天才美少女にも悩みはある
11月下旬、体に突き刺さるような寒さに震えながら、俺と海歌は東京の住宅街を歩いた。
「寒い、マジで寒い……」
寒さを口実に、海歌は俺に身を寄せて、俺のマフラーを一緒に巻いた。
今日は空音の家に招待されている。
俺も海歌も、空音の家に遊びに行くのは初めてだ。
果たして、「超」がつくほどのお金持ちと噂される《《空音お嬢様》》の実家とは、一体どんな豪邸なのだろうか。
「着いた。ここだな」
地図アプリを確認しながら、空音に教えてもらった住所に到着した。
「え、ここが本当に空ちゃんの実家で合ってる?」
「間違いないよ。表札に『道山――DOUZAN』って書いてある」
都内の住宅地のど真ん中、3階建てで、白い外壁と紺色の屋根が特徴的な豪邸があった。
黒の高級外車と白のミニバン車が停まる大きなガレージが隣接していて、青い芝生の上には白いテーブルと椅子が置かれていて、それらを塀がぐるっと囲っている。
いかにも「ウチはお金持ちですよ!」と言わんばかりの佇まいだった。
「あ、陸翔くん、海ちゃん! やっほ!」
どこから、どうやって入ればいいんだ……と右往左往していたら、空音が玄関から出てきた。
彼女が何気なくボタンを押すと、西洋風で鋼鉄製の門がゆっくりと開いた。
「これ、いる?」
「お金持ちだからこそ、防犯はしっかりしないといけないんだろ、たぶん」
困惑しながらも、俺たちは空音の住まう豪邸に入った。
玄関を通り抜けると、空気がピシっと張り詰めたような気がした。
思わず、背筋が伸びてしまう。
「お、お邪魔しまーす」
「どうぞ~♪」
道山邸は、外見だけではなく、内装も豪華絢爛の限りであった。
廊下の壁のあちこちに、高そうな絵画や家族旅行の写真がかけられていて、階段の手すりには彫刻……?のようなものがある。
ホコリ一つ落ちていないキレイなフローリングの上を、自動お掃除ロボットが走り回っていた。
玄関も廊下もリビングも、何もかもが広く、大きかった。
「こんな豪邸に住んでるお嬢様が、どうして俺たちと同じ高校に……?」
「ん? 近かったからだよ!」
理由が意外と庶民的で、どこか安心した。
空音はスキップを踏みながら、ルームツアーをしてくれた。
「こっちがパパの書斎で、こっちがママの寝室。あっちの突き当りにあるのがピアノ室で、トイレは各階に一つずつね。そして~今リビングでくつろいでいるのが、ウチの母方のおじいちゃんとおばあちゃん!」
「どうも~空音のじいじです!」
「どうぞ、ゆっくりしていってくださいね~」
ソファに座ってテレビを見ていた空音の祖父母が、廊下を歩く俺たちに手を振った。
空音と同じく、二人とも陽気な感じだった。
俺は「お邪魔させてもらってます」と一言あいさつして、空音に導かれ、邸宅の2階へ。
「ここが、ウチの部屋だよ。どうぞ!」
俺と海歌は、2階の突きあたりの部屋に招かれた。
第一印象は【白】だ。
白い壁紙に白いタンス、白いカーペット、白いベッド……とにかく白い!勉強熱心だからか、整理整頓された机の上だけが少しだけくすんだ色をしていた。
そんな机の隣には、見上げるほどに大きな本棚があった。
「すごい数の本だな……しかも、ジャンルも豊富だ」
「お父様に『ゲームばっかりじゃなくて、本も読みなさい』って言われたからね。でも、ウチは本も大好きだよ」
英語の辞書や数学の教科書から始まり、分厚い聖書や哲学書、音楽史概説などなどを挟んで、ラブコメ漫画や小説、最新コスメの雑誌に『SNS映え間違いなしのお菓子作り』まで。
なるほど、このラインナップの豊富さこそ、空音が「天才」と呼ばれる所以か。
「なんか、空ちゃんがラブコメ漫画読んでるの意外だな~」
海歌は大きなぬいぐるみが並べられている白いソファに腰かけた。
そんな彼女の頭上には、天井から吊り下げられたシャンデリア風の照明がある。
「私も、こんな感じの、お姫様が住んでそうな可愛い部屋に住みたかったな……」
「海ちゃん、一緒に住む?」
「いや、やめとく。私が居たら、絶対に汚すし、絶対に散らかしちゃうから」
「空音は知らないかもしれないけど、海歌ってゴミ屋敷に住んでたんだよ」
「ええ、そうなの!?」
俺が海歌と掃除をする前の部屋の惨状を、空音は知らない……
こんな清潔で整理整頓が行き届いた部屋で過ごしてきた空音なら、きっと悲鳴を上げて気絶すること間違いなしだ。
「みんなでゲームやる? 映画もいいよ! それともお菓子食べる? 和菓子でも洋菓子でも、何でもあるよ!」
遊園地に行く少女みたいに目をキラキラさせる空音。
