⑦ 後日談からの
史実によると、地底世界から逃げ出した姉弟は、姉は普通の顔色になって行き延び、結婚までしたようだったが、弟の方は、生の豆以外は食べられずに、すぐに死んでしまった事になっている。
たぶん幼いカラダには、改造手術の悪影響が大きかったのだろう。まったく、仮面ライダーを改造人間にした、"秘密結社ショッカー"だって、そんな残酷な事はしないわ。雪子は、そんな事を考えながら、坑道を歩いた。
一仕事片付けて、気を抜いて居たのだろうか?途中で、左腕のリングからアラート音が鳴った気がしたが、雪子はうっかりチェックを怠ってしまった。
坑道は僅かに上に傾斜して行き、気のせいか、少し狭くなって来た。そして出口の明かりが見えて来たのだが、その時点で、ふと、彼女はリングの示す座標を確認したのだった。
西暦1350年4月20日
時刻10時30分
北緯36度05分
東経138度18分
それが示す座標は、地下世界ではなく、別の地上、それも日本の蓼科山辺りであった。
「途中で道を間違えたのね。いいわ、ついでに調査しましょう。」雪子は、そんな風に呟きながら更に進む。
するととうとう最後には、坑道が垂直になった。
彼女はチカラを使って、最後の道程を上がって行く。そして出た先は、何処かの山麓の森の中。楠の木の根本にできた穴だった。
「これじゃあ、まるで、"となりのトトロ"ね。」
彼女がそんな独り言を呟いた時、近くにナニかの気配を感じたので、取り敢えず木陰に隠れた。やはり極力、過去に影響は残したくないのである。
そこに現れたのは山伏の服装の者だったが、顔色は赤く、鼻が大きい。そして背中から翼を生やした…いわゆる"天狗"だった。さらに見逃せない事には、身分の高そうな、器量の良い娘を、小脇に抱えている。
どう見ても怪しいので、その天狗の背中に、雪子は取り敢えず、蚤型発信機を投げつけた。ソレは以前、妹の由理子が付けられていたモノを、改良した一品だった。
こんな時のためにと、雪子が、サン・ジェルマンから預かっていたのだ。まったく彼は抜かり無い男である。
天狗は辺りを見回すと、サッと、先程の穴に飛び込んでしまった。雪子は、すぐに助けに行く事を、一瞬、躊躇した。下手な人助けのせいで、歴史が変わってしまう事もあるのだ。慎重に考えないと…。
するとすぐに、天狗を追跡して来たらしき者が現れた。
彼女は、取り敢えず彼に声をかけて見た。
「あのう、どうかなさいましたか?」
当然日本語である。
彼は突然、山中で若い女から声をかけれ、少しばかり驚いて居たが、自分の緊急の案件を優先した。
「拙者、近江の国の武者、甲賀三郎と申す者。実は先日、伊吹山で我が妻が天狗にさらわれ、長い道中追いかけて来たところ、この近くで見失ってしまったのでござる。」
その伝承なら、雪子も知っていた。コレは助けてもイイ案件だ。彼女はすぐにそう判断した。




