第14話 ピッチャー黒田圭
驚いた。
本当に驚いた。
高校生で球速145km/h。
これだけでも驚異的だ。しかも左利き。コントロールが良ければ甲子園を狙えるくらいか下手したらプロでも通用するレベルかもしれない。これだけの逸材がこんなところにいたとは・・・。なぜ今まで注目されていなかったのだろう?少なくとも俺は聞いたことがなかった。
「・・・・・・・・・・」
よく考えたら世界が違うんだった。そりゃ聞いたことなくて当たり前だわ。しかしこの日本は恐ろしいな。しかも圭は元の日本にいる標準的な体型の身長160cm程度の美少女だ。特にムキムキというワケでもない。プロ野球の選手は基本的にみんなでかい。この選手小さいな、って感じる選手でも普通に175cmくらいあったりする。だから160cmの華奢な女子から145km/hの速球が投げられると違和感が半端なかった。
「いやいや絶好調絶好調!」
圭はその後もバシバシ速球を投げ続けた。それを全くブレずに捕球する美月もまた凄い。学生キャッチャーが145km/hの速球をあれだけ安定して捕るのだから感心する。余程練習したのだろう。
「ねえ若月警部」
「なんだ?」
俺は隣で控える若月警部に話しかけた。
「俺って記憶がないので詳しくは分からないのですが、圭さんの球って普通だったりします?俺にはとても凄く見えるんですが・・・」
「まさか。145なんて早々出る人間はいないぞ?」
そらそうだよなあ。若月警部は野球中継を観る方らしい。詳しく話を聞いてみるとプロのレベルは元の世界と同じくらいと考えて良さそうだ。ただちょっと気になることもある。一休みしている圭に話しかける。
「圭、ちょっといいか?」
「お、タク!どうだった私の球は?」
「もう最高だ。軽く惚れた」
「ファッ!?」
持っていたドリンクを落としそうになる圭。
「あーもう!ビックリするから変なこと言わないでよタク!」
ちょっと服にドリンクがかかってしまったらしい。お怒りのご様子だ。だが実は変なことでもなんでもなく、こっちの本音だったりするのだが。楽しそうに投球練習する彼女は非常に美しかった。
「ごめんごめん」
「もー・・・ それでなに?」
「さっき投球練習を見てて思ったんだけけど・・・」
俺は思ったことを圭に話してみる。
「圭って変化球はカーブしかないのか?」
先ほどから圭はストレートとカーブしか投げていなかった。カーブは曲がり幅が大きくとても良いのだが・・・。
「? あーうんそうなの。シュートとかもちょっと練習したんだけど、あんまりモノにならなくてねー」
「そうなのか・・・。うーん・・・」
ストレートとカーブのみは流石に問題がある。
「拓真君・・?ストレートとカーブだけだとダメなの・・?」
頭の防具を外して休憩してる美月が小首を傾げた。
「ストレートとカーブだけだとちょっと問題かなー」
球速があまりにも違いすぎるから狙い球が絞られやすくなってしまう。だから速球系の変化球も練習しないと今後厳しくなることをザックリ説明した。
「ほえー・・・なるほど・・・」
「確かにそうかもしれない・・」
きっとストレートが良すぎて今まではそれだけでも全然打たれなかったから問題と思ってなかったんだろう。だが今後更に上を目指そうと思うと流石にストレート一本ではいけない。直球は全ての基本だがそれだけでは流石にダメだ。
「よーし!それじゃあ他の変化球も練習するよ!で、タクはどんな変化球が良いと思う?」
「やっぱ基本はスライダーかな?あとはスプリットとかカットボールとか」
チェンジアップなんかも良いかもしれないが、あれだけストレートが良いのだから、やっぱり速球系の変化球がもっと欲しい。
「? スライダーは分かるけど・・」
「スプリットとかカットボールってなに?」
おっとそういうレベルか。この世界は元の日本とは違う歴史を辿っている。変化球の歴史もまた違っているのかもしれない。
