第10話 容疑者確保
パトカーはいずれもパトランプを回して物々しい雰囲気を出していた。
野次馬もたくさん集まっている。
心臓が跳ね上がった。
やはり家の玄関のカギをそのままにして出るんじゃなかった!
俺は慌てて大豊庵に向かって駆けだした。
「すみません!関係者です!ちょっと通してください!」
「え・・・きゃわ!」
「ふわっ!!?」
「ほわぁ!?」
慌てる野次馬たちを掻き分けて俺は大豊庵に到着した。
美月や伊月さんの身に何かあったとしたら後悔してもしきれない。
俺は恐る恐る近くにいた婦警さんに話しかけた。
「あのすみません!ここで何かあったんでしょうか!?」
「ん?ああ、大豊庵の主人がな。男を・・・・・・・・・・・・・・」
警官と目が合ったと思ったら彼女が固まった。
「確保ー!!!」
その瞬間大豊庵から3名の警察官が出てきて速やかに店内に連行されてしまった。
訳も分からずパニックになる俺。なんだ!?やはり女性二人の家に泊まるのはまずかっただろうか?
ガタイの良い警察官二人に両脇を抱えられたまま蕎麦屋の椅子に座らされた。
「すみません違うんですボクは何もしていないんです信じてください信じてください」
「何を言っているんだキミは・・・」
警官が呆れたような目を向けてくる。
「いやボクは昨日ここに泊めさせて頂いただけで彼女達に何も危害を加えてなど・・」
「そんなことは分かっている!」
警官の人が声を上げた。
「・・キミは本当に自らの意志でこの家に泊まったというのか?」
「? ええモチロン。ちょっとワケあって行くところがなくて・・・。伊月さん達に保護してもらってなかったら野宿でしたよ」
「そうか・・・」
警官が疑わしそうな眼を向けてくる。
「あ、拓真君これ朝ご飯」
伊月さんが奥からかつ丼を持ってきた。取り調べ感を上げるのはやめて頂きたい。
「朝から多くないですか?」
「男の子は一杯食べるって聞いてたから~。それに美月ちゃんもこれくらい食べるのよ?」
なるほどそれで栄養は全てあの胸に吸収される訳だな。
せっかくなので頂くことにする。
「美味っ!伊月さんこれ美味しい!」
「あらあらありがとう~」
伊月さんは嬉しそうだった。
「・・・・・・・・大豊さんの話を聞いたときはにわかには信じられなかったが。本当に自分の意志で泊まったみたいだな」
「? だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
むっとして警官の人を見る。
「そ、そんな目で見ないでくれ・・・」
「そうよ拓真君?普通こんなところに男の人なんていないんだから」
「そ、そうだ!だからてっきり大豊嬢がどこからか男子を誘拐してきたものと・・・」
酷い疑惑を向けられていたようだ。
「それでキミは一体何をしていたんだ?」
「そうよー?朝起きて部屋を見たら誰もいなくてビックリしたんだから。心配になって警察に通報しちゃったわ」
「いやー・・・ なんかいい天気だったんでランニングを・・・」
「一人でか!?」
警察官の人が驚いていた。
「? ええそうですけど・・・」
「男子が1人でランニングなど危ないぞ!キミは男の子なんだから自覚を持ちなさい!」
めっちゃ怒られた。
ガラガラガラ!!
