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音楽が終わり、ダンスフロアに拍手が湧き起こる中、セレナとレオンは互いの熱を近くに感じながら、辛うじて視線を交わした。レオンの琥珀色の瞳には、セレナが。セレナの瞳には、レオンが。
「……先生、君という人は本当に……」
レオンが何かを言いかけた、その時だった。
「素晴らしいダンスだった、レオン。そして、カーター嬢」
人混みを割って現れたのは、王太子殿下その人であった。その隣には、先日の王城での面会でセレナを高く評価した、未来の妃殿下も優雅に微笑んでいる。
「っ、殿下……!」
セレナは慌ててカーテシーを捧げ、レオンも即座に紳士の礼を取る。先ほどまでの、二人の間に漂っていた甘く張り詰めた空気は、一瞬で王族を迎える緊張感へと切り替わった。
「カーター嬢。先ほど、貴女が令嬢たちを見事に諭した様子、陰ながら見ていた。マナーを武器とし、論理を剣とする。まさに、貴女の教育論の正しさを、自らの行動で証明してみせた。我が国の女性たちが、貴女のように聡明で、気高くあることを切に願う」
王太子の言葉は、会場中の人々に届くほど堂々としていた。セレナを嫉妬の目で見ていた令嬢たちが、青ざめていくのが分かる。王太子自らが、セレナの知性と行動を社交界の正解として認めたのだ。
「恐れ入ります、殿下……。私などには、身に余るお言葉でございます」
「いや、謙遜する必要はない。……そして、レオン」
王太子はニヤリと、レオンに向けて共犯者めいた笑みを浮かべた。
「君の目に狂いはなかったようだな。彼女の才能が、これからも我が国のために花開くよう、しっかり支えてくれ……期待している」
「仰せの通りに、殿下」
レオンは、笑みを深めてこれ以上なく誠実に頭を下げた。セレナは真っ赤になりながら、「違うんです!」と言いたいのを必死に堪えた。殿下のお言葉を否定するなど、不敬極まりないからだ。
「それでは、夜会を楽しんでくれ」
王太子たちは、強烈な余韻を残して、挨拶回りのために去っていった。後に残されたのは、気まずすぎる二人。
「……まいったな、本当に」
レオンは片手で顔を覆い、今度は本当に困ったように、けれど隠しきれない歓喜を瞳に宿して呟いた。
「殿下にここまで言われては、もう私も、手加減する理由がなくなってしまったな、先生」
「っ……お戯れを!!」
セレナは、バクバクと騒がしい心臓の音を誤魔化すように、扇で顔を隠してスタスタと歩き出した。けれど、その背中を追うレオンの視線が、今までとは比べ物にならないほど独占欲に満ちていることに、彼女は気づいていないのであった。




