第08話_かすり傷
あれからダグたちは、また北の森に通っている。
受けるのは二つ目の分かれ道までの小さな仕事ばかりだ。その日も、昼の客がまだ残っている頃に帰ってきた。
先頭のダグがまっすぐカウンターまで来て、俺の目の前に腕を突き出した。
「マスター! 聞いてくれよ、ミアのやつがよお、俺が怪我してんのに、治してくんねえんだぜ!」
肘の上に、赤い線がついていた。どうみてもかすり傷だ。
「相手はゴブリンか?」
「ゴブリンだよ! でもゴブリンのことよりミアの話だよ!」
「ミアがどうしたって?」
「あ、その傷ですか? 大丈夫です。そのくらいツバでもつけとけば治ります!」
ダグの後ろで、ミアはもう椅子にすわっていた。。
「ツバって、お前、神官だろ!?」
「はい、神官です」
「前は頼まなくても治してくれたじゃねえか!」
「前と今は違います」
ヒューゴが杖を立てかけて、楽しそうに座った。
「ほっほっほ、ヒーラーの判断に従わないといけませんなぁ」
「おっさんは黙っててくれよ! なあマスター、痛えんだよ、これ」
「知らん」
「わーん!」
ダグは自分の腕を見て、俺を見て、ミアを見た。
それから、腕をなめた。
「……しょっぱい」
俺は鍋の蓋を取った。今日の具は鶏と芋だ。
◇
ダグは腹いっぱい食って、カウンターに銅貨を置いた。
「なんだ、これ」
「今日の飯代だよ」
「ツケじゃないのか」
「傷薬の分を取っといたら、余った」
俺は帳簿を開いた。ダグの欄はツケで埋まっていて、銅貨を書く場所がない。
仕方がないので、余白に書いた。
「ダグ。これじゃ足りねえぞ」
「え」
「お前、どれだけ食ったと思ってんだ」
「……そう、ツケで」
「またかよ」
ダグは笑って、盾を担いだ。扉のところで振り向いた。
「なぁマスター。俺ら、いいパーティになれっかな?」
「さぁな」
「なんだよ、それ」
ダグは盾を担ぎ直して、扉に手をかけた。
そこで止まって、肘の上を見た。指でこすって、もう一度見た。
「腕、、、治ってる」
ミアを見ると、スプーンを持ったまま、いたずらっぽく笑っていた。
一章はここまで




