⑭ 今度こそ帰還
「…なんてね?いやだなあ、冗談よ、冗談!」
黒猫は笑顔になったが、眼は笑っていなかった。
「じゃあ、一緒にいらっしゃい、天狗殿。」
バステト嬢に呼ばれた彼は、恐る恐る彼女の後について行った。春日姫を誘拐した時とはまるで別人のように、今や彼はすっかり萎縮していた。
多分、これまでに、この地下世界で、散々彼女の恐ろしさを見せつけられて来たのだろう。雪子はそんな推測をした。
何はともあれ、コレで肩の荷が降りた訳である。
無事に一人に戻った雪子は、犬王に見送られながら、黒猫に教えられた穴に、入って行ったのだった。
どうやら出口は間違いなく、元の英国の田舎のようだった。馬車に擬装したビートルも見つけたので、早速中に乗り込んだ。
あの姉弟も今頃は、リチャード・デ・カルン卿という名の、村の実力者の元に保護されている事だろう。
怪しいアラハバキは退治した事だし、今回はこれくらいで、一旦本部のテレビ塔に帰るとしよう。
雪子はそう考え、帰路のための座標を、フロントコンソールパネルに打ち込んだ。
やがて、彼女がテレビ塔に戻ると、亜空間レストランは、賑やかな雰囲気になっていた。
例によって猫王子のミケーネが、由理子のところに遊びに来ていたのだ。そこに、杉浦鷹志とサン・ジェルマンも加わって、なにやら談笑していたのだった。
「ただいま。なんだ、みんな来てたのね?」
「ああ、雪子さん、お疲れ様です。首尾は如何でしたか?やはりアラハバキの残党は居ましたか?」
サン・ジェルマンが、労いの言葉を掛けた。
「ええ、それはもう…だからしっかり懲らしめておいたわ。それにハグレ鳥族にも出会ったし、地下世界で色々と面白いモノを見たわよ。」
「へえ、地下世界か。行ってみたいなあ。」
そう言ったのは、鷹志だった。
「いや、地下世界は…まずいな。」
そう言ったのは、ミケーネだった。
「えっ、どうして?面白そうじゃない。」
不思議そうに言う由理子。
「いや、まあ、色々とね…。」
言葉を濁す猫王子。
「ソレは、とても強い黒猫が居るからかしら?」
少し意地悪な顔をしてミケーネに尋ねる雪子。
「えっ、何故それを…?」
明らかに取り乱す猫王子。
と、そのタイミングで、エレベーターの扉が開いて、中から器量の良い、金色の衣装を身に付けた、黒猫が降りて来た。
「はあい、私のミケーネ。元気にしてたかしら?」
それは地下世界の勇者、バステト妃だった。
「バ、バステト!どうしてここへ?」
ミケーネはもう、ほとんどパニック状態だった。




