第12話 集団セクハラ
「ちょ、ちょっと!タミちゃん!ダメだってそんなの!」
圭が慌てて後輩女子を止める。
「そ、そうだよ・・・!そんなのセクハラだよ・・!」
それに続く美月。セクハラってこっちでもあるんだなー・・。あっちじゃ男から女へのセクハラが多かったが、やはりこっちでは逆なんだな。こっちの世界の男は女から触れられるのを極端に恐れるらしい。なんでそんなことに?と思ったがなんのことはない。女から触れられるのを嫌がらない男は戦国から今までの間に子孫を残す前に死ぬパターンが多かったんだろう。多分絞り取られて。女子の身体が進化したのと同じように男も進化したのだ。弱く、目立たないように。なんだかそれはとても悲しいことに思えた。
「あ!す、すみませんつい!」
さっちゃんと呼ばれた後輩ちゃんがペコペコと頭を下げる。なんだか逆にこっちが悪いことをしたような気がしてしまう。
「はは!別に腹筋くらい構わんよ!好きなだけ触ってくれ!」
実は腹筋は現役時代にかなり鍛えた。野球をする上での実用面もそうなのだが、『カッコいいから』という理由でシックスパックを目指して訓練したものだ。だから腹筋はきちんと6個に割れてる。これは元の世界でも割と好評で、マネージャーやクラスの女子から同じように触らせてとお願いされることがよくあった。
・・・・・・・・今思えばアレが人生で一番モテてた時代かもしれない。
「い、いいんですか!?」
「ああいいぞ!」
シャツをめくって腹筋を見せる。うむ我ながら良い腹筋だ。
「ほあああぁあああ!こ、これが男の人の・・・」
ごくりと喉を鳴らす後輩ちゃん。そして指で腹筋をつんつん突いてくる。
「硬ァッ!!」
「ちょっとタミちゃん!いくら本人が良いって言っても・・・!」
「でも先輩!これ硬いですよ!」
「なんなら圭も触るか?」
「いいの!!? あ、えっと・・・」
何か葛藤があるようだ。
「ほわぁ~・・・(つんつん さわさわ)」
触り方に遠慮が無くなってきた後輩ちゃん。圭もおずおずといった感じで手を伸ばしてくる
「硬ッ!?」
「ちょ、ちょっと圭・・・」
「美月も!美月も早く触って!」
美月の手を取って俺の腹筋に当てる。
「硬い・・・」
「硬いだろう?」
「・・・・・・・・・・・」
無言でさわさわしてくる美月。
「負けた・・・」
自分の腹筋と比べていたようだ。美月も相当鍛えてそうだが、俺だって負けてない。
「はー・・・ 男の人ってこんなに硬いんですね・・」
腹筋から触る場所を移行してくる後輩ちゃん。肩やら腰やら足やら遠慮がなくなってきた。
「おーいお前達。そろそろ俺を解放してくれないか?」
「も、もうちょっとだけ!」
圭の目が血走ってて怖い。
なんだか目の置き場がなくなって視線を彷徨わせてしまう。下を見ると俺の身体をベタベタ触る女子学生達。まさか俺にこんな日が来るなんて思ってもみなかったな。
ふと校門を見るとパトカーが止まった。そしてやってきた警察官に取り囲まれる俺達。
「動くな!」
あ、さっきの警部だ。
「あ、先ほどはどうも~。どうかしたんですか?」
「・・・・・・・・・」
見つめ合う俺達。
一体何かあったのだろうか?
