⑫ 地下の大蛇
「確か、この辺りだった筈なんだけど…。」
雪子はすぐに当惑する事になった。
英国から地下世界に出た時に、振り返ってしっかり見ておくべきだった。
何故なら、似たような穴が、そこら中に開いているのだ。そうか。だから天狗殿は、帰れなくなったのか。
彼女の左腕のリングは、穴の中に入って少し進まないと、座標を表示しない。
だから彼女は取り敢えず、見当をつけた穴から、入って試すしかなかった。
「ちょっと、中の様子を確かめて来るから、ココに居てね。」
天狗殿を入り口前で待たせて、彼女は穴に入った。
少し進んだ時、行く手の暗がりから、ナニやら激しい息遣いの者が、次第にコチラへ近づいて来るのが分かった。
雪子は一瞬、身構えたが、すぐに警戒を解いた。
何故なら、奥からコチラへ走って来たのは、洒落たジャンプスーツを着た、麻呂眉・黒毛の、柴犬だったからだ。
ソレは紛れも無く、犬王アヌビスだった。
「あら、アヌビス君じゃない。奇遇ね。何してるの、こんな所で?」
雪子に尋ねられた彼は、ソレどころではないという顔で、逃げて来た後方を指差した。
「…えっ?」
雪子でなければ、危ないところだった。
彼女はチカラを使って、一瞬で穴の入り口まで後退したから間に合った。
奥から出て来たのは、穴の直径とほぼ同じ太さの、巨大なヘビだったのだ。
コイツも爬虫類族のハグレ者か。
さあコイツめ、どう料理してやろうか…などと雪子が考えていた時だった。
「そこ、邪魔よ。退きなさい!」
上空から、美しいソプラノの声がそう言ったのだ。
雪子が振り返ると、赤い空を背景に、黄金の鎧に身を固めた、艷やかな毛並みの黒猫が、空中に浮かんで居た。
そして彼女は、大きなカマを振りかぶると、飛び降りなら、一気にソレで大蛇の首に斬りつけた。
カマの切れ味は抜群だった。直径2mはあろうかという大蛇の首が、あっという間に、切り落とされてしまったのだった。
彼女はすかさず右の掌から炎を出して、大蛇の首を灰にしてしまった。
ココまで、ほぼ一瞬の出来事であった。
それは実に洗練された闘い方で、まさに電光石火の早業だった。
「…見事な手際ね。」雪子は思わず呟いた。
「貴女、誰?見かけない顔ね。迷い込んでしまった地上のニンゲンかしら?そっちに居るのは…天狗殿ね。」
「彼女は、怪しい者ではありません。むしろ我々の味方です、バステト嬢。」
何故かアヌビス王が、代わりに答えた。




