㉔ 伯爵と京子
しばらくすると、サン・ジェルマンが、村田京子を伴って戻って来た。
彼女専用の黄色いビートルを、雪子に貸した埋め合わせに、歴史調査を兼ねて、二人でデートして来たらしい。
「ただいまあ。あら、雪子さん。もう帰ってたのね?」
幸いな事に、京子の機嫌は良いようだ。
「お帰りなさい。京子さん、伯爵。ビートルの貸し出しありがとう。そちらのフーファイターの調査は、如何でしたか?」
「ざっくり言うと、色々でしたよ。明らかに地球外からのモノも有れば、タイムマシンらしきモノも有りました。私の技術が流出したのか、他の由来かは分かりませんがね?」
伯爵が答えた。
「やっぱりそうなんですね?」
そう言ったのは鷹志だった。
「…それに、やけに洗練された光学迷彩と、電磁防壁を備えた機体も有ったので、ひょっとすると、遠い未来からの歴史観光かもしれません。」
「成る程ね。因みに、私の見つけたバルト海のアレは…ナチスの円盤だったわ。操縦席にミイラまで居たけど、歴史に影響しないように、敢えてそのまま海底に放置して来たわよ?」
雪子が付け加えた。
「お疲れ様です。そうでしたか…。」
伯爵は少し考えて言った。
「…じゃあ、きっとそちらの線が濃厚ですね。」
「やっぱり近い将来アレを、何処かの大国がサルベージして、その技術を流用するのよね?」
雪子が言った。
「何処までも影響しますね、アラハバキ…。」
鷹志が言った。
「まあ、未来の誰かさんが、せいぜいお行儀良く、歴史観光してくれるように、私たちは祈りましょうか?」
最後に京子がそう言った。
それで一応、この大戦中のフーファイターの件は、一段落となった。
雪子は連続での調査だったので、自分の"照和の時間軸"に戻って、休憩する事にした。
(研究所に置いて来た、カグヤと成雪の事も気になるしね。)
特に、成雪の成長ぶりが著しいので、油断出来ない。
何かのきっかけで、もしも彼が、クローン元の雪村のようになったらと思うと、雪子は内心穏やかでは居られなかった。サン・ジェルマンは大丈夫だと言っていたが…。
彼女は、名鉄瀬戸線で栄から大曽根まで行き、そこから志段味地区に出るバスに乗った。
(たまにはこんな、クラッシックな手段で帰宅するのも、イイわよね。)
車窓から街の灯りを眺めながら、そんな事をボンヤリ考えている内に、彼女は森林公園裏の真田研究所に戻って来た。
そして雪子は早速、地下3階に降りると、生命維持装置に入り、自らの精神体を、"昭和"から"照和"の時間軸に飛ばしたのである。




