⑩ 露天風呂の問答
「誰だ、貴様は!?ヒトの家の中に勝手に上がり込んで、何のつもりだ!」
天狗は、怒りと恥ずかしさで、ますます真っ赤になって、雪子にそう言った。
「あら、他人の妻を盗み出した貴方に、そんな事を言う資格が有るのかしら?…もう私が、逃したけどね。」
「…何だと!?」
「一応、名乗っておくわ。私は真田雪子。暇を持て余した超時空の魔女よ。貴方は…見たところ、ハグレ鳥族ってところかしら?」
「いかにもワシは鳥族の者だ。以前仲間と共に、ニンゲンの世界を調査中に、ワシだけ、この地下世界に迷い込んでしまったのだ。」
「それは…少し同情出来る話ね?」
「…以来、色々な洞窟を見つけて、中に入ってみたのだが、二度と仲間に会う事は出来なかったのだ。」
「あら、可哀想に。それで寂しくて、気に入ったニンゲンの女性を、誘拐したのかしら?」
「…まあ、大体そんなところだ。」
「ふざけるんじゃないわよ!そんな事が赦されると、本気で思ってるの?地下世界のニンゲンたちとでも、お友だちになりなさいよ!」
「彼等は純朴でイイ奴らだが、"教養"が足りない。何と言うか…退屈なのだよ。」
「贅沢な悩みだこと。貴方たちお得意の、"教育"ってヤツを、施せばイイじゃないの?」
「もちろん、やってみたさ。でも全然ダメだった。多分、ナニか地上のニンゲンと、根本的に違うんだよ。」
「ああ、ソレは多分…彼等がネアンデルタール人由来だからよ。」
「なん…だと?」
「貴方、気づかなかったの?もう、見るからに、骨格から違ってたでしょ?多分、太古の昔に、彼等は絶滅を逃れて、地下世界にやって来たのでしょうね。そして地上のニンゲンと違って、無意味な攻撃欲や征服欲が無い彼等は、この地下世界で、長い間、静かに暮らしてきたのよ。」
「そう…だったのか。」
「あのトカゲの女王や、貴方がやって来るまでは、さぞや平和だったでしょうに…。」
「う〜ん…。」
「まあ、貴方も災難だったわね。この地下世界に長く居たせいで、そんな真っ赤な肌色になってしまったのでしょう?」
「ああ、そうだとも。それどころか、鼻の形までこんな事に…。」
天狗は、自分の長い鼻を、忌々しそうにさすった。
「私、こう見えても、鳥族の遠い親戚みたいなモノなのよ。だから貴方が、二度とニンゲンに悪さをしないと約束できるのなら、同族のよしみで、仲間のところに連れて行ってあげてもイイわよ?」
「ほ、本当なのか、ソレは!?」
「ええ勿論。サン・ジェルマンの名に賭けてね。」




