㉘ 女王の呟き
「…彼女は、気づいてしまったかな?」
ふと、爬虫類族の女王、ウアジェトが呟いた。
ここは、彼女の居城の中の喫茶室だ。
「あの真田雪子というニンゲンは、中々鋭い洞察力を持っていますからねえ。」
隣の席でレモンティーを飲みながら、犬王アヌビスもそう言った。
「それは、この一見ただの地下世界にしか見えない場所が、様々な並行世界につながる、ハブというか…ジャンクションになっているっていう事実ね?」
犬王の隣で、猫王子の正妻のバステトが、ホットミルクをフーフー冷ましながら言った。
「そもそもあなた方が、私に相談もせずに、次から次に、穴の護り主の大蛇を殺してしまうから、こんな事に…。」
「ああ、それはもう、本当にごめんなさい。最初の出会い方が不味かったのよ。だって、問答無用で襲って来るからつい…ねえ?」
猫正妻が犬王を見る。
「いやあ、僕に言われても…いつもバステト嬢が、あっと言う間に片付けてしまうから。」
困る犬王。
「少し後になって、この城の調査をしたら、貴女の一族が居たじゃない?私たちにとって、話の分かる爬虫類族なんて、珍しいから…とにかく申し訳無かったわ。」
再度、謝罪の言葉を述べるバステト。
「まあ、終わった事は仕方有りません。それより今後、この空間の管理をどうして行くのかです。」
前向きな姿勢を見せるウアジェト。
「もちろん、我々猫族と犬族とで、全面的にサポートして行きますわ。そうよねえ、アヌビス君?」
「えっ、ああ、無論です。お任せ下さい。」
胸を張るアヌビス。
「是非、そうして下さい。ネアンデルタール人たちは、ああ見えて、武闘派ではないのです。」
「…あんなに立派な筋肉を持っているのに?」
当然の疑問を抱く犬王。
「あの筋肉は、狩りをするためだけのモノ。この世界では、それも必要有りませんから…。」
爬虫類族の女王は、そう言って笑った。
(中々魅力的な笑顔だな。)
惚れっぽい犬王は、つい思ってしまう。
「…それに、例のサン・ジェルマンズも、管理に協力するって言ってたわよ。」
バステトが付け加えた。
「あのサン・ジェルマンズが…それは心強いですね。」
ウアジェトがそう言う。
まるで正義のヒーローのように、どこまでも名声が轟く彼等である。
「ご馳走様。じゃあ、そろそろ行くわね?」
お暇の挨拶をするバステト嬢。
「もちろん今の件は、超時空犬猫会議の議題に出します。そこで承認されて、正式に取り組む案件となりますので…。」
最後に犬王がそう言った。
「了解したわ。政治家は大変ね?」
ウアジェトは気の毒そうにそう言って、帰って行く二人を見送ったのだった。