「スプリットもカットボールも速球系の変化球なんだけど・・・。聞いたことないか?」
「聞いたことないね・・」
「あ、それならタク!私に教えてよ!」
「・・・・・俺がか?」
一応ピッチャーもできなくはないけど、さっきの圭の球を見ちゃうと微妙に投げづらい。ただ2人とも新しい変化球に興味津々といった様子だ。俺は一応ピッチャーもできる。内野全部できるように練習したのだから当然だ。結局甲子園で投げることはなかったけど、4番手投手として投球練習も欠かさずに行ってきた。
「仕方ないな・・。あんまり期待しないでくれよ?」
美月に俺の投げる変化球がどんな変化をするか説明してからマウンドに立った。キャッチャーに向かって構える。やっぱり美月はデカいな。18m離れてもしっかり分かる。
「タクー!!私バッターボックス立っていいー?」
「いいけど当てたらごめんなー?」
「当てんな!」
圭がバットを持って打席に立った。よーし久しぶりの投球練習だ。張り切って行こう。
「まずはストレートいくぞー」
セットポジションから一球目を投げる。俺の投球フォームはサイドスローだ。自分はあくまで4番目の控え投手で本職はショート。普通に上から投げてもピッチャー専門で投げている人には絶対に勝てない。俺の役割は試合の後半、オーバースローの速球に慣れた打者相手に出てきてタイミングをズラして打ち取るのが仕事だ。
スパン!
小気味の良い音を立ててミットにボールが納まる。球速は・・・多分130km/hくらいだな。『野手登板』という意味では十分な球速かもしれないが、我ながらなんとも中途半端な速度だ。バッターボックスの圭は唖然とした様子でこちらを見ていた。
何球かストレートを軽く投げて慣らす。さっきのノックの時も思ったけど、肩の調子はすこぶる良かった。これが若さか。
「よーし美月ー!次スライダー!」
いよいよ変化球だ。握りは大丈夫かな?打席に立つ圭にぶつけないように気を付けないと。俺は右打席に立つ圭の内角にスライダーを投げた。
「おひゃあ!」
圭が思わずのけぞる。曲がらなかったらデッドボールだったな。。
「ちょっとタク!危ないよ!」
「・・・圭落ち着いて。ボール曲がってるから。審判によってはストライク取られるよ」
「えー?本当ー?」
圭が疑わしそうに美月を見ている。
「よーしもう一回スライダー行くから!よく見てろよ圭ー」
「あいよー!」
俺は全く同じコースにスライダーを投げた。
「おおおおお!?すっごい曲がった!すっごい曲がった!」
スライダーは一見するとただの速球にしか見えない。ただバッターがタイミングを合わせようとした瞬間に突如として横方向に急激に曲がる。プロのスライダーは消えたと感じるそうだ。残念ながら俺程度のへっぽこスライダーじゃとても消えたようには見えないだろう。まあそれでもスライダーの雰囲気くらいは伝わるはずだ。
「タクすげー!もう一回!もう一回!」
圭がブンブンとバットを振る。
「よーしもう一球いくぞー!」
もう一球同じ球を投げた。
「どりゃー!!」
カキーン
打たれた。
「うわ危なっ!」
綺麗なピッチャー返しだった。
「いきなり打つなよ!」
「あははー ごめんごめんつい」
1回見ただけで対応されてしまったか。やっぱり俺程度の投球じゃこんなもんだろう。それにしても圭のバッティングは鋭いな。こいつ投手としてじゃなくて打者としても相当優秀だ。
「タクー!!次!次!」
「はいはい・・・ 次カットボールいくぞー!」
俺は再度セットポジションから投げる!
「どりゃー!!」
カキーン
打たれた。
「だから打つなよ!」
その後も続けて新しい変化球を投げ続けたが、すぐに打たれてしまう。
うーんやっぱり身体は若返っていてもブランクはあるようだ。またピッチング練習しないとな。投げるアテはないんだけどせっかく若返ったんだし。
これだけバカスカ打たれてしまうとちょっと悔しかった。