――――――――――――――――――――――
「すみませんすみませんごめんなさいごめんなさい」
「いや・・・もういいんだ・・・」
警部は酷く疲れた様子だった。なんでも男子が数人の女子に取り囲まれて性的虐待をされているという通報があったそうだ。あ、通報したのは金網フェンスの向こうにいるあの人かな?大丈夫だよーと手を振る。あ、手を振り返してくれた。
「とにかく!キミも男なんだから無暗に身体を触らせたりしないこと!いいね!」
「はいすみません」
しょんぼりである。そうだ忘れていた。今の俺は美少女アイドルだった。確かに俺も元の日本で美少女アイドルが身体を触らせていたら注意するかもしれないな。ちなみに事件の原因を作った後輩ちゃんは俺の前で綺麗な土下座を決めている。やめるように言ったんだが聞きやしない。
「それで・・キミはこんなところで何をしているんだ?」
「あ、はい俺野球が好きなんで今日は練習に付いてきました」
警部がチラっと美月を見るとコクッと頷いた。あ、美月の顔真っ赤だ。どうやら先ほどまで自分がしていたことを思い出しているらしい。
「記憶がないのではないのか?」
「そうなんです・・ でも不思議と野球が好きなことは覚えていて・・」
「ふむ・・・それは記憶を取り戻す手掛かりになるかもしれないな」
考え込む警部。
「本当なら照会が終わるまで大豊の家で大人しくしていて欲しいのだが、やむをえまい。それなら私が付いていよう」
「あー!警部ズルい!」
先ほども見た婦警さんが声を上げた。
「ズルいとはなんだ杉本巡査。私はあくまで業務に必要だから警護を申し出たまでのことだ。そこには決して合法的に男子に近づこうなどという浅ましい願いはないのだ。そもそも私はそのような公私混同する行動を心の底から軽蔑している。その私が男子目当てにこんなことを申し出るとでも?冗談にしても質の悪い」
めっちゃ喋るじゃん警部。
警部はクールな感じの美人さんなんだが案外ムッツリなのかもしれない。
「すみません。記憶がないせいか常識も無いみたいで・・・。よろしければお願いできますか?あともしまた俺がなんかやっちゃったら言ってくれると助かります」
「う、うむ・・・」
警部はちょっと恥ずかしそうだった。
「ちわーっす!」
「なんか校門にパトカー止まってた!あれなに!?事件!?」
遠くから声が聞こえる。
どうやら他の部員たちもやってきたようだ。
「拓真君・・・私も着替えてくるね・・・」
「タクいい子にして待っててねー!」
美月と圭は多分更衣室の方へ走り去って行ってしまった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
取り残される警部と俺と後輩ちゃん。
とりあえずやることもないので土下座する後輩ちゃんの背中をさすってみる。なんだかビクビクして面白かった。
――――――――――――――――――――
「というわけで!なんと男子が見学に来てくれています!」
「川相拓真と申します!よろしくお願いします!」
部員が全員揃ったので、挨拶をした。
部員達から熱い視線を浴びせられる。こんなんばっかだな昨日から。
いい加減慣れたいのだがこればっかりは慣れない。
「はい!はいはいはーい!質問いいですか!?」
挙手をする女子学生。
「はいなんですか?」
「ちょっと身体を触ってみてもいいですか?」
「いいぞ?」
「ダメだと言っておろうが馬鹿者!!」
警部から怒られる。
「というわけで警部から怒られるからダメだ。ごめんな?」
「う、ううん!こっちこそテンション上がって変なこと言っちゃった!」
「あはは 大丈夫だよ」
昨日からテンション上がって変なこと言ってる女の人ばっかりだから。まあ男女比がこれだけ偏ってたら仕方ないけども。
「はいはーい!それじゃあいつも通り練習始めるよー!いつもの通りランニングから!」
パンパン!と手を叩き圭が指示を飛ばす。さっき三年生って言ってたし、圭はキャプテンもやっているようだな。
野球部員たちは俺の方をチラチラ見ながらランニングを始めた。部員数は14人ほど。意外と人数が少ない。
「諏訪高ー!!」
「「「ファイオッ!ファイオッ!ファイオ!」」」
「諏訪高ー!!」
「「「ファイオッ!ファイオッ!ファイオ!」」」
声出しも元気だ。女子の練習って参加したことないからかなり新鮮。現役時代もテニス部の練習を遠くに観ることはあったけど、参加までさせてもらうのは初めてだ。
「ほっほっほっ・・・なあ圭?」
「お、なんだいタク?てかタクも走るんだね。見学だけかと思ってた」
「おいおいせっかくの野球部の練習なんだから参加しない手はないだろう?」
とはいっても今の俺の恰好は美月から借りたジャージ姿だ。一応長袖長ズボンではあるが内野守備をやろうと思うとちょっと心もとないな。ダイビングキャッチとかしたら膝が破けてしまうかもしれない。
「で、なんだいタク?」
「部員ってこれで全員か?」
一年生込みで14人だと結構人数がギリギリだ。試合に出るのは9人だが、一塁コーチャー、三塁コーチャーなども考えると結構厳しい人数だ。
「うんそうだよ?」
「そっかー・・・ 結構ギリギリだな?」
「こ、これでも集まった方なんだけどね・・・」
美月が後ろの方からやってきて俺の隣で走り出した。元気に走っているせいで胸が大変なことになっている。しかもそれが俺の顔面の高さなのだから性質が悪い。そんなもんどうしたって見るに決まっている。
しかしこうしてグラウンドを走るのも久しぶりだ。
グラウンドの雰囲気や喧騒はどうやらこちらの世界でも変わらないらしい。