よっぽど俺たちと遊ぶのを楽しみにしていたようだ。
お高い紅茶と和菓子をいただきながら、大きな液晶テレビで映画鑑賞したり、広い庭で日向ぼっこしたり、高性能でオシャレな水冷式のゲーミングPCで空音のプレイを見せてもらったり……
俺たちは、なかなか味わえない非日常を満喫させてもらった。
「ねーねー、陸翔くん、海ちゃん」
「「んー?」」
俺と海歌の返事が共鳴した。
「自分で言うのはおかしいけど……ウチの家ってけっこうすごいの」
まあ、それは言われなくても分かる。
家の大きさはさることながら、空音の父親はイギリスの実業家らしいし、母親は元モデルらしい。
「だからウチって、周りにすっごく期待されながら育ってきたの。それで、勉強とか、音楽とか、恋愛とか頑張らなきゃって思って、焦って上手くいかないことがあるの……」
「ふーん。空ちゃんらしい悩みね」
海歌はソファで横になり、スマホをいじっている。
けれど一応、空音の悩みをちゃんと聞いてあげているようだ。
「周りに期待されるって、嬉しいけど、息苦しくなることもあるよな」
「よかった! 海ちゃんと陸翔くんなら共感してくれると思ってたよ!」
曇っていた空音の表情が、パッと晴れて明るくなった。
「陸翔くんと海ちゃんって、変にウチのことを上に見ないで、《《対等なお友達》》として付き合ってくれるじゃん?それが、めっちゃ嬉しいんだよね! 二人のこと見てると、勉強も大事だけど、今ある時間とか、今ある交友関係も同じぐらい大事だなって思える!」
胸の前で手をぎゅっと握る空音。
そんな空音は、海歌の腕に引き寄せられて、ソファの上で抱きしめられた。
「空ちゃんって、人間だったんだ……」
海歌はボソッと言った。
空音は「どういうこと?」と首を傾げている。
「今まで空ちゃんのこと、神様とか、天才とか、AIみたいなものだと思ってた。でも、そんなことないんだって、今の話聞いて思った」
「んんー?」
「空ちゃんも完璧なんかじゃなくて、私みたいに焦ったり、悩んだり、将来が不安になったりするんだね」
「もちろん! だって、ウチは海ちゃんとか陸翔くんと同じ人間だから!」
空音から悩みを打ち明けられるのは、もちろん、俺も海歌も初めてだった。
信頼されている感じがして、こっちまで心が温かくなった気がする。
「わひゃ!海ちゃん、くすぐったいよぉ」
「っ……はぁ、空ちゃんいい匂いする」
海歌は空音をぬいぐるみのように抱きしめて、首元やつむじの匂いを嗅いでいた。
「気負わなくて大丈夫だよ、空ちゃん。だって空ちゃんは最高に可愛くて、私なんかより逞しくて、明るくて、ポジティブだから。また悩みができたら、私でも、陸翔にでも相談して」
「海ちゃん、ありがとう~!!ウチの心の友よ、一生ついて行きます!」
仲睦まじい二人を見ていたら、俺も参戦したくなった。
「俺も混ぜろ!」
二人がいるソファに座り、二人を包み込むように抱きしめた。
俺と海歌にサンドイッチされた空音が「むぎゅー」と可愛らしい鳴き声をあげた。服と服が擦れ合い、髪と髪が触れ合う音まで聞こえる距離感だ。
「ちょっと陸翔、私ともハグしてよ……」
「海歌なら、あとで何百回でもしてやるよ」
「相変わらず陸翔くんと海ちゃんはラブラブですなぁ!」
そういえば、前にもこうやって、3人でハグしたよな……泣いていた海歌に、俺と空音で寄り添った、あの日の思い出が蘇る。
――なんか俺たち、家族みたいだな。
「空ちゃんも息抜きが必要ってことね。じゃあ、冬休みに3人でどっか行かない?」
話は、空音のお悩み相談から、一か月後に迫った冬休みのお出かけ先に移った。
「何か案ある人~」
「はい、はい! クリスマスシーズンにイルミネーション見に行きたいです!」
「お、いいな。冬の定番のお出かけ先って感じだな」
「でも、クリスマスシーズンだと混むかな……」
「いいじゃん!その賑やかさも、楽しみの一つってことで!」
「じゃあ、イルミネーションを見に行くで決定だな。俺は予定は大丈夫だけど、空音は?」
「ウチも大丈夫だよ。24日、25日、どっちも予定空いてます!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誠に勝手ながら、毎日投稿を停止させていただきます。
理由は、最終話までの導線をしっかり書きたいからです!
作品のフォローをして、気長に待っていただけると幸いです。
既に完結までの流れ、下書きはできているので、エタりや打ち切りに関しては問題ありません。