そんなことを話していると店の扉が勢いよく開いた。何事かと見るとそこには美月が息を切らせながら立っている。全身汗まみれで目は血走り息も絶え絶え。
「ど、どうした美月・・・?凄い汗かいてるけど・・・」
「朝起きたら拓真君いなくて・・・ し、心配で・・・」
美月は軽く涙目だった。どうやら俺を探して外を駆け回っていたらしい。
「き、近所の人に訊いたら諏訪湖を走っていたのを見たって教えてもらったから私も走って・・・」
美月も諏訪湖を一周してきたらしい。
それは随分申し訳ないことをしてしまった。
「た、拓真君・・・(ぜーぜー)お、お願いだから・・家を出る時は私に言って・・・?」
「わ、分かった・・。心配させてごめんな?」
膝をついて息を吐く美月の頭を思わず撫でてしまった。
「あ・・・」
美月はなんだか嬉しそうな声を出す。
それを警察官は信じられないといった表情で見ていた。
「自分の目で見ていても信じられないが・・・。状況は分かった。大事が無くて何よりだった」
「いえこちらこそお騒がせしてしまって申し訳ありません」
「それで・・・キミはどこの家の男の子なんだ?」
やっぱ聞かれるよなー・・。美月たちが言うにはここ信州の真田領の人口は150万程度らしい。元の日本の長野県と比べて多いのか少ないのか分からないが、単純計算で男は1500人ほどしかいないことになる。そんな男が1人でウロウロしているのだから気になるのだろう。
「よければ男性証を見せてもらえないだろうか?」
「男性証?」
「そうだ。持っているのだろう?」
そんなん持ってない。
どうしよう。
「てか男性証ってなんですか?」
「男性証は男性の戸籍を証明するためのカードだが・・・。まさか持っていないのか!?」
警察官が険しい顔をする。
「は、はいすみません・・・」
「あの・・・どうやら拓真君は届け出がされていないようなんです」
「管理回避家庭か・・・ 厄介だな」
管理回避家庭。
昨日伊月さんに教えてもらった。
なんでも男子が生まれたもののその土地の領主に届け出を出さない家庭のことらしい。場所によっては男子を領主に取り上げられてしまうこともあるようで、それを避けるために届け出は出さずに家の中で男の子を育ててしまう家庭もあるのだとか。
「しかもボクにはちょっと記憶がないみたいで・・・」
「なんだと!?それじゃあ自分がどこに住んでいたのかも分からないのか?」
「ええまったく・・・申し訳ありませんが・・・」
「ふむ・・なるほどな・・・」
警察官は考え込む。
「母親の名前は分かるか?」
「す、すみません・・覚えていません・・・」
「どうしてこの真田領にいる?誰かに連れてこられたのか?」
「すみません・・それも分かりません・・」
「何も分からないということか・・・」
警察官の人は困ったような顔を向けた。でも仕方がないんだ!こことは別の日本で野球観戦をして気が付いたらいました、なんて言っても信じてもらえるわけがないんだから!
「名前は?」
「あ、川相拓真です」
「名前は分かるのか・・・仕方ないな。それじゃあ顔写真だけ撮らせてもらってもいいだろうか?データベースから検索してみよう」
「データベース?」
「ああ男性のデータは全ての日本の領で共有されているんだ。名前と顔写真から検索すれば家が見つかるかもしれないぞ?」
うん多分見つからないと思うけど検索してもらおう。そうすれば俺は晴れて身分不詳となるだろう。
「すみませんよろしくお願いします」
「いやいいんだ。他にももし我々にできることがあれば何でも言ってくれ」
警察官の人は立ち上がるとどこかに連絡を始めた。
すると制服を着た婦警さんぽい人が俺に話しかけてくる。
「キミ凄いねー。私、こんなに丁寧な男の人初めて見たよ」
「そう・・・でしょうか?」
「うん。職業柄男性の警護をすることもあるんだけどね。やっぱり色々言われることが多くてね・・・」
あははと悲しそうに婦警さんは笑っていた。
「待たせてたな。それでは我々は署に戻る。何かあったらここまで電話をしてくれ」
警察官の人はそう言って俺に名刺をくれた。
「あー!先輩ズルい!私の名刺もあげていいですか?」
「やめんかバカ者!それでは我々はこれにて失礼する」
警察の皆さんは帰って行った。
チラチラと俺の方を見てくるので笑顔で手を振ると警官の方々も手を振り返してくれた。
「はぁ~・・・」
目の前のかつ丼を見る。時間が経ってしまったためちょっと冷めてしまっていた。
「お母さん・・・私も朝ご飯お願い・・・」
美月が俺の前の椅子に座ったが、なんだかグッタリしている様子だ。
俺もかつ丼を食べる。少し冷めても美味しかった。




