第11話 野球部
「あはははは!朝からそんなことがあったんだね~!」
時間は朝の8時半。
昨日世話になった黒田圭が大豊家にやってきた。朝ご飯は食べてきたらしい。
「笑い事じゃないよ・・・もう・・・」
「ごめんて」
「でも本当に笑い事じゃないよ?拓真は男の子なんだから気を付けないと」
どうもその感覚に未だ慣れない。昨日まで普通に男として生きてきた俺がいきなり性的に襲われるかもしれないから気を付けろ、と言われてもピンとこないのは仕方ないことだと思う。
そういえば先ほど職場の電話番号に電話をかけさせてもらったが、思った通り全く通じることはなかった。元の日本は今どうなっているのだろう?仕事を無断で休んでしまったが、大丈夫だろうか?いや大丈夫じゃないと言われてもどうしようもないのだが。無事日本に帰れたら何かに拉致られてたことにしよう。
「それで圭はそんなことを伝えに来たのか?」
「えー?拓真君が行方不明になった!って美月から連絡が来たから急いで来たんだよ!」
「それは悪かったな・・・」
「あ、あと九時から部活だから美月を迎えにきて、ついでに拓真君にも会いに来た」
えへへーと笑う。チクショウ可愛いな!元の世界の日本ならモテモテで、俺なんかじゃ近付くこともできなさそうだ。そういう意味ではこんなかわいい子と普通に話せる幸運を噛み締めた方が良いかもしれない。
「拓真君、部活見学したいって言ってたでしょ?一緒に行こ?」
「おう!是非是非!」
久し振りの学生野球!
こっちの世界ではどんな野球が見られるのかワクワクする。
「よし!そうと決まれば急ぐぞ!」
「おうさ!」
「ホラ美月も!」
「・・・・・・・・・」
こちらを見て軽く抗議の目を向けてくる美月。理由は全く分からないが、朝から随分お疲れのようだ。
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諏訪湖の散歩道を三人で歩く。
ちなみにさっきまで走ってたところだ。
「それにしても諏訪湖っていいところだなー。走ってて凄い気持ちよかった」
「へっへーそうでしょ?」
「そうだね・・・私は必死であんまり気持ちよくなかったけど・・」
美月さんはややご機嫌斜めのようだ。
「まあまあそんなに怒らないでくれ美月さん」
「・・・・・心配した」
「ごめんて。明日からは一緒に走ろうな?」
バッ!と美月が俺に振り返った。
「・・・・いいの?」
「おう!だけどもう諏訪湖一周はやめておこう」
流石に朝から2時間走るのは辛い。体力的には問題ないかもだが、毎日だと早起きがしんどいだろう。
「うん!えへへ・・毎日ランニング・・・」
「わ、私も行く!ランニングする!」
圭がぴょんぴょん跳ねてアピールする。
「圭は早起きできる・・?」
「う・・・が、がんばる・・・!」
「早起き苦手なのか?」
「・・早起きというか圭は夜遅くまでゲームしてるから」
「仕方ないじゃん!趣味なんだから!」
そんなことを話していたら学校に到着した。
『諏訪第一高校』
少し古めかしい木造の高校だった。
ドラマのセットみたいに味のある外観をしている。
「それではようこそ我が母校へ!拓真君歓迎するよ」
「あ、うん。ってそういえば俺思いっきり部外者なんだけど入って大丈夫か?」
滅茶苦茶今更なんだけど気になってきた。
「大丈夫だよ、皆歓迎してくれると思う」
「そうそう!特にタクは男の子なんだし!ささ、こっちこっち!」
2人に背中を押されて中に入る。学校に入るのも随分久しぶりだ。かなりの事案感でなんだかビクビクしてしまう。
「? タクはなんでビクビクしてるの?」
「なんだか物凄く悪いことをしているような気がしてしまって・・・」
この世界、戦国が終わっていないせいか木造の建物が前の日本より多い気がしていたのだが、こちらの学校はかなり立派な建物だった。
門を潜るとすぐに銅像が立っているのが見えた。
『真田幸姫像』
悠然と構えた侍の像がそこにはあった。
「これ・・・」
「あ、うん。ウチの領主様のご先祖様の像なんだって」
真田幸姫なんて聞いたこともないが、やはり歴史がおかしくなっているのだろうか?
