㉙ 黒いビートル
数日後、雪子から話を聞いたサン・ジェルマンが、黒いビートルに乗って、照和の真田研究所の中庭にやって来た。
それは、かねてからの約束通り、そこで待って居たカグヤ・イシュタルと成雪を、ピックアップするためだった。
因みに助手席には村田京子も乗っていた。
「そんな面白そうな場所、一緒に行くに決まっているじゃないの。」
という感じでついて来たのである。
彼は二人を後部座席に乗せると、通常のナビゲーションモードを使ってビートルを飛ばし、一路、南極点を目指した。
この時空の南極点には、やはり例のポータルが無事に残っていた。すると、ここのナチスの残党は、一体どうなったのか?そんな疑問を感じながら、伯爵はビートルで穴の中を進む。
やがて穴の出口に辿り着くと、ウワサ通り、小さな人工太陽が輝く空はピンク色で、大地の植物は皆、赤味がかって見えた。
前持って聞いておいた雪子のアドバイスに従い、伯爵は、帰る時に迷わないように、穴の出口にマーカーを付けておいた。
「素敵。まるで一日中、夕焼けみたいな空間ね?」
京子が早速感想を述べた。
「あの太陽光線は、赤外線多めになっているらしいですよ。」
サン・ジェルマンが解説を入れる。
「あっちの畑で作業している、筋肉多めの男たちが、ネアンデルタール人由来の方々ですね?」
成雪が尋ねる。
「そうです。そしてコチラを歩いている方たちが、恐らくは、モヘンジョダロの生き残りの末裔でしょう。」
そう伯爵が指摘した人物たちは、確かに、地上のニンゲンと変わりなく思えた。
やがてクルマは、金鉱山の前を通りがかった。
「あっ、爬虫類族たちだわ!」
カグヤが思わず、後部座席で身構える。
彼等は、ハンマーやツルハシを手に手に持って、作業に向うところのようだった。
「ここの一族は、ゴールドの取引を生業にして、皆穏やかに暮らしているようですよ。だからそんなに用心しなくても、大丈夫。」
カグヤは、そんなサン・ジェルマンの言葉に、少しは安堵したが、いつもクセで、どうしても敵視してしまう。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、伯爵はそこでクルマを停めると、運転席の窓を下げて、外の人物に声を掛けた。
「ウアジェト女王とお見受けしますが?」
するとその人物…もちろん爬虫類族だが…が振り向いた。
コブラのような形の頭に、金色の瞳。じっと見つめられると、その眼に吸い込まれてしまいそうだ。ビートルの後部座席から、彼女を見た成雪は、そんな印象を持ったのだった。




