第41話 島の状態
上陸作戦とも言える田子作戦は、その2日後に正式に作戦目標を達成したと防衛省と防対本の共同会見で発表される。
それから幾ばくかの日々が経過した7月20日。ルーマンで港湾設備の構築作業が仮完成した。これによってにほんばれ型輸送艦程度の艦船が1隻接岸できるようになった。
それから間を置かずに、ルーマンの内部に関する情報が公表される。もちろん大半は黒塗り状態でお出しされたが、それでも現代社会に大きな影響を与えたのは間違いなかった。
「はぁ、地下に巨大な空間が……」
神崎は自分の職権を利用して見られる場所まで内容を覗き見る。とはいっても、記者会見で配布されたプレスリリース以上の情報は降ってこなかったが。
「主に地上部と地下部に構造が分かれている。ここまでは事前の情報で得ていた部分だが……」
「おう、何パソコンとにらめっこしてるんだ?」
神崎がパソコンを見ているところに、中里が庶務室に入ってきた。
「ルーマンの情報について、知れる所は知っておこうと思いまして」
「そうかい。んじゃこれやるわ」
そういってフラットファイルを投げて寄越してくる。
「これは……?」
少々姿勢を崩しながら受け取った神崎は、ファイルの表題を見る。そこには「国際識別名ルーマンの詳細情報」と書かれていた。一緒にマルの中に「機」とある。
「これ、機密情報じゃ……」
「安心しろ、おおよそ黒塗りだ」
中里からそのように言われ、神崎は数ページほどめくって見てみる。
なるほど、確かに黒塗りにされている部分は存在するだろう。しかし、その数は明らかに少ないように見える。
「……本当に読んでいいんですか? もし足立司令にバレたら懲戒食らうことも……」
「あー、まぁ大丈夫だろ」
「テキトー……」
しかし、好奇心には勝てない。神崎は喉から心臓が出てきそうな感覚を抑え込みながら、ファイルのページをめくる。
最初にこのファイルの概要が書かれていた。
『国際識別名ルーマン(日本名:山部島)は、滑走路と管制塔及び簡易なハンガーを有する地上部と、格納庫の機能を有する地下部によって構成されている。地上部には上記のほか、残骸となった対空火器が複数発見されている。先の田子作戦時に対空火器による攻撃があったことから、これらが攻撃していたと考えられる。一方、地下部には地上部に匹敵する面積を持つ空間が存在する。空間の高さは平均10mで、十分な収容能力を持っていると言えるだろう。それを裏付けるように、地下部には破損したレシプロ航空機がいくつか散乱していることが調査で判明している。ここに国籍不明勢力が使用している機体が格納されていたのだろう。地上部に通じている航空機用エレベータも発見されている。また、地下部中心部にはさらに地下が存在し、探索の結果から、ルーマンを移動させるための艦橋に相当するものと推定されている。現状、これらを使用していた軍人及びそれに相当する人間の痕跡は見つかっていない』
それなりに文章として書いてあるが、要するにルーマンは「滑走路と地下格納庫を有した超巨大な空母」と解釈することができるのだ。
「これ、とんでもないものを拿捕したのでは……?」
「まぁ、解釈としてはそうなる」
神崎の絞りだしたような言葉に、中里は平然と答える。しかもいつものように、椅子にひっくり返るように座ってタブレットを眺めていた。
神崎はページをめくって、調査内容の速報を見る。
『地上部の土は黒く着色されているようで、人体に害はないと考えられている。科学調査班による現地での調査では、検査地点全てで化学的な劇物は検出されなかった。また、放射線の値は全地点で正常値を示していた。その他、地下部には大量の粉状の白い物質が存在しており、現在はそれの調査分析を行っている。現地での簡易検査では劇物などは検出されなかった。この白い物質の総量は、少なく見積もって50トンはあると思われる』
現時点では不明な部分が多い。
だが、分かることはある。
「正直日本が持つには有り余る島だ……」
「そうだな。俺もそう思うぞ」
そんなことを言いながら、中里が椅子から立ち上がって神崎のそばに来る。
「それをよく現しているのがこのニュースだな」
そういってタブレットを見せてくる。
そこには、一般的なニュースサイトの記事が表示されていた。
『中露、日本に対し人工島の完全破壊を要請』
「これは……」
「ルーマン──日本名では山部島の潜在能力は、現代航空機を運用できる超巨大空母だ。そんなものが中国やロシア沿岸に移動してきたら、正直恐怖でしかないな」
「しかし……、こんなデカブツ、我が国では使いようがないですよ……」
「日本が運用するなら、な」
中里が意味深に言葉を紡ぐ。その意味を、神崎は察した。
「日米共同運用……!」
「そうだ。これだけの滑走路、地下部に広がる格納庫を持った移動できる島。まさに先の大戦で軍令部が夢見た最強無敵な不沈空母の完成だ」
「少なくとも、本土からはなれた場所にいるだけでもその存在意義は大きい……。そりゃ中露も文句を言ってくるわけだ」
納得する神崎の手から、中里はタブレットを取り戻す。
「これでお前もあの島のことが分かっただろ?」
「まぁ、分かりましたけど……」
「これでお前も共犯者だ。その秘密、どこまで仕舞っておけるだろうな?」
そういって中里は悪い顔をしながらこちらに振り向く。
「ぐっ……。最初からそれが目的だったんですか……」
神崎は一言でも言い返したかったが、何も言葉が思いつかなかった。
「はぁ……。世知辛い世の中だなぁ……」
そういって力なく椅子に座るしかなかった。




