⑰ 懐かしの穴
雪子が少し歩くと、例の穴が有った木の根本に辿り着いた。しかしそれは、普通のニンゲンの力では、ちょっとやそっとでは動そうにない、大きな岩で塞がれていたのだ。
「ま、想定内の状況ね。あんな危ない穴、塞がない方がオカシイわ。」
雪子はそんな事を呟きながら、さり気なく辺りを見回す。(うん、誰も見てないわね。)確認した彼女は、おもむろにチカラを使って、その場から岩を退かした。
岩の向こうに穴は確かに有った。
雪子は躊躇う事無く、浮遊しながら、その縦穴を降下して行ったのだった。
横穴に変化してからしばらく歩くと、懐かしの地下世界に出た。彼女は、帰りに迷わないように、今回は穴の縁に、赤外線マーカーを付けておいた。
それは一見ただの小石だが、センサーを通すと光って見える優れモノであった。
振り返ると、空はピンク色で草原は赤い。
あれから長い時間が経過している。
さすがにトカゲの女王の影響は、消えたようだった。
雪子はあの時、実は少し気になるモノを見かけていたのだ。
ソレは少し離れた山の上にそびえ立つ、中世ヨーロッパ風の城だった。ただし、建材はどう見てもクリスタルという、些かオーバーテクノロジーなモノであった。
色々忙しかったし、本来の目的に関係なさそうだったので、あの時は調査せずにスルーしたのだが、気になる場所だったのだ。
彼女は、ホップス・テップ・ジャンプのタイミングで、空を跳ぶ事を繰り返す、何時ものやり方で、その場所を目指した。
程無くして、件の城門前に辿り着くと、雪子は、ヘブライ語を使って大声を張るという、正攻法に出た。
「頼もう!我が名は、真田雪子。サン・ジェルマン伯爵の命により、地上世界から調査のために参りました。」
すると巨大な城門が、外側に向かって、自動的に左右に開いたのだ。
「言ってみるものね…。」
呟きながら彼女は城内に入って行った。
中に進むと、既に建物本体の扉も開けられていた。
雪子は遠慮せず、奥へ奥へと行く。内部も全てクリスタルのように、透明かつ輝いていた。
やがて、とある部屋の前に辿り着いた。
その扉も自動的に開いた。
見た目はアンティークだが、各システムは随分近代的なようだった。
部屋に入ると一番奥に、これまたクリスタルで出来た、玉座のようなモノが鎮座していた。どうやらココが、謁見の間という事なのだろう。
そして、そこに座って待ち構えていたのは、高貴な身なりをした、高身長で金髪の、一見北欧系の女性だった。
実はそれも、雪子にとっては、ある程度想定内の出会いだったのだ。




