第44話 緊迫する情勢
7月29日。百々女木源左衛門首相は、首相官邸でのぶら下がり取材にて、重大な発表を行った。
「先ほど、国籍不明勢力と関与していると思われる人工島のルーマンを、今後は山部島と改称するとともに、我が国の領土として正式に編入することを閣議決定いたしました」
その言葉に、記者たちはひどくざわめいた。
「なぜこのタイミングでの編入なのでしょうか!?」
「国籍不明勢力と関与している可能性があるにも関わらず、我が国の領土と主張する理由は!?」
「そもそも移動する島を領土とみなしていいのでしょうか!?」
とにかく聞きたいことが大量にある中で、百々女木首相は記者の質問には何も答えずに去っていった。
直後に各テレビ局が速報を流し、新聞社は号外を発行。山部島の領土主張を大きく報じた。
『前代未聞の事態です。百々女木首相は見知らぬ国の所有物に攻撃を指示したうえ、それを強奪して自分の物だと主張したのです。これは明らかに何らかの国際法に違反していると思われます。百々女木首相は説明責任を果たし、首相職の辞職と閣議決定の撤回を行う必要があります』
とある番組の三流コメンテーターがそんな感想を残す。
諸外国の反応も様々だった。
西側諸国のうちアメリカとオーストラリアは、賛同の表明を行った。同じく影の魔の手を受けている二ヶ国ならではの反応だろう。それ以外の西側諸国では、「苦しい時間が長く続いているのは理解しているが、さすがにやりすぎではないか?」という懸念を示す意見が多かった。
その一方で、東側諸国の筆頭である中露は「明確に国際的な通念から外れた行動を行っている」として、日本の行動を批判した。その上で「今後の外交に多大な影響を与えた」と声明を発表した。
そのような状態でも、山部島の大開発は留まるところを知らない。すでに地上部では24時間体制で工事が行われていて、小規模な発電施設と居住用の3階建てプレハブ小屋ができていた。
「信濃計画を進める前提で工事が行われてるんか。なんつうか、なりふり構っていられない状態なんだなぁ……」
神崎はニュースサイトを見ながら、そんなことを呟く。
神崎がそんなことをボヤいていたのとほぼ同時刻、山部島の重大な秘密が判明した。地下部にて大小さまざまな送電線が見つかったのだ。しかも現在も通電している。
それらしい発電施設は存在しないのに、なぜ送電線があるのか。それの接続先を調査すると、地上の地面に繋がっていることが分かった。この情報をもとに理研やICMRが分析すると、なんと黒い土壌が発電を行っていたことが判明したのだ。
黒い土壌に導線を繋ぎ、整流ダイオードを挟めば勝手に電流が流れるとのこと。多少配列などの条件はあるものの、比較的簡単な操作で電気が確保できるのだ。
当然のことながら、防対本や政府はこの事実を隠した。下手に情報が流出してしまえば、それこそ世界のパワーバランスを崩しかねない。
そこで日本政府は、アメリカ国防総省やエネルギー省と連携することを決めた。国防総省に対して軍事的密約を交わし、日米同盟と安保条約を理由に米軍の山部島利用を認めた。一方でエネルギー省にはこの黒い土壌のサンプルを送り、研究をしてほしいとの確約を作った。これで新エネルギーを作り出そうというものだ。
日米がより強固に同盟を行っている状況を見て、ある国はそれを脅威とみなしていた。その国とは、当然のことながら中国である。
すぐに行動が起こされる。中国海警局の船舶十数隻と人民解放軍海軍の駆逐艦8隻が、民間の漁船数百隻を護衛しながら太平洋に進出してきたのだ。このことについて、中国外務省の報道官は、次のように発言している。
『人民が飢饉に晒されないために、大規模な漁業船団を結成した。海警局や海軍が護衛しているのは、国籍不明勢力による攻撃を防ぐためである』
言っていることは至極当然で正論だった。
しかしこれも建前なのだろう。海上自衛隊は警戒のため、もがみ型護衛艦数隻を派遣する。
そして8月3日。中国漁場船団は小笠原諸島周辺に到着した。この近くには、さまざまな要因で流れてきた山部島がある。
目的の一つに山部島に関することがあるのだろう。海上自衛隊は警戒を強める。
そんな中、漁業船団は本当に数日間漁をして戻っていった。
関係者が胸を撫で下ろしたのもつかの間、山部島で事件が起きた。なんと、漁船に乗っていたと思われる中国人が、山部島に上陸したのだ。中国人はすぐに空自の警務官に確保された。
この事件はすぐにニュースサイトに速報として掲載され、色んな意味での反響を呼んだ。
「こりゃ、面倒なことになるな……」
神崎はそのニュースを見て、溜息を吐くのだった。




