⑱ 地球由来の者
「ようこそ。サン・ジェルマンの遣いの者よ。」
その女は言った。
「我が名は女王ウアジェト。この地下世界のマスターをしている。一族が武装解除をしてここで暮らす事を、100年前にサン・ジェルマンズに言い渡された者である。」
「この私に対して、下手な変装は無意味よ。貴女は…隕石の直撃による絶滅を免れた、爬虫類族の生き残りなのね…って、ちょっと待って?今、サン・ジェルマンズって…複数形?しかも100年前ですって?」
後半の情報に関しては、雪子にとって予想外の事だった。
あの恐竜絶滅期に、生き残りの、霊長類レベルの爬虫類が居たに違いないと、彼女は前々から睨んでいた。そして、彼等が好んで北欧人に化ける事も。しかし、サン・ジェルマンが複数人で、こんな地下にまで進出していたとは…。
「…雪子とやら。そなたは、ノアの方舟の伝説を知っておるかな?」
「ええ、まあ…でもソレはニンゲンが主人公で…地上の洪水の話よね?」
「アレと同じ事が、6500万年ほど前に、直径10kmの隕石落下による津波で、起こっていたのだ。」
「…。」
「登場、高度な文明レベルを誇っていた我々は、その予測はできたが、残念ながら、防ぐ事は叶わなかった。」
「そう…なんだ。」
(やっぱりかつて雪村が、惑星ニビルにやった事は、規格外よね。)雪子は改めてそう思った。
「だから我々は、限られた動物と植物を積んで、地下世界に避難出来る乗り物を作った。」
「ソレで、みんなで避難して来たのね?」
「ああ、南極点のポータルを使ってな。」
(ああ、それ、後で私が潰したヤツだ。)
雪子はすぐに思い当たったが、黙っていた。
「地下世界に、ちょうど良いスペースを見つけた我々は、地球の核由来の放射線と地熱を利用して、人工太陽を造りあげ…。」
(トンデモない科学力ね。確かに武器を持たせたら、厄介な事になりそうだわ。)彼女の話を聞きながら、雪子はそう思った。
「…長年に渡る、ここでの生活にも満足していたので、そんな気はサラサラ無かったのだが、100年前に、あの11名のサン・ジェルマンたちがやって来て、言ったのだ。」
「…一体、何を言われたの?」
「現在、地上では、ニンゲンたちが覇権を握って繁栄しているので、ソレを覆すような事は、くれぐれも遠慮するようにと。」
「ああ…それは、また、勝手な事を言って、ゴメンなさいね?私が謝る事じゃないけど…。」
「まったくだ。過去に我々は、彼等の同胞の先祖たちを、保護してやったというのに…。」
(それがあの、ネアンデルタール人の成れの果てね。)
雪子はそう推測した。




