㉖ 焼け野原
そこは約4000年前の、モヘンジョダロだった。
シンド語で"死者の丘"を意味するその場所は、今まさに、その名の示す通りの有様であった。
辺りに吹き荒ぶ熱風と、異常な値を示す放射線量。
ここに来る前に、雪子が"電磁防壁を解除しないように"と言った意味が、良く解った。
何の防御も無くこの場所に立つ事は、即ち死を意味する。実際、この近くに生きている者を見つける事は、不可能に思えた。
成雪が、そんな事をつらつら考えていると、目の前に雪子が現れた。
「どう、ご感想は?あんまり楽しいモノじゃないでしょ?」
「雪子さん、コレは一体…?」
成雪は途方に暮れているように見えた。
「コレが神々と魔族たちの、戦場の成れの果てよ。」
代わりにカグヤが答えた。
「そういう伝説よね?」
雪子も短い言葉で同意する。
「でも多分、神々とは鳥族、魔族とは爬虫類族…特にアラハバキの事なのよ。」
「やはり、マハーバーラタもラーマーヤナも、ニンゲンの王族同士が、神と悪魔の代理戦争をやらされた物語なんですね?」
カグヤが自分の推察を述べる。
「そうね。少なくとも、私が見た限りではね?」
雪子がカミングアウトした。
「…やはり、ご覧になったんですね?」
「ほんの少しだけね。原爆や水爆が飛び交う中に、危なくて長時間居られなかたわ。」
「…それが3周目の文明?」
成雪が訊く。
「まあ、3.5周目ってところかしら。ロストテクノロジーはたくさん有るけど、絶滅はしてないから…。」
雪子が答えた。
「ロストテクノロジー?」
「…そうよ。例えばアレとか。」
そう言って雪子が指差した先には、鈍く光る金属製の、大きな寺院のようなモノが有った。
「まさかアレは…ヴィマナですか?」
「そうよ。多分、撃墜されたまま、あそこに放置されたのね。あのまま誰にも気づかれずに、将来、寺院として使われるのかも…。」
「アレが…水銀をエネルギー源にして、推進力を得たという、空飛ぶ宮殿…。」
成雪は、感慨ひとしおといった様子だった。
「出来れば貴方には、こんな人類の負の遺産なんかより、素敵な歴史から学んで欲しいのだけど…。」
雪子が言う。
「いえ、いえ。失敗から学ぶ事も、たくさん有りますから。」
成雪は笑顔でそう言った。
「鳥族の中には、きっと私の仲間も居たのでしょうね?」
カグヤはそう言った。
(多分、貴女自身もね?)
雪子はそう思ったが、黙って居た。