今夜にでも美月に詳しく聞いてみよう。
「……」
しかし何故だろう?
この像を見ているとなんだか不思議な気になってくる。
懐かしいようなくすぐったいような、なんとも言えない気持ち。
なんだろう?この像から目が離せない。
黙って像を眺めていると圭にせっつかれた。
「タク!ボーッとしてないで野球場はこっちだよ!」
圭にグイグイ案内されてグラウンドまで出た。学校の中は休日の学校特有の喧騒に包まれていた。あれはブラスバンド部の練習だろうか?かすかにトランペットの音が聞こえる。あっちはサッカー部か?まだ9時前なのにもうアップを始めているとは大した気合いだ。
そして我らが野球部はというと・・・
「あ、先輩方おはようございまー・・・・まっ!?!?」
下級生と見られる少女たちが内野にトンボがけをしている姿が見えた。野球場の大きさは・・・・うん元の世界と変わらないな。ここに来るまでの間に美月と圭と話をしていたが、基本的な野球のルールは元の世界と変わりないらしい。ちゃんとインフィールドフライもある。
「あ、タミちゃんおはよー」
「あ、はいおはよう・・・じゃなくて!黒田先輩そ、その人って・・・」
「うん! 男の子!野球部を見学したいって言われちゃってねー」
「え、お、男の子がスポーツ観戦なんてするんですか!?」
こちらの日本の男はスポーツ観戦しないのだろうか?
「なあ美月。男ってスポーツ観戦しないのか?」
「聞いたことない・・かな?観客席ってどうしても女だらけになっちゃうから・・・」
ああなるほど・・。何せ希少な男子。今はまだそんな経験はないが、男が女に性的に襲われる例もあるそうだ。身の危険を感じて男は寄ってこないわけか。
「勿体ないなー・・・ テレビで観戦したりもしないのかな?」
「どうなんだろう・・・。ちょっと分からないかな?」
まあそりゃそうか。
「あ、あの!」
そんなことを話しているとトンボがけしていた後輩女子がこちらにやってきた。
「お、おはようございます!」
「おう!おはよう!」
笑顔で頭を下げる後輩女子。
「ほ、本当に男の人だぁ・・・ いつも応援しています!握手してもらっていいですか?!」
何を応援しているんだろう。男子全体だろうか?昨日から思っていたが俺と話す女性たちはやや挙動不審気味だ。
「じゃ、じゃなくて!えっと・・・その・・・」
「あはは、落ち着いて。握手でしょ?いいよいいよ」
彼女の手を握ってブンブンと手を振る。
「お・・・」
手を握るとマメがあるのが分かった。これはかなり頑張って素振りしてるな。
「バッティング練習頑張ってるみたいだね?」
「あ・・は、はい!まだまだ初心者ですけど・・」
「いやいやこれからも頑張って!」
にっこり笑って応援する。元の世界じゃ男に囲まれて野球をやっていたから、野球をする女子というのもの新鮮だ。ソフトボールとか女子野球とか元の日本でも野球をする女子達はいたが、普段話をする機会なんてなかったからな。女子野球部もソフトボール部もウチの学校にはなかった。だからこうして野球女子を見るだけでなんだか嬉しくなってしまう。
「ほあ~・・・」
「うん?どうしたの?」
「あ、あの!すみません!1つお願いしてもいいですか!?」
後輩女子がガバッと前のめりで訊いてきた。
「よろしければ腹筋触らせてもらってもいいですか!?」
それは突然のセクハラ発言だった。




