海!!パート2
「もっと胸を張って、お尻を突き出して……おっけー、イイ感じだよ、海ちゃん!最高にかわいい!セクシー!!」
「はい、チーズ」
空音監督の指示に従い、ポーズを決めた海歌を俺がスマホで撮影する。
唐突に始まったそれは【モデルさんごっこ】である。
「陸翔くん、もうちょっと左に寄ったほうがいいかも。太陽の光の加減と、海ちゃんが真ん中に映って、構図がイイ感じになるよ」
「空音、やけに写真に詳しいな」
「お母さんがモデルやってた時期があったからね。お仕事を間近で見せてもらう機会もあったから、詳しいのかな?」
父親はイギリスの実業家で、母はモデル経験があるらしい空音。一体、空音の家系にはどれほどの逸材が集結しているのだろうか……
気になるところだが、俺はカメラマンの役に徹した。
海のキレイな景色と、美少女二人の組み合わせは最高だ。
青い空をバックに、海歌のスラっと長いシルエットと空音の丸っこいシルエットが映える。言い表すなら、海歌はモデルで、空音はアイドルといったところか。
……うん、目の保養になった。
写真は、あとで3人のグループチャットにアップしておこう。
「ん、なに……?」
海歌と空音が歩み寄ってきた。
海歌は口角を釣りあげていて、空音はニヤニヤしている。なにか企んでいるな。
砂の上に座っていた俺に、どんどん砂がかけられた。
二人は俺を生き埋めにするつもりらしい。
「う、動けない……」
胸元から足先まで砂に埋まった。砂って、意外と重いんだな。
「アハハッ、『R.I.P陸翔』って書いちゃお~♪」
「おーい、俺はまだ死んでな……あはははっ!おい海歌、足くすぐるのやめろ!」
動けないことをいいことに、海歌と空音にやりたい放題にされた。
空音には、安息を祈る文字を書かれ、海歌には足の裏をくすぐられた。
そんなおバカな遊びをしていたら、海歌が唐突に、不穏なことを言った。
「……なんか、波、近くない?」
波が砂浜に打ち寄せる「ザザー」という音がすぐ近くで聞こえる。
その音を聞いて、背筋が凍った。
「これから満潮の時間になるはずだよ。あ、しかも、積乱雲が発達して、雨風が強まるって!」
スマホで天気予報を確認した空音が声を大にする。
何となく察してはいたが、これほど早い時間に天気が崩れるとは、天気予報は言ってなかった。
「ヤバい!陸翔くんを助け出さないと!」
慌てる空音は、穴を掘る犬みたいに器用に両手を使って、俺の上の砂山を崩しにかかった。海歌も、砂をどけるのを手伝っている。
時とともに風が強まり、押し寄せる波が俺のつま先まで達していた。
「は、早く!もうすぐそこまで来てる!本当に死ぬって!」
砂が軽くなったところで、自力で脱出した。危うく、ここが俺の墓場になるところだった。
俺たちは急いで荷物をまとめ、海の家に避難した。風はより強く、そして冷たくなっていた。
「うわ、絶対に雨降るやつじゃん……せっかく早起きして来たのに……」
「しょうがないよ海ちゃん。天気に関しては、ウチらにはどうしようもないから」
俺たちは、これからの行動について話し合った。
「雨雲が近づいてるみたい。雷、突風注意!」
「なら、早めに撤退したほうがよさそうだな。波が高いときの海は危ないし、強い風で電車が止まるかもしれないし」
「陸翔くんの意見に賛成」
「私も。電車が止まって帰りが遅くなるのは嫌だから」
ということで、今日は早めのお開きとなった。
ビーチでバーベキューをしている人々を横目に、俺たちは脱衣所へと向かい、足早にビーチを後にした。
駅に到着したとき、ちょうど雨が降り出した。
土砂降りの雨が、電車の窓を「バチバチ」と激しく打っている。
「バーベキューしてたあの人たち、きっと今ごろ、大変な目に遭ってるね」
「そうね。陸翔の言う通りにしててよかった」
「いやいや、空音が天気予報を教えてくれたから撤退できたんだよ」
「さすが空ちゃん」
「え、えへへ、それほどでも~」
コソコソとお喋りする。
早めの撤退ということもあり、電車内は空いていて快適だ。
「海歌の水着、かわいいよな」
「だよね、陸翔くん。海ちゃん、将来はモデルさんになれるかもよ」
「いやいや、私がモデルなんて……」
海歌のスマホで写真を見ながら、今日を振り返る。
しかし、徐々に口数が減っていった。
ついには海歌がダウン。俺の右肩に、海歌の頭が乗せられた。
「フフッ、海ちゃん寝ちゃったね」
「きっと、久しぶりの遠出で疲れたんだろうな」
「このままそっとしておこう、陸翔くん」
「そうだな」
俺はスマホを見て、空音は分厚い小説を読みはじめた。
(あと6駅で乗り換えか)
俺は電車内の電光掲示板をこまめに確認していた。
しかし、視界がぼやけ始める。
ふと隣を見ると、そこには、海歌の膝の上に頭を乗せ目を閉じる空音の姿があった。
(まずい、俺まで寝たら、乗り換えの駅で降りられない……我慢だ!)
雨が窓を打つ音、電車の心地よい揺れ、1日の疲れ、海歌が隣にいる安心感が、俺を眠りに誘う。
頭が重くなり、体がフワフワと浮いているように錯覚し、目の前の物の輪郭が曖昧になってゆく。
……
「お兄さん、お兄さん。降りなくていいんですか?」
聞き覚えのない声がきこえてきた。
目を開けると、そこには、スーツを着た見知らぬおじさんがいた。
おじさんは俺が目を開けると、カバンを抱えて電車を降りた。
「あ、ヤバ……」
ようやく理解できた。
俺は乗り換えの駅を寝過ごして、終点の駅まで行って、親切なおじさんに起こしてもらったのだ。
「おい起きろ、海歌、空音」
「……うるさい」
「ん~もっと寝たい……」
「寝言言ってる場合じゃないぞ。乗り換えの駅を寝過ごして、終点まで来ちゃったよ」
肩を揺らされてようやく、海歌と空音は目を覚ました。
俺は海歌の手を。
海歌は空音の手を引いて、反対側の電車に乗り込んだ。
「ごめん二人とも……俺が眠っちゃったばっかりに、帰りが遅くなった」
俺が眠りに落ちなければ、こんな遠回りをせずに済んだのだ。
「大丈夫。よく眠れたし、3人で過ごせる時間が増えたってことだから」
「空音は相変わらずポジティブだな」
「あ~頭痛い……」
「気圧のせいかな?ウチ、頭痛薬持ってるよ、海ちゃん」
俺たちは再び電車に揺られ、東京を目指した。
1日中、日の光を浴びていた首元が、ヒリヒリと痛む。
窓の外、雨はすっかり止んでいて、雲間から茜色の空が覗いている。




