⑨ 地底世界で追跡
「そう言えば奥方は、何というお名前なのかしら?」
地底世界への出口が見えて来たころ、雪子が思い出したように尋ねた。
「春日姫と申す。一緒に捜して下さるのか?」
赤い空の異世界に出た甲賀三郎は、心細そうにしていた。
「ええ、まあ、私、暇だから。それに発信機も有るしね。」
「ハッシンキ?」
「ああ、気にしないで。ちょっとした魔術…じゃなかった、忍術みたいなもよ。」
「おお、貴殿は、忍びの者であったか?」
「まあね。そんなところかしら。このリングで、天狗の居所は大体判るのよ。」
そう言いながら、雪子はリングからホログラムの地図を出す。
「…見て。そんなに遠くには行ってないわ。追いかけましょう。」
「おお、大した術だな、ソレは。有り難い事だ、助かる。」
「どういたしまして。」
やがて、行く手に野原が見えて来た。どうやらこの辺りは、トカゲの女王の魔の手が及んでいなかったらしく、その色は赤い。
次に池の前を通り過ぎた。やはり水面が赤い。
さらに小さな教会を見ながら進む。壁も屋根も赤い。コレがこの世界の本来の色なのだろう。
最後に、赤い竹林の中を通り過ぎた所に、ちょっとした御殿とでも言えそうな、見ようによっては寺社のようでもある建物が有った。
発信機の信号は、その中を示していた。
「ここに居るわ。行きましょう。」
雪子は甲賀三郎を促して、門をくぐり抜けた。
二人で邸内を探索しているうちに、中程の大広間で、春日姫が一心に御経を読んで居るのを見つけた。
甲賀三郎は、一目散に彼女のところに駆け寄り、もう離すまいと、しっかりと抱きしめた。
「姫よ、迎えが遅くなって済まない!大丈夫か?乱暴な事はされてないか?」
「ああ、三郎様。大丈夫です。今、天狗は席を外していますが、夜になったら、可愛がってやると言っていました。早く私を連れて逃げて下さい。」
「それがイイわね。私は天狗を捜すから、あなたたちは先に、さっきの穴の入り口に行って、待っていて。」
雪子に言われて、夫婦は二人揃ってお礼を言いながら、その場を後にした。
二人を見送った後、雪子は更に奥の間に進んだ。
中庭まで出ると、そこは露天風呂になっており、件の天狗殿が、のんびりと真っ赤な湯に浸かって居た。
「あらあら、呑気なものね?」
突然背後から雪子に声を掛けられ、真っ赤な天狗は、全裸のまま、慌てて湯舟の真ん中で立ち上がって、彼女の方を向いた。




