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影の航空機━ノベライズ━  作者: 紫 和春


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第42話 分析が進む

 ルーマン、もとい山部島から持ち帰ることに成功した物質サンプルが、ここ茨城県の国立研究開発法人総合物質研究機構(ICMR)に運び込まれる。同時に理化学研究所にもサンプルが送られ、同時に精密調査が始まった。


「課長、準備ができました」

「分かった。すぐに調査を始めてくれ」


 ICMRの技術開発部門材料解析ソリューション課の課長が、指示を下す。

 今回分析するのは、地上部の土壌、地下部に残存していた機体の外板、そして大量の白い粉である。

 土壌を解析する班が、グローブボックスに入れられた土壌の試料を触ってみる。


「見た目は黒く、指で触った感じは通常の土壌と相違はないように思える」

「現地での簡易調査の通り、放射線や有毒なガスは発生していないようです」

「しかし光化学反応による化学反応の可能性があります。慎重に分析すべきです」

「もちろん、安全が第一優先だ」


 試料の一部を水に溶かし、その溶液をミリグラム単位で複数のミクロチューブに分けていく。

 それをさらに様々な分析にかける。


「蛍光X線分析では、金属物質の量が多く出ているように見えますね。鉄、マグネシウム、タングステン……。イリジウムも検出しています」

「土壌からは生物由来の痕跡は見当たりません」

「通常の土と比べて、金属の量が多い。これが原因で黒く見えているのか?」


 三つの解析班を指揮下に置く主任が、そのように推察する。

 外板の解析班から情報が上がってきた。


「機体に使われている金属の組成は、おおむね戦時中に使われていた超々ジュラルミンと同等ですが、金属表面に塗装するように別の金属組成が含まれていました」

「別の金属組成?」

「はい。我々の常識からすると少々おかしな部分がありまして……。タングステンとイリジウムが同時に検出されたんです」

「ふぅん……。ん?」


 その話を聞いた主任が、情報を整理するためのホワイトボードにバッと視線を向ける。


「……その組成、土壌の解析班も検出したと言っていたな」

「なんですって?」

「知りたい……。なぜ一見関係のない土壌と外板に同じような組成が見つかったのか……」

「主任、それは今後の課題です。今は人体に有害かどうか調べるのが先でしょう」

「あぁ……、そうだな。すまない」


 そういって主任をなだめた係長は、すぐに解析作業に戻る。

 そんなことをしていると、白い粉を解析していた班から報告が入った。


「白い粉状の物質ですが、一言で言えばアミノ酸とブドウ糖でした」

「アミノ酸とブドウ糖……?」

「はい。14種類のアミノ酸が検出されました」

「そうか、アミノ酸が14種類か……」

「それで、ここからが重要なのですが、未知のアミノ酸も発見されました」

「……今まで見つかったことのないアミノ酸が、見つかった?」


 報告を聞いた主任は、思わず聞き返す。


「まだ速報というか、結果が判明した段階ですので、確実なことは言えませんが……」

「ま、まぁ天然にはいろんなアミノ酸がある。これまで知られていないアミノ酸が見つかってもおかしくはないな……」


 そういって大きめの付箋にアミノ酸の情報を書き、それをホワイトボードに貼り付けた。

 そこに、主任のパソコンから通知音が鳴る。チャットが飛んできた合図だ。

 主任がチャットの内容を確認すると、理研からの第一報が届いていた。その内容を読むと、現在のICMRで報告されている試料の結果とほぼ一致していることが分かった。


「土壌と外板の話、そしてアミノ酸の結果が恐ろしいほど一致している……。これは、時間が経過すればするほど、奇妙なほどに結果が収束するに違いない……」


 そうして主任は、その内容を課長に報告する。


「土壌と外板には何かしら理由があって、金属を添加していたものと考えられます。アミノ酸やブドウ糖に関しては、まだ何も理解は得られませんが……」

「そうか、分かった。防対本への第一報はそれにしよう。第二報からは、解析で得られた数値をレポート形式で記載していくように」

「はい」


 こうして夜通しの解析が進められ、情報は逐一防対本へと送られていった。

 防対本では、文部科学省、農林水産省、環境省のそれぞれから出向してきた職員たちによって精査されていく。


「アミノ酸が検出された件、山部島に人間ないしは生物がいたって証拠じゃないですか?」


 農林水産省の職員が報告書を見て話す。


「しかし、土壌には人体に影響を及ぼす可能性があるレベルの金属が含まれている。到底生物が生きていけるような環境じゃない」


 環境省の職員が反論する。


「エネルギーの源が存在する以上、それを使った何かが存在するのは間違いないと思いますよ」


 文部科学省がそのように言う。


「ここまで情報を集めても、まだ分からないことが多い」

「その状態であの計画を動かそうとしているんですか?」

「ちょっと無茶な気はしますけどねぇ」


 そういって防対本の部屋の隅で行われている会議の様子を見る。

 防衛省の制服組と内閣府の参事官の数名で行われている会議。そこで使われているホワイトボードには、「信濃計画」の文字と要点が書かれていた。

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