかな!」
なんだか2人がワタワタしていた。なんだろう?なんだか挙動不審だ。
「そ、そんなことよりお昼ご飯食べに行こうよ!こっちに観光者向けのレストランがあるんだー!」
「それはいいな!あ、でも俺金持ってない・・・」
「それくらい私が出すよ!ホラ行くよ!」
3人・・・いや4人でレストランに入って昼食を食べた後、諏訪湖の観光地を周った。湖畔の見える公園、散歩のできる公園、スポーツ場のある公園・・・
「公園多いな!」
「あはは・・・」
「他にも何かあると良いんだけどねー」
「せめてボートとか欲しい」
カップルのデートの定番だろうに。
「ボート?」
「湖の上でボートを漕ぐの?」
何がおもろいねんという顔をされてしまった。しまったカップルなぞいないんだったこの世界は。
「まあでもボートで湖に出たら気持ちいいかも・・・」
「ボートくらいならすぐに用意できるだろうから今度用意しておくよ」
聞けば釣り人がボートを持参して釣りをすることもあるそうだ。
バス釣りでもするのか?って聞いたら何それと言われてしまった。
こちらには無い文化らしい。
俺達は諏訪湖の南にある運動公園内を歩いた。陸上トラック、サッカー場、テニスコートなどなど・・・。休日ということもあり運動場では様々なスポーツを楽しむ人々がたくさんいた。これだけ女性がいるなら男も1人くらいいるんじゃないかと思ったけど、やはり男はいなかった。
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「おおおおー!!!」
俺は興奮して声を上げた。俺の目の前にあるもの、それは・・・。
「野球場だー!!!!!」
俺は帰って来た!帰ってくるべき場所に帰って来た!
「す、すごいテンションだね・・・」
「タクは本当に野球が好きなんだねー」
「だってホラ!見てみろ!野球場だぞ!野球場!」
「そ、そうだねえ・・・」
「ちなみに今日は試合は!?」
「あ、今日はビジターだから試合はないよ・・・」
「え」
俺はビックリする。
「てことは・・・ここってプロ野球のホームなのか?」
「そうだよ?」
「おおー!!!」
長野にプロ野球チームが!?
流石は別世界。思いもよらないことが起こっている。
「ここは真田スズメーズの本拠地なんだ」
「ま、まあ・・・スズメーズ弱いから万年最下位なんだけどね・・・」
「真田スズメーズ・・・・?」
真田スズメーズ・・・。
いやスズメーズて・・・。
せめてスパロウズにならなかったのだろうか?
俺は目の前の野球場を眺めてみる。試合が無いせいか人が全くおらず球場には静寂が訪れていた。
この世界のプロ野球。一体どんな感じなのだろうか?
見てみたい!とても見てみたい!
最初はとんでもないとこに来たものだと思った。
何故自分がこんな訳の分からない状況に巻き込まれたのか、嘆く気持ちがあった。
だがこの世界にも野球がある。それだけ十分だ。この世界の野球はこの世界でしか楽しめない。
今は全力で野球を楽しもう。
野球場を見ながらそう決意するのだった。




